戦闘狂と呼ばれる王子様との婚約を嫌がった王女様と顔が似ていたので身代わりで婚約させられました〜偽物だとバレているはずなのに溺愛されています〜
ちょっと長いです。
13,600字です。
よろしくお願いします。
視点がちょこちょこ切り替わります。
読みづらかったらごめんなさい。
侍女の私がザルトア王国のコーネリア王女としてドーハ帝国のラキウス殿下と婚約だなんて、どうしてこんな事にぃーーーーい!
叫ぶ私を乗せて馬車はドーハ帝国に向かってひた走る。
私はコニー・パモット男爵令嬢。貧乏男爵家の三女だ。学院を卒業後、仕事を探して王都に出てきた私の元に王宮の侍女長がやって来て侍女にならないかって。
おかしいと思ったんだよ?田舎から出てきたばかりの男爵令嬢を破格の待遇で王宮の侍女として雇ってくれて、しかも王女様付きだなんて。
王女様に初めて会った時、驚いたわ。王女様の顔が私とよく似てるんだもの。
「お前が新しく入った侍女ね。わたくしがコーネリアよ」
「コニー・パモットと申します。本日よりお側に仕えさせて頂きます。よろしくお願いします」
「そ。わたくしの好きな物や好みを早く覚えるのよ。それから馬鹿は嫌いよ。教師を付けるから勉強なさい」
「は、はい。かしこまりました」
王宮の侍女は教養も必要ですとか言ってさ、仕事もせずに毎日勉強ばかりさせられてた。
侍女長に仕事はしなくていいのかと聞いたら『コーネリア様のご命令です。お前は勉学に励みなさい』って。
いろんな事をみっちり叩き込まれましたよ。高位貴族並みの教養と礼儀作法を。それからドーハ帝国の言葉も日常会話くらいはできるようにって言われて寝る間も惜しんで勉強したわ。
この時に気付けたら良かったのに…。
その結果がこれですよ。コーネリア殿下の身代わりとして戦闘狂と呼ばれるドーハ帝国の第二王子ラキウス殿下と婚約とかありえないんですけど。
事の発端は私が侍女として雇われる少し前に、ドーハ帝国とザルトア王国の友好の証しとしてラキウス殿下とコーネリア殿下の婚約が決まったのだ。
ラキウス殿下は戦になると周りにいる動く者は全て殺すと言われる程、残酷な男だと噂されている。それを聞いたコーネリア殿下が婚約を嫌がったのだ。
『戦を好み、戦闘狂や血塗れの狼などという異名を持つ男との婚約なんて絶対に嫌よ。どんなに醜い男か知れたものじゃないわ』
国を守る為には大国であるドーハ帝国との婚姻は欠かせない。だが、娘が可愛い国王は身代わりを立てる事を思いついた。そんな時に侍女長が偶然、コーネリア殿下に似た私を見つけ身代わりにする事を決めたのだと。
身代わりがバレたら国を守るどころの話じゃないって事ぐらい分からないのかな?国王は馬鹿だ、きっと。
たけど、王宮侍女は花形職だ、将来安泰だと喜んで王城に向かった私も馬鹿だった。
そして一年間の教育を終え今日、私は出荷されたのだ。結婚式はまだ先だが早めにドーハ帝国に来て、こちらの国に慣れて欲しいというラキウス殿下の希望らしい。
コーネリア殿下のお下がりのドレスを着せられ馬車に押し込められた。馬車の周りはやたら騎士に囲まれていて、護衛というよりは私が逃げ出さないかの見張りだろうな。
七日余りの旅を終え無事ドーハ帝国との国境に到着した。国境までラキウス殿下が迎えに来てくれている。
ラキウス殿下は馬車の扉を開けエスコートの手を差し出してくれた。その手に手を乗せて馬車から降りる。
「初めましてラキウス殿下。ザルトア王国、第一王女コーネリアでございます。国境まで迎えに来て頂きありがとうございます」
私がカーテシーをしてラキウス殿下に挨拶をすると殿下は固まっていた。…もう私が偽物だってバレた?
私が密かに冷や汗を垂らしているとラキウス殿下が漸く言葉を返してくれた。
「ようこそドーハ帝国へ。私が貴女の婚約者のラキウスだ。よろしく頼む」
「はい。こちらこそ末永くよろしくお願いします」
にっこりと笑って返すと、またラキウス殿下が固まった。なんだろ?私、何か変な事したかなあ?
ここで、ザルトア王国の騎士たちは帰され私一人になる。ザルトア国王は私に侍女の一人も付けてくれなかったのだ、ケチ。
ラキウス殿下と同じ馬車に乗り帝都に向かう。馬車には殿下の側近とドーハ帝国の侍女さんが側に付いてくれた。名前は側近の人がラジールさんで、侍女はアイラさんだって。
王女のはずなのに侍女の一人も付かず荷物も最小限。だけど、ラキウス殿下は何も聞かない。戦闘狂だとか言われてるみたいだけど、ラキウス殿下の事は不思議と怖くなかった。
引き締まった体躯、深い青の瞳、緩く波打った金色の髪は柔らかそうで。噂とは裏腹に優しそうに見える。
こんな人を騙してるなんて私は罪悪感に潰されそうになるけどバレちゃ駄目なんだ。ザルトア王国には私の家族がいる。私がしくじったら家族の命はない。もう一度決意を新たにした。
緊張と強行軍でここまで来たから疲れていた私は、乗り心地の良い馬車の揺れにいつしか眠ってしまっていた。
ー ◇ ー
馬車から降りてきたコーネリア姫は俺の知っている王女ではない。俺の知っている王女は傲慢で身分で人を見下す最低な女だった。彼女の様に物腰柔らかく、迎えに礼を言うような女ではなかった。
顔はコーネリア姫だが、まとう雰囲気が違い過ぎる。
コーネリア姫は疲れからか馬車の中で眠ってしまった。城に着いてもまだ起きない姫を抱き抱える…軽い。
姫をそのまま俺の部屋の隣に運ぼうとしたら侍女のアイラに止められた。
「何しれっと王子妃の部屋に運ぼうとしてるんですか。客室に運んで下さい」
「…はい」
客室のベッドに寝かせ、後の事はアイラに任せて部屋を出る。その後、執務室に戻るとラジールが待っていた。
「コーネリア殿下はよく眠られていましたね」
「ああ。余程、疲れていたんだろう」
「それにしても、ザルトア王国は娘に侍女の一人も付けないとは、よほど困窮しているのでしょうか?」
「いやそうではないだろう。おそらく彼女はコーネリア王女本人ではない」
「何故分かるのですか?」
「本物の王女を一度見た事がある。とても傲慢な女だった。だが彼女は違う」
「偽物を送ってきたのでしょうか?まさかラキウス様を狙う暗殺者では?」
「違うだろうな。彼女の手は仕事をしている人間の手だった」
「それでは何故?」
「恐らく、よほど俺と結婚したくなかった王女が使用人を王女だと偽って送ってきたのだろうさ」
「これはザルトア王国に侵攻するよい口実になるのでは?」
「しない。俺はあの高慢ちきな女と結婚しなければならないと落ち込んでいたんだ。それがこんな可愛…んんっ、穏やかな姫が来るとは」
「ラキウス様、正直におっしゃって下さい。あのコーネリア殿下を可愛いと思われたんですね?」
「可愛いだろうが!」
ジラールがため息を落とす。
「まったく。女性に免疫が無いとこうなるのか…。戦場ばかり行かず、もう少し社交界にお出になって下さい。ラキウス様の顔は悪くないんですから」
「仕方ないだろう。女性の相手をするより戦っている方が楽だからな」
「だからですよ。ラキウス様の二つ名をご存知ですか?戦闘狂だの、血塗れの狼だの、碌なのがありませんね」
「俺が付けたんじゃない」
「まあ、良いですけど。それであのコーネリア殿下はどうされますか?」
「どうって、結婚する?」
「そうではなくて、コーネリア殿下が本当は誰なのか調べなくて良いんですか?」
「そうだな。ラジール頼めるか?」
「はい、すぐに調べて参ります」
一礼をしてラジールは部屋を出ていった。あいつに頼んでおけば大丈夫だ。もし彼女が王女で無かったとしても構わない。俺が守る。
ー ◇ ー
目が覚めたら天幕付きのベッドに寝かされていて驚いた。服もナイトウェアに着替えさせてくれている。
「ここ、どこ?」
「おはようございます。お目覚めですか?コーネリア殿下」
「アイラさん…」
「アイラとお呼び下さい。すぐ朝食をご用意しますね」
そう言ってアイラはワゴンに乗せられた料理をテーブルの上に並べた。
「あの…私…」
「お疲れでしたのね。馬車の中で眠られて朝までお目覚めになられなかったので心配しました」
「ごめんなさい。心配を掛けました。それで…誰がここまで…」
「ラキウス様が運んでくださいましたよ」
「ラキウス殿下が?」
「はい。それはもう嬉しそうに抱き抱えておられましたね」
わぁーーーーーーーーーーーっ。
ラ、ラキウス殿下に抱き抱えられて?恥ずかし過ぎる!重くなかっただろうか私…。
「後でラキウス殿下にお礼を言わなくちゃ」
「そうですね。それが宜しいかと」
テーブルに着くとアイラがお茶を淹れてくれる。
「ありがとう」
「いえ、どうぞ」
温かいお茶でほっとする。この国で私がやらなければならない事を考えてみる。
私の役目はラキウス殿下と親交を深め無事に結婚までもっていく事。それからザルトア王国に恒久的な援助の約束を取り付ける事。
…こんなの男爵令嬢の私の仕事じゃないわ…。
「どうされました?お茶がお口に合いませんでしたか?」
「いえ、お茶はとても美味しいわ」
「コーネリア殿下、お食事が終られましたら少し城内をご案内いたしましょうか?」
「ええ、お願いできますか?」
「はい」
アイラに気を使わせちゃったかな。暗い顔してちゃ駄目だよ、笑顔よ笑顔。
食事が終わり、シンプルなドレスに着替えてアイラに城内を案内してもらう。
アイラの後ろを付いて行く。アイラが色々と城内の説明をしてくれる。中庭に差し掛かった時、後ろからアイラを呼ぶ声がした。
「アイラ侍女長!こちらにいらしたんですね」
「ハンナ、城内を走っては駄目よ」
「申し訳ありません」
「それで用件は何かしら?」
「はい、料理長が晩餐のメニューの件で確認したい事があるので至急来て欲しいとの事です」
「…困ったわ、私は今コーネリア殿下に城内をご案内しているのよ」
「ですが、料理長も急いでいまして…」
「アイラ、行ってあげて。私、ここで待ってるから」
「ですが…」
「大丈夫よ。城内だもの」
「分かりました。すぐに戻ります。ここで少しお待ち下さい」
「ええ」
アイラはハンナと調理場に向かった。
辺りをキョロキョロと見回して誰もいない事を確認する。中庭を見てからずっとウズウズしていたのだ。
「ちょっとだけだから…」
中庭の芝生の上に寝転がる。領地にいた頃はよく草の上に寝転んだものだ。だから懐かしくなってしまった。
「…帰りたい…な」
芝生の匂いが家を思い出させた。
「どうした!倒れたのか?怪我は?」
大きな声が聞こえて、体を起こすとラキウス殿下が青い顔をして走ってくるのが見えた。
「ラキウス殿下」
「コーネリア姫、大丈夫か?」
その慌てっぷりが面白くて笑ってしまう。
「大丈夫ですよ?芝生が気持ち良さそうなので、つい寝転んでしまいました」
「寝転んで?」
し、しまった!王女が芝生の上に寝転ぶなんてありえない事をしてしまった!誤魔化さなきゃ!
「あ、あの!ラキウス殿下、昨日は私を部屋まで運んで下さりありがとうございました」
「いや、大したことじゃない」
そう言ってラキウス殿下も私の隣に腰を下ろした。
「私、重かったでしょう?」
「羽根のように軽かったぞ。もっと食べないと」
「食べてますよ、大丈夫です」
ラキウス殿下は芝生の上に寝転んだ。
「あー確かに気持ち良いな。コーネリア姫も、もう一度寝転んだらどうだ?」
「私もですか?」
お言葉に甘えて、もう一度寝転んでみた。
「コーネリア姫…コニーと呼んでも良いだろうか?」
「ええ、どうぞ。お好きにお呼び下さい」
コニーはコーネリアの愛称でもあるが私の本当の名前でもある。コーネリアと呼ばれるよりずっといい。
「では、俺の事はラキと呼んでくれ」
「ラキ様…ですか?」
ラキ様は私の方を向いて顔を真っ赤にして固まってしまった。
「ラキ様?」
「…効く…効き過ぎる…」
「は?」
「何でもない」
ラキ様は顔を背けてしまった。
暫くするとラキ様から寝息が聞こえてくる。その規則正しい呼吸音を聞いていると私も眠くなってきた。
「ラキウス様!何をなさっているのですか!」
「いや、俺は何も」
「コーネリア殿下を巻き込んで芝生でお昼寝とは!」
「そっ、それは!」
「言い訳は結構!淑女になんて事をさせるのですか!」
アイラのラキウス殿下を叱る声が聞こえて目を覚ました。
「アイラ?」
「コーネリア殿下、申し訳ありません!私がお側を離れたばかりに」
「大丈夫よ。ラキ様を芝生のお昼寝に誘ったのは私よ」
「えっ?コーネリア殿下が?」
「ええ、気持ち良かったわ。アイラもどう?」
「…いえ、私はご遠慮致します」
ラキ様が手を差し出してくれたので、手を取って立ち上がらせてもらう。
「それじゃあ俺は仕事があるから。またなコニー!」
ラキ様は逃げるように走り去った。アイラが怖いのだろうか?
「コーネリア殿下、ラキウス様を庇っていませんよね?」
「ごめんなさい。本当に私が先に芝生に寝転がったの」
「そうですか。でも淑女にあるまじき行為、お控え下さいね」
「…はい」
ラキ様が逃げるのが分かるわ〜。確かにアイラは怖いわね。
「随分とラキウス様と仲良くなられた様で、よろしゅうごさいました」
「そ、そう?」
改めてアイラに城内を案内してもらった。
翌日、王妃様からお茶の誘いがあったので私の持って来たドレスの中で一番まともな物を選んで、アイラにこれで行くと言うと目を丸くし慌てた様子で部屋から飛び出して行った。
城内を走っちゃいけませんよ〜、と思ったのは内緒。
アイラはラキ様を連れて戻って来た。
「これは酷いな」
「申し訳ありません。お衣装の片付けは侍女達に任せておりましたので気付くのが遅くなりました。私の責任です」
ラキ様とアイラは私の衣装を見てため息をついていた。
「アイラ、どうしたの?私のドレスが変なのかな?」
「そうではありません。お衣装は質の良いものですが全て型遅れなのです。私が気付くべきでした。申し訳ありません」
「アイラが謝ることじゃないわ」
王女様は自分の要らないドレスを私に持たせたのだから型遅れでも当然だわ。
「今日は母上とのお茶会だったな。お茶会は明日にしてもらって、今日はコニーのドレスを仕立てよう」
「私、このドレスで大丈夫だよ」
「コーネリア殿下、それはいけません。これはコーネリア殿下だけでなくラキウス様の沽券にも関わります。婚約者の衣装も揃えられないのかと」
ラキ様の体面を保つ為にもドレスを作らなきゃいけないのか。王族って大変だ。
「分かりました。ラキ様、よろしくお願いします」
さして時間を置かず仕立て屋が沢山のドレスを持ってやって来た。客室はドレスで埋め尽くされている
ソファにラキ様と並んで座り、対面に仕立て屋が座った。
「ラキウス殿下、ご用命頂きありがとうございます。ご婚約がお決まりとの事、おめでとうございます。本日は当店自慢の品をお持ちしました」
「急で悪かったな。今日は少し無理をお願いするが大丈夫か?」
「はい、ラキウス殿下の為でしたら。いくらでもお申し付け下さい」
ラキ様は私の方に向いて話す。
「取り敢えず、明日の母上とのお茶会には既製品に手を入れて間に合わせよう。まずは普段着を二十着、夜会用を五着。後は追々揃えていこう」
「はい」
「まずは母上とのお茶会用のドレスだ」
目の前に既製品だというドレスが並べられる。どれも高級品だ。貧乏男爵家の我が家では絶対に買えない品ばかりだ。
「そうだな…その青いドレス。コニーに似合いそうだ。それをベースに金の刺繍を入れてくれ」
「ラキウス殿下の紋様でよろしいですか?」
「そうだ。それから宝飾品はこれを」
う〜ん、私ここにいる必要あるのかなあ?ドレスはラキ様がどんどん決めてしまって、私は見ているだけだった。
仕立て屋は翌日には青いドレスの刺繍を仕上げて届けてくれた。
それに着替えて髪を結ってもらい、王妃様とのお茶会に向かう。ドレスを着て部屋を出たら何故かラキ様がいた。
「コニー、よく似合っている。やはり君は青がよく似合う」
ラキ様はうんうんと頷いている。
「ラキ様、こんな素敵なドレスをありがとうございます」
「当然の事をしたまでだ。母上との茶会を楽しんでくるといい」
「はい」
ラキ様にエスコートされ、王妃様とのお茶会の場まで行く。
「ラキ様、お仕事はよろしいのですか?」
「婚約者をエスコートするんだ。仕事なんて後回しでいい」
「ふふっ、ありがとうございます」
お茶会は王妃様の部屋のテラスで行われる。ラキ様がドアをノックした。
「母上、コーネリア王女を連れてきました」
ドアが開いて、一人の女性が顔を出した。凄く綺麗な人、まさか王妃様本人?
「あら、ラキウスも来たの?今日は貴方は呼んでないわよ」
「ここまで案内してきただけです。母上のお邪魔をするつもりはありませんよ」
「そう?早くコーネリア姫を中に入れてちょうだいな」
「初めまして、王妃陛下。ザルトア王国、第一王女コーネリアでございます」
あれ?私が挨拶すると王妃様も固まってしまったわ。なぜ?
「…ようこそドーハ帝国へ。コーネリア姫。わたくしがラキウスの母のヴィクトリアよ。さ、早く中へ入ってちょうだい」
「さ、コニー行っておいで」
「はい、ラキ様。ここまで案内して下さりありがとうございました」
ラキ様は手を振りながら歩いて行った。
王妃様の部屋に入るとテラスに案内される。テラスにはラキ様によく似た男性が立っていた。
「コーネリア姫、彼はわたくしの夫レオナルドよ」
王妃様の夫って皇帝陛下じゃないの!私は慌ててカーテシーで挨拶をする。
「帝国を照らす永遠なる太陽。皇帝陛下にご挨拶申し上げます。ザルトア王国、第一王女コーネリアにございます」
「よいよい。コーネリア姫の顔を一目見たかっただけなのだ。ヴィーとの茶会を楽しんでくれ」
「はい、ありがとうございます」
それだけ言うと皇帝陛下は部屋を退出された。
「さあ、座って座って。貴女とお茶出来るのを楽しみにしていたのよ」
「はい、ありがとうございます。私も王妃様とのお茶会が楽しみでした」
席に着くとお茶がサーブされ、目の前には見た事もないお菓子のタワー。
「わあぁ…すごい」
「貴女のために作らせたのよ。たくさん食べてね」
「はい、ありがとうございます」
お菓子を一つ取って食べるともちろん美味しい。
「お、美味しい!」
「そうでしょう?うちの料理長自慢のお菓子よ。喜んでもらえて嬉しいわ」
「いえ私こそありがとうございます」
王妃様はお茶を一口飲んでカップをソーサーに戻した。
「ねえ、コーネリア姫。貴女、ラキウスと仲が良いのねえ。貴方のドレスも青に金の刺繍が入ってるし、愛称で呼び合うなんて焼けちゃうわ。ラキウスの事、好き?」
王妃様の質問にびっくりしてお茶を吹き出しそうになるのをぐっと堪える。
「おっ、王妃様、いきなり何を!」
「だってぇ。母親としては気になるじゃない?ねえ、ラキウスの事好き?」
私はカップを置き、表情を引き締めて答えた。
「…優しい方だとは思います。まだ会って数日です。好きか嫌いかと問われれば好きだと答えると思います。でも、これが恋愛感情なのかは、まだ分かりません」
すると王妃様はにっこりと笑った。
「貴女って正直ねぇ。嘘でも好きって言っておけば良いのに、そうは言わなかった。わたくし貴女が気に入ったわ」
「私は王妃様に気に入ってもらえる様な人間ではないです」
「そう?でもそれはわたくしが決める事よ」
私は居た堪れなくなって笑って誤魔化した。
「ラキウスは戦場にばかり出ているから、妙な呼び名を付けられているけれど本質は優しい子よ。あの子の事をお願いね」
「…はい。王妃様」
それから王妃様はラキ様の子供の頃の話をたくさん聞かせてくれた。小さい頃は虫が怖かったとか、人参は今でも嫌いだとか。ラキ様のお話を聞かせてもらってお茶会は終了した。
ー ◇ ー
お茶会が終わってすぐ母上が俺の執務室に飛び込んできた。
「ラキウス!あの子、本当にコーネリア姫なの?」
「母上もそう思いましたか?」
「わたくしも一度、コーネリア姫に会った事があるけれど小生意気な娘だったわ。でも今日のあの子はまるっきり別人だわ」
「恐らく母上のお考え通りですよ」
「あの子は偽物なのね」
「はい。彼女の事を調べさせていたラジールが間もなく戻ります。それで彼女が何者か分かるでしょう」
俺の言葉を証明するようにドアがノックされラジールが入って来る。
「ラキウス様…と王妃様。ただいま戻りました」
「ご苦労だった。それで結果は?」
「はい、こちらにまとめてあります」
ラジールが数枚の書類を差し出して来た。それを受け取り目を通す。
「ラキウス、なんて書いてあるの?」
「彼女は、コニー・パモット男爵令嬢だそうですよ。やはりコーネリア王女が俺との結婚を嫌がり、自分に似た彼女を代役に仕立てた様です」
「そう…」
「母上、俺は彼女が誰であれ妻に迎えるつもりです」
「それで良いのね?」
「はい」
「貴方の気持ちは分かったわ。でも帝国としてザルトア王国のした事は許せるものではないわ」
「母上、書類にはまだ続きがあります」
「何なの?」
「ザルトア王国にはコーネリア王女の病弱な双子の姉アナスタシアが居るそうです。アナスタシア王女は王宮の奥深くで療養していたが、王女の体か回復した為、第一王女として復権したそうです」
「ふふっ、面白いわね。では我が国にいるコーネリア姫は本物…と言う事ね。ザルトア王国にいるのは双子の姉のアナスタシア王女…ね?」
「コーネリア王女が表に出る為にアナスタシアと名を変えたのでしょう」
母上は口の端を持ち上げて笑う。
「母上、顔が怖いですよ」
「うるさいわよ、ラキウス」
こういう顔をしている時の母上には逆らわない方がいい。
「ねえ、ラキウス。あの子が本物の王女なら嫁入りの荷物が少ないと思わない?アイラから聞いているわ。あの子碌なドレスも持っていなかったって。宝飾品は無いに等しいとも」
「そうです。それで取り急ぎ俺がドレスを用意しました」
「それが貴方の執着心まみれのドレスって訳ね」
「それで、母上は何をするおつもりですか?」
「ふふん、あの子を立派な王女にするだけよ」
母上が何を考えているかは分からないが、コニーにとって悪い事にはならないだろう。
母上を怒らせたザルトア王国の国王は大馬鹿者だ。
ー ◇ ー
今日は昼食を一緒に取ろうとラキ様からお誘いがあり食堂に来ていた。丸い小さなテーブルを挟んでラキ様が座っている。
テーブルの上には私の好きな料理が一面に並んでいた。
……これは、私がコーネリア王女じゃないってバレてるわ。だって、王女様がこんな物を食べるわけないもの。この料理は私の実家の男爵領の庶民料理なんだもの…。
あーあ…私、失敗しちゃった。この事をコーネリア殿下に知られたら私の家族の命が無くなる。
ごめんね、お父さん、お母さん、お姉ちゃん達…。私がコーネリア殿下の身代わりなんかになったから…。
テーブルの上に涙の染みができる。
「どうした?コニー。料理が嫌いだった?」
「ちっ、違うんです。ごめんなさい。ごめんなさい。ラキ様、私、コーネリア王女じゃ、ない…。王女じゃ…ないんです…ごめんなさい!」
ラキ様は立ち上がり私の前に来て跪いた。
「最初から知っていたんだ。君がコーネリア王女じゃないって」
落ちていた涙がぴたっと止まった。
「知って…いた?初め…か…ら?」
「一度だけ、本物のコーネリア王女を見た事があるんだ。お忍びでザルトア王国に行った時、街で子供がコーネリア王女の馬車を止めてしまったんだ。彼女はすごい剣幕で喚き散らし子供を鞭打っていた。だから、君が王女じゃないってすぐに分かった」
「それならどうして、今日まで優しくしてくれたんですか?」
「コニーが…好きなんだ。だから婚約者のままでいて欲しかった」
「でも、私は本物の王女様じゃない。男爵令嬢なんです。身分が違いすぎます」
「大丈夫だよ。ちょっと事情が変わって君は今本当にコーネリア王女なんだ」
「意味が分からないのですが…」
「簡単に説明すると、本物のコーネリア王女はザルトア王国で君の双子の姉アナスタシアだと名乗っているんだ。だから君はコーネリア王女、本物のコーネリアはアナスタシア王女だ」
「そんな…」
「そこでね、母上がコニーが本物の王女ならば嫁入りの荷物くらいちゃんと持たせろと抗議しているんだ」
「王妃様が…」
「ザルトア王国からどんな返事が来るか楽しみだね」
「私は今のままでも…」
「それは母上が許さないだろうね。後、コニーの家族は我が国への移住を進めているんだ。ドーハ帝国に来てしまえば、アナスタシア王女も手を出せないだろう?」
「私の家族の事まで…。ありがとうございます、ラキ様」
ラキ様は咳払いを一つして。
「コニーは俺の婚約者継続という事で良いかな?」
「はい、ありがとうございます」
「さあ、昼食を食べよう。コニーの好きな料理を作らせたんだ」
ラキ様は席に戻り、二人で食事をする。久しぶりに食べた故郷の味は少し塩っぱかった。
数日後、ザルトア王国から返事が届いたとの事でラキ様の執務室に来ている。ザルトア国王からの手紙の内容はとても図々しいものだった。
コーネリアの嫁入り道具は、財政が厳しいので少しづつ送るからそれで許して欲しい。更にコーネリアと結婚するのならザルトア王国に恒久の支援を約束しろ、と。
「ザルトア王国の国王は豪胆なのか、馬鹿なのか分からんな」
「多分、後者だと…」
「コニーも中々言うなあ」
「だってそうでしょう?王女が嫌がったからって国同士の大事な契約に偽物を送り込むような王様なんですよ」
「ははっ、それもそうだ。でも、そのお陰でコニーと会えた」
「ラキ様…」
何となく甘い雰囲気になりかけた時、アイラの咳払いが聞こえた。
「コホン、ラキウス様。陛下がお呼びです」
「…ちっ、良いところを邪魔して…。分かったすぐに行く。コニー、また後で」
「はい、いってらっしゃいませ」
ラキ様が執務室を出て行かれたので私も自分の部屋に戻ることにした。アイラが部屋まで付き添ってくれる。
「アイラ、ごめんね。私、本物のコーネリア王女じゃないの」
「謝らなくて大丈夫ですよ。ラキウス様から聞いておりましたから」
「私、ただの男爵令嬢なんだよ?いいの?」
「はい、ラキウス様が選んだ方ですから」
「ありがとう…」
皇帝陛下にも王妃様にも私のした事は咎められなかった。若干、王妃様が楽しそうなのが怖い。
そして、一ヶ月後に婚約披露パーティーを開催する事が決まった。招待客は帝国内の主だった貴族とザルトア国王とアナスタシア王女。
婚約披露パーティーまでの間、王子妃教育を受けつつ、ラキ様とお忍びで街に出かけたり芝生に寝転んでお昼寝したり。偶に国境辺りの小さな小競り合いにラキ様が出陣される事はあったけれど、それ以外は穏やかな時間を過ごす事が出来た。
またたく間に一ヶ月が経ち、婚約披露パーティーの日だ。もちろん私のドレスはラキ様の色。ラキ様も私の色を身に着けている。
「コニー、綺麗だ」
「ラキ様も素敵ですよ」
アイラに綺麗に仕上げてもらい、後はパーティが始まるのを待つだけ。
夜の帳が降りる頃、婚約披露パーティーが始まる。会場の端にアナスタシア王女とザルトア国王の姿も見えた。このまま何もしないで帰って欲しい。
皇帝陛下が壇上に立たれて、ラキ様と私も壇上に上がり皇帝陛下の横に並ぶ。
「我が国の第二王子ラキウスとザルトア王国の第二王女コーネリアの婚約を発表する。若き二人に祝福を。そしてザルトア王国と我が国の友情が長く続くよう望む」
会場から拍手が上がる。
ラキ様に手を取られホールの真ん中で踊りだす。私達のファーストダンスに続き皆がダンスを始める。
ラキ様を見たアナスタシア王女の驚きと嫉妬の混じった表情が見える。私を見る目が怖い。
「大丈夫だ。俺がいる」
「はい、ラキ様」
婚約披露パーティーは何事も無く終わり、招待客の見送りを済ませて部屋に戻る。
「ラキ様、先に部屋に戻っていますね」
「ああ、俺も後で行く。待っててくれ」
この時、態と一人になる。これも作戦の内だ。何も無ければ良いが仕掛けてきたら、その時がアナスタシア王女の最後だ。
廊下を歩いていると、後ろから口を塞がれ空いている客室に連れ込まれた。乱暴に床に投げ捨てられる。その私の前に立ったのはアナスタシア王女だ。
「随分と幸せそうじゃない。コーネリア、いえコニー?」
「アナスタシア王女…」
「それに何?そのドレス。私より良いものを着ているなんて許せないわ」
アナスタシア王女は持っていた扇子で私の頬を打つ。
「ラキウス様だってあんなに素敵な方だなんて思わなかった。お前の様な偽物には相応しくないわ。お前が今居る場所は本来なら私が居るべき場所、返してもらうわよ」
アナスタシア王女が合図を送ると側にいた侍女二人に起こされてドレスを脱がされ宝飾品も全て外される。
私のドレスをアナスタシア王女が着て、私はアナスタシア王女のドレスを着せられた。
「ふふっ、なんて素敵なドレスなんでしょう。この青いネックレスもまるでラキウス様の瞳みたい。ほら貴女より似合うでしょう」
私のドレスを着て宝飾品を着け、私と同じ髪型に整えたら目の前にいるのはコーネリア王女だ。
「このまま、お前はザルトア王国にアナスタシアとして帰りなさい。私がコーネリアとしてラキウス様と結婚するわ。お前達、その娘が逃げ出さない様に見張っていなさい」
アナスタシア王女が部屋を出ていく。ラキ様、気付いてくれますよね…。
ー ◇ ー
アイラが青い顔をして駆け寄ってくる。
「ラキウス様、先程からコーネリア殿下のお姿が見当たりません」
「あの女狐が動いたか。ラジール、全ての騎士に命じろ。全ての部屋の捜索と城から誰一人として出すなと」
「はっ!」
「アイラ、陛下と王妃陛下にも連絡を」
「はい、かしこまりました」
恐らくコニーはまだ城の中にいる。アナスタシアはコニーと入れ替わりコーネリアとして俺に近付いてくるはずだ。俺は黙って獲物が網に掛かるのを待てばいい。
控え室の一つでコニーを待っていると扉が開き、甘ったるい声で俺を呼ぶ女が入ってくる。俺の色をまとったアナスタシア王女だ。
「ラキウス様ぁ、こんな所にいらっしゃったのね?お部屋に戻ってお話ししましょうよ」
俺の体に触れようとするアナスタシア王女の腕を掴み捻り上げる。
「いっ、痛いですわ!何をなさいますの!」
「お前こそ誰だ?」
「わたくしはコーネリアですわ。手を離してくださいまし!」
「生憎だったな。俺のコニーはラキ様と呼ぶんだよ。偽物め!」
「なっ!わたくしは本物のコーネリアですわ。今まで貴方の側にいた者こそ偽物なんですの」
アナスタシア王女の手を離してやる。だが逃がしはしない。
「今の言葉の意味を聞かせてもらおうか」
「ええ、あの娘はわたくしと似た顔立ちをしている事を利用して、わたくしと入れ替わりまんまと貴方の婚約者に収まったのですわ」
「おかしいなあ。それなら、あの娘がお前に成り代わっていた間、お前は何をしていたんだ?」
「そっ、それは…」
「成り代わられた事に気付いていたなら我が国に連絡を寄越すなり、あの娘を捕縛に動くべきではないのか?違うか?」
アナスタシア王女は黙り込んでしまった。返す言葉が見つからないのだろう。
「そっ、そうですわ。わたくしはコーネリアの姉のアナスタシアですの。妹にラキウス様にいたずらを仕掛けようと言われて入れ替わったのですわ」
「ほう?」
「やはり、ラキウス様は騙せませんでしたわね、ほほほ」
「そんな言い訳が通じるとでも?」
「本当ですわ。信じて下さいませ!」
信じるわけが無いだろう。
「衛兵!この娘を捕まえろ!コーネリア姫を騙った偽物だ!」
「いやっ!わたくしはアナスタシア王女なの。ちょっとしたいたずらですわ!」
衛兵が駆けつけアナスタシア王女を捕縛する。
「牢へ入れておけ!」
「ラキウス様!わたくしはアナスタシアですわ!ラキウス様!」
アナスタシア王女の姿が見えなくなった頃、ザルトア国王が俺の元にやって来た。
「ラキウス殿!あれは我が娘アナスタシアですが、コーネリアを騙るなど何かの間違いでは?」
「間違いでは無い。あの娘は『わたくしはコーネリア王女だ』と言って近付いて来たのだからな。もし、本当にアナスタシア王女であったとしても何らかの罪に問われるだろう」
「そ、そんな…」
ザルトア国王はその場に崩れ落ちた。
後はコニーを早く見付けてやらなければ。ザルトア国王を放置してコニーを探す為に走り出した。
客室に閉じ込められていたコニーはすでに騎士達に救出されている。同じ部屋にいたアナスタシアの侍女達は縄を掛けられ床に転がされていた。
「コニー!」
「ラキ様!」
コニーの顔は痛々しく腫れている。
「どうしたんだこれは?」
「アナスタシア王女に…」
「大丈夫か?すぐに手当てしよう」
コニーを部屋に帰しアイラに傷の手当てを頼む。
さあ、アナスタシア王女をどうしてくれよう。
ー ◇ ー
アナスタシア王女が捕まったと聞いた。これからどんな罰が彼女に下されるのかは分からない。あまり重い罪にならないと良いけど。
「コニー!」
「ラキ様、どうされたの?」
「あー、アナスタシア王女の事だけどな。彼女はザルトア王国に帰され生涯修道院から出さないと言う事で落ち着いた」
「そうですか…」
「性格が悪いとはいえ、コニーと同じ顔だからな。あまり重い罰を科せるのは気が引けた」
生涯修道院も結構重い罰だと思うけど命までは取らないのだから良しとしよう、うん。
「それからザルトア国王は退位し塔に幽閉。王太子が新たな国王に即位した。その新国王からコニーに嫁入り道具が大量に届いているぞ」
「あらまあ」
「それとコニーはコーネリアでは無く、コニー・ザルトアとして王女の身分を与えるって。だからこれからも国として付き合いをよろしくだってさ。新国王はちゃっかりしてるよ」
ラキ様は、はははと笑う。
「ラキ様、これからはコニーとしてよろしくお願いします」
「ああ。どうしたんだ急に」
「ラキ様に、ちゃんとコニーとして挨拶したかったの」
「そうか。これからもよろしくな、コニー」
「はい!」
辛い事、大変な事、沢山あったけれどコーネリア殿下と同じ顔で良かったと思う事もある。
コーネリア殿下、ラキ様と出会う機会を与えて下さってありがとうございました。
fin
最後まで読んで頂きありがとうございます。
まだ体調不良が続いています。
もしかしたらまたお休みする事があるかもしれません。ご容赦頂けると嬉しいです。
よろしくお願いします。




