第九話 帝国、最大の危機
夜の帝都は静寂に包まれていた。
しかし、城内は緊張の空気で満ちていた。
勇者の存在を狙う他国の暗躍者たちが、城へ忍び込んでいたのだ。
「セレナ様! 警備が突破されました!」
侍女の叫びで私は飛び起きた。
剣を握り、心臓が早鐘を打つ。
──任務と国を守る時が来た。
「勇者様、大丈夫ですわね!?」
彼はまだ眠気まなこで立ち上がった。
その無防備な姿に、守らねばという衝動が胸に湧く。
「任せてください、セレナさん! 僕も戦います!」
勇者は剣を手にし、笑顔で答えた。
天然なのか、勇敢なのか──
とにかく、この人が目の前にいる以上、私は全力で守る。
城の廊下、夜の静寂を裂く足音。
闇の中、黒衣の刺客たちが忍び寄る。
「……帝国の王女が、勇者を守るとな」
リーダー格の刺客が低く笑う。
しかし、私は笑顔で答える。
「はい。任務ですわ。そして、守りたい人もいますの」
その言葉に、勇者は少し驚いた顔をしたが、すぐに目を輝かせた。
「……よし! 一緒に戦おう!」
廊下で交錯する剣光。
刺客が迫るたびに、セレナは王女としての冷静さと、恋する女としての感情を混ぜながら戦った。
勇者もまた、無邪気な笑顔を絶やさず、しかし正確に相手を迎撃する。
「セレナさん、後ろ!」
咄嗟に勇者が私をかばい、体ごと押し倒される。
……心臓が、ぎゅっと締め付けられる。
無事か、と確かめる間もなく、闇から魔法の光が迫る。
「逃げて、勇者様!」
声を張った瞬間、宰相が現れ、闇の刺客を押し返す。
城内は戦場と化したが、勇者と私のコンビネーションは驚異的だった。
戦いの最中、勇者が小声で耳元に囁く。
「セレナさん……本当に大事だよ。君を守りたい」
──胸の奥が熱くなる。
戦場で、こんなことを言う人はいない。
けれど、その言葉で私は覚悟を決めた。
「私もです! 任務も、あなたも、絶対守ります!」
その瞬間、闇の刺客たちは撤退を余儀なくされた。
勇者も私も、息を切らしながら立ち上がる。
「帝国……守れましたね」
勇者は照れくさそうに笑う。
私は深呼吸して、微笑みを返した。
──国と恋、両方を守った夜。
でも、心の中では静かに誓った。
「まだまだ、これからですわね。
世界中が勇者様を狙っている以上、私たちの戦いは、始まったばかり……」
月明かりに照らされる王女の瞳は、強く、そして揺るがぬ決意に満ちていた。




