第七話 裏切りの晩餐
その夜、王城の大広間は煌々と灯りに照らされ、晩餐会が開かれていた。
各国の使節が集い、華やかに、そして静かに緊張感が漂う。
昼のティーパーティーの余韻は消え、今は“外交の場”そのものだ。
「セレナ殿下、勇者様はご同席なさいますか?」
聖女リオナの声。
微笑みの裏に、鋭い刃が隠されているのがわかる。
彼女は昼よりも一段、表情を引き締めていた。
「ええ、もちろんですわ」
私は答えたが、胸の奥はざわついている。
昼のリオナの笑顔が、今や政治的な刺として迫る。
その上、父や宰相の視線も冷たく突き刺さる。
勇者は、いつも通り無邪気に席についた。
だが、他国の使節たちの視線が一斉に集まると、少し緊張したように見えた。
「勇者様、この国では……多くの人々が、あなたを導こうとしています」
リオナが低く、しかし柔らかく言った。
その言葉に、私は心の中で舌打ちする。
──そう。
この人は、単に“優しい”のではない。
自分の使命を胸に秘め、勇者を誘導するための計算もしている。
私はすぐに反応した。
「そして、その使命は帝国にもございますの。
勇者様、どうか我が国でも力を貸していただけませんこと?」
言葉の一つ一つが、静かにぶつかり合う。
昼の微笑みはなく、今は純粋に“国益”のための交渉である。
しかし、勇者は困った顔で両手を挙げた。
「えっと……俺、どっちの味方ってわけでも……」
「……!」
その瞬間、私は思わず机の下で手を握り締めた。
“味方”かどうかではない。
ここで揺れる勇者の心を、絶対に守らねば。
だが、リオナも負けていない。
優雅に紅茶を持ち上げ、微笑む。
その笑顔の力で、勇者の目が少しだけ彼女に向いた。
「ふふ……勇者様、私の忠告は──
“正しい導きは、信じる人の手から逃さない”ですわ」
……危険。
この言葉に、勇者の心は確実に動く。
私は一歩前に出た。
「勇者様! 帝国は、あなたを必要としています!
ここにいるのは、国民だけではありません。私も……必要ですの!」
瞬間、勇者の瞳が私に向いた。
そして、微かに微笑む。
……その微笑みが、今度は“私だけのもの”に感じられた。
昼のティーパーティーより、ずっと濃密な距離感。
だが背後では、各国の視線が鋭く刺さる。
誰も、恋愛なんて許してはくれない。
すべては“政治”。
だが、その政治の中で、私だけは勇者を守りたい──そう思った。
夜は深まる。
大広間の燭台の炎が、揺れる影を壁に映す。
その影の中で、私は小さく呟いた。
「……国のために、任務のために、私は……負けられませんわ」
でも、胸の奥では──
その任務を超えて、勇者の笑顔を守りたいという、別の感情が芽生えはじめていた。




