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明日の約束

作者: 窒素

三題噺(?)として書いたもので行き当たりばったりな小説であり至らない点が多いです……。

そう遠くない昔、誰かと海を見る約束をした。

「じゃあまた明日」

「この標識が目印だよ」

小学生の時なのか、中学生の時なのか

、それとももっと前の記憶なのかわからない。


そんな曖昧な記憶も高校生になるとさほど気にしなくなっていた。


ある日、俺は部活動に励んでいた。明日からお盆休みなので部活も休みに入ってしまう。そのため、いつもより気合いを入れ活動していたら少し遅くなってしまった。

元々下校時間は早めだったからその点ではまずいわけではないが顧問兼担任の佐伯が時間にうるさいので謝罪もかねて部室の鍵を返しに職員室に行った。


「失礼します、鍵返しに来ました、遅くなってすみません。」軽くノックしドアを開けると 担任と話している女子がいた。

「あぁ、明仁あきひとか。ちょっとこっち来い」佐伯は時間などについて怒ることなく笑って手招きをした。 何事かと思いつつ近寄った。

「彼女、転校してきた谷村千穂さん。今のうちに紹介しておくよ」彼女、谷村千穂が頭を下げる。どこかで見たことがある……。思い当たる節があり、尋ねてみる。

「もしかして美里小の谷村さん……?」

「そうだよ、美里小で同じクラスだった谷村。君は西川明仁君…?だよね?」

そうだ、彼女は小2の時に転校した谷村千穂だ。

「またこの町に来たの?」

「うん、お父さんの都合でね」笑って言う。

「なんだ、お前達知り合いだったのか」担任が尋ねる。

「はい、小学校の同級生です」苦笑しながらこたえる。

「じゃあお前、時間遅いから谷村さん送ってやれ。どうせ休み前だからって長めに部活やってたんだろ?まったく。時間過ぎる前に帰れって行ったのに。」

「わかりました、以後気を付けます、すみませんでした」おとがめは無しのようでうれしい。

鍵を返しさよならを言い谷村を連れて職員室を出る。


外は赤い夕焼けに染められている。そのなかを谷村と歩いて帰る。

田舎の方の学校なので田んぼがいくつかあり、その田んぼの間の道を並んで歩く。

「いつからここに来たの?」

「一昨日から。昨日はお母さんと一緒に学校に行ったよ」

「へぇ~、元気そうでよかったよ」

「そっちこそ」

他愛ない会話をし分かれ道へ来た。まっすぐ行き、信号と標識のある道を抜ければ俺の家がある。

「ここまででいいよ」

谷村はどうやらここで曲がるらしい。

「大丈夫?遠くないか?」

「平気よ。ありがとう」そう言って右へ歩きだそうとしたとき、振り返った。

「そういえばさ、あの約束覚えてる?」

「え?」よくわからない。という顔をする。

「まぁ昔のことだから仕方ないか…。ちょうどこんな風に分かれ道のところでさ。私が『海を見に行こう』って言ったの。覚えてない?」

そういえば、そんな約束を誰かとしていた。

「そしてさ、『じゃあまた明日』って言って」

思い出した!!

「その後に明仁が」

「「『この標識が目印だよ』」って」俺と谷村の台詞が被る。

「そう!覚えてるじゃん!!」

「そうだよ!俺、谷村と海見に行こうって約束してたんだ!!思い出したよ!!なんで忘れてたんだろう?!」

何年かぶりに二人で笑い合う。昔はよくこう笑い合っていた。

「じゃあ、どうする?」

「え」

「明日、その約束を果たそうよ」谷村が笑って言う。

「そうだな!そうしよう!」

同じように笑って言う。

「待ち合わせ場所はどうする?標識が目印(笑)?」

「分かり辛いって。」苦笑しながら言う。

「学校の前で待ち合わせしようよ。一番分かりやすいでしょ」

「そうだな。そうしよう」谷村の意見に賛同する。

「海は…こっからだと少し遠いけど自転車で行けるかな……谷村は自転車ある?無かったら谷村が良ければ後ろに乗ってもらっていいけど…」

「じゃあそうさせてもらうよ」

笑って言う。昔からよく谷村さん笑う。

「じゃあまた明日」

「学校の前で」

手を振り右の道を行く谷村。

手を振り返し谷村が前を向いて歩き出したのを確認し、少し後ろ姿を見送ってから俺も前を向き、まっすぐ歩き出した。

(後半へ続く)

次の日、時間を指定してなかったことを思いだし、慌てて学校へ向かう。服を考える暇もなく制服を着て朝食は軽くすませ適当な理由を伝え家を出る。

おそらく10時くらいだろう。

昔の約束もたしか10時だったと思う。

学校前に着いたのは9時58分。

谷村はいない。

自転車の前のカゴにはなにも入れておらず、財布と携帯、カメラを入れたリュックを背負っている。

……もっと別のものも持ってきたらよかったかな……。

谷村が来る前に一度家に戻ってなにか持ってくるか考えていると谷村が走ってきた。同じく制服である。

時間は10時ちょうど。

「ごめん、待った?時間指定されてなかったからよくわかんなくて」すまなそうに言う谷村に「こっちこそほんとごめん」

こちらも謝る。

「なにか持ってきた?」谷村に聞いてみると「よくわかんなくて…財布と携帯くらいしか……なにか買うなら海の方で買えばいいかなって思って」

「じゃああとは海についてから考えようか」

「そうだね」

「じゃあほら、バック。前に置くから」

「ありがとう。」谷村からバックを受け取り前のカゴに置く。

「じゃあ、行こうか」

谷村を自転車の後ろに乗せ、走り出す。

思ったよりも軽くスムーズに漕げる。


海についた。

「すごいね!!写真とろうよ!」着くやいなやそう言う谷村をみて小さな子どものように思う。まぁ八年前の約束をやっと果たせたのだから無理もないだろう。

「よし撮ろう!」笑ってカメラを向ける。

「せっかくだからツーショットで撮ろうよ」そう言うとカメラをうばい海を背中に写真を撮る。

海の家でアイスキャンディを二つ買い、一つを渡す。

「ありがとう」

海の家の前の椅子に座り、アイスキャンディを食べる。

「一度でいいからこんなことしてみたかったんだよね」

楽しそうにそう言う。

「また来ようよ」

そう返事をすると少し悲しそうな顔をしてでもすぐ笑顔になって

「ほんと?」と問う。

「もちろん」

「ありがとう」そう微笑む。

アイスキャンディを食べ終わり谷村が嬉しそうに言った。

「これってアタリ棒じゃない?!」みると「あたり」と書かれていた。

「ほんとだ、すごいじゃん!俺はハズレだったよ」

「この棒、記念にもらっちゃダメかな?」

「いいと思うよ?」

「じゃあ持って帰る」そう言ってティッシュにくるんでしまう。

「もっと近くで海見てみようよ」

「そうだね」先を歩き出す俺の後ろに着いてくる。

海では小学生の集団が泳いだりしている。

「みんな元気だね」

「そうだな」

「あの時に来てたら同じようにはしゃいでたのかな?」

「かもな」

笑い合いながら歩みを進める。

俺の前を歩き出す谷村は昔、俺たちが小学生の時に流行ってた歌を鼻歌で歌っている。

写真を何枚か撮りながら歩く。


海の近くの店で昼食を食べたり恥ずかしながらプリクラ(一回200円程度の安い所である)を撮ったりする。


デートのようだ。と言われても否定できない……。知り合いに見つかりたくないな……。


「写真現像してくるね」そう言うと谷村は近くのカメラ屋へ入っていった。

谷村を待っていると、

「あれ西川じゃん」声の方を見ると同じく美里小の同級生だった坂口がいた。

「お前、坂口か!久しぶりだな!元気か?」坂口とは中学も同じで今でも連絡をとることがあるが最近はあまり連絡もとっていなかった。

「元気もなにも、今から彼女の誕生日プレゼント買いに行くんだよ(笑)お前はどうしたの?カメラ屋の前にいて」

「今写真を現像してもらってるんだよ」「彼女に?」茶化すように言う坂口に笑って言う。

「違うよ、覚えてるか?小2のときに転校した谷村千穂。一昨日帰ってきたんだって」

その瞬間、坂口は怪訝そうな顔をした。「え?」

「谷村だよ、谷村千穂。同じクラスだったろ?覚えてない?」

「……いや、覚えてるよ。お前、体調大丈夫か?」不安そうな顔をして言う。

「いや別に」

「ならいいけど……谷村…元気?」

「うん、とっても。せっかくだから谷村に会っていったら?」そう提案してみるが坂口は

「いや…悪いけど……また今度な…」青ざめた顔でそう言い自転車をこぎだした 。

おかしなやつだな……。

谷村がカメラ屋から出てきた。

「はい、これ現像した写真」

「ありがとう、あのさ、坂口のこと覚えてるか?」

「坂口って坂口大樹くん?」

「うん、そいつ。今さ、そこで会ったから谷村といること言ったんだけどなんか様子がおかしくて……」

すると谷村は視線を少しそらした、と思ったらまた視線を戻し「坂口くんってほら、久しぶりに人に会うとき緊張したりしてたでしょ?辞めた先生に久しぶりに会うときとか……」

「そういえばそうだったな…上がり症っていうのか?」

「そう、それよ……あと、もしかしたらだけど……」

「何?」

「小2の時に坂口くんに告白されたの」

「はぁ?!」

「断って、その次の日に転校してね……」

「…なんで断ったの?」

「何でだろう……覚えてないや…」

「なにか傷つくような言い方したとか……」

「わからない……まぁ、人の記憶は都合のいいように改竄されるって言うしね……何か都合の悪いことがあったのかな…」

「そうなの?」

「そんなこと聞いた覚えがあるよ」

「ふーん」なんでもないように返事をする。

まだ明るい昼下がり。

俺の心はいつからか曇り始めていた。


帰り道は自転車を押しながら帰った。

「明仁は明日どっか行くの?」

「いや、特に……。お盆休みだけどあまり帰省はしてないよ。谷村は明日予定あるの?」

「私はお祖母ちゃんのとこにいく予定よ」

「そうなのか……」

そんな会話をしながら歩いてると横からボールが飛んできた。「?!」思わず避ける。

しかしそのボールが谷村に当たった。

「大丈夫か?!」

「平気よ。かすっただけだから。それに私、運動部入ってたからなれてる」

たしかに怪我はしておらずボールは手に持っている。あの位置から避けれたのか……。

「ごめんなさーい」横の公園から小学生の一人が来て謝る。

「気を付けてね。車も走ってるから危ないよ。」

「ごめんなさい、気を付けます」そう言って仲間の所に戻る。


学校の前に着き昨日と同じようにまっすぐ歩く。


あの分かれ道が近い。


「今日は楽しかったね」

「……うん」

立ち止まる。なにかつっかかる。

「どうしたの?」

「……人の記憶は都合のいいように改竄されるって言ってたよね?」谷村に問う。

「うん」谷村はこたえる。

「じゃあもしかしたらさ…自分達の記憶も改竄されてるところがあるのかな……?」

「え?」

「いや、なんとなく…」

言葉を濁す。

もしかしたら約束を思い出せなかったことに関係がある気がしたのだ。

今となっては約束を果たしたのだから関係ないが。


「記憶が改竄されるとしたらさ……」谷村が言う。

「八年前のことでなにか、改竄されてるかもしれないよ?」

「え」

「改竄されてたら改竄した自覚があるかわからないけど………」

「そんなことないよ。小学生の時の記憶はいちおうはっきりしてるし、谷村は小2のときに転校したのはたしかだよ。だから約束が果たせなくて…」

「じゃあ私はどこに転校したの?」

「…覚えてない」

思い出せない……いや…。

「……覚えてないんじゃなくて…わからないんじゃないの?」

思い出せないんじゃい。思い出したくないんじゃない……。

もしかしたら

他の可能性があるとしたら


その記憶が誤りだということ。


「…………。」

「だって……私、」谷村はまっすぐ俺の目をみて言った。

「転校なんてしてないもの。」

………思い出したくなかった。思い出したら泣いてしまうだろから。

八年前のことを。

「私、」

それから先は聞きたくない。

でも、聞かなきゃいけない。

八年前の本当の記憶を。

「あの約束をした次の日に」

寂しそうに谷村は言った。

「私はしんだんだよ」

遠くで信号の音楽が聞こえる。


八年前、海を見る約束をし、家の近くの標識で待ち合わせをした。

そのとき遅刻しかけて慌てて家を出た。

10時5分、標識の前の信号まで来た。赤信号なので止まる。

谷村はこちらに気づき笑って手を振る。

俺も笑って手を振り返す。

信号機が変わる時の音楽が聞こえる。


互いに手を振り合っていたからだろうか。

周りをみておらず、横から走ってきた車に気づかなかった。

谷村の右の方から、ブレーキを故障していた車が、標識に突っ込んだ。

辺りで悲鳴や叫び声が上がる。しかしそのなかに谷村の声は聞こえない。

谷村は即死だった。

俺は泣きながら両親や友達に「谷村は死んだんじゃない。転校したんだ」と言った。

以来、俺はすっかり、谷村は転校したからいない。

そう記憶を改竄していたのだ。

「俺があの時、時間通りに着いていれば……谷村は死ななかった……」

「……もうお別れだよ……次に目を開けたら明仁は私と会う前、お盆休み前の部活を終えたところ。部室にいるよ……記憶も全部あの時に戻る……。」

「そんなことしたら…約束をまた果たせないままじゃないか」

「大丈夫だよ……その約束も遠い記憶に戻るから……悲しいことなんて…ないよ……」泣く俺の頭を泣きながら撫でて言う。

「だって職員室で私のことみたとき、私だって分かってくれたよね。高校生の姿だった私を……。きっと、何かの拍子で私のこと、思い出してくれると信じてるよ。転校したと思ったままでいいから……約束を思い出したら、海を見に行ってくれる?」

両手で頭を抱え、額と額をコツンと、くっつける。

「……うん」

「きっとよ」

「………必ず」

泣きじゃくる俺を慰めるようにわしゃわしゃと両手で頭を撫でる。

「…ありがとう。」

数歩、後ろに下がる。

谷村はすでに消えかけている。向こうの風景がみえる。

最後に叫んだ。

届くかわからない。

だけどどうしても言いたい。

伝えたい。

「………俺は、」

谷村がこちらに目をむける。


「君が好きだった。」

谷村が笑った気がした。

口を動かしたのがわかったが、なんと言ったのだろう?

「谷村、ありがとう……ありがとう…!!」

そう言うと、谷村は微笑んで

分かれ道へ消えていった。




目をあけると一人、部室にいた。

何をしてたんだっけ……?

時間が過ぎてることに気づき慌てて鍵を返しに行く。

学校を出て、田んぼの間の道を歩く。



「ずっと、見守ってるよ」


どこかで声が聞こえた気がした。

誰の声だっけ?

どこか、遠い記憶。

その声を聞いたことがある。


標識の横を通り、横断歩道をわたり、立ち並ぶ店の横を通る。店から流れてくる10年前くらいの歌が聞こえる。

小学生の時に流行ってた歌だ。

どこかで誰かが歌っていた気がする。

すれ違った人?

家族?

友達?

自分?


家につきポケットに手をいれ鍵を探す。

するとなにやら小さく長いものがある。

取り出すとそれはティッシュにくるまれていた。

開けてみるとそれはアイスバーのような、アイスキャンディのような。

いわゆるアイスの棒だった。

「アタリ」と書かれている。

「アタリ棒」というやつだ。

でもなんでこんなものがポケットに入ってたんだろう……?食べた覚えがない……。

部活の仲間が休み時間にでもいたずらでいれたのか?

……また次の部活で聞いてみよう。


お母さんが帰ってきて、お父さんも帰ってきて、夕飯を食べたあと、お母さんはしばらくやっていなかったアルバムの整理を始めた。お父さんは風呂に入った。

部屋に戻り明日の準備をする。


アルバムを整理していた母が呟く。「あら…これはたしか……明仁が小学生のときの…懐かしいわね……こっちは………千穂ちゃん………。…明仁に言った方がいいのかな………」



その頃、明仁はリュックの中に一枚写真が入ってたことに気づいた。


海を背景に笑いあって写る二人の男女。


自分とあとは誰?

制服の上着のポケットを探ってみると撮った覚えのないプリクラ写真がある。

こちらにも同じ男女がいる。

自分とあとは誰?

よく見てみると「明仁・千穂」と書かれている。

写真の裏を見てみると

「西川明仁・谷村千穂」

と書かれている。



悩んだ母がリビングの机に置いた写真。

小学生二年生のとき、谷村千穂と西川明仁が写った写真。


急いでリビングに降りて来た西川明仁がその写真見つけて泣き出すのはいつ?

西川明仁が約束を思い出すのはいつ?



海まで自転車を走らせる。

遠くで信号機の音楽が聞こえる。


分かれ道のないまっすぐな道。


海へ着くと俺はカメラを取りだし海へ向け写真を撮る。


海を背景にしカメラを自分に向ける。


「約束を果たしに来たよ。谷村。」


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