第五話 王女VS聖女 恋と正義のティーパーティー
昼下がりの陽光が、王城のテラスを柔らかく照らしていた。
白いテーブルクロスに並ぶのは、香草ティーと焼き菓子。
見た目は穏やかな午後のひととき──
しかし、この場の空気は、戦場そのものである。
「本日はお招きありがとうございますわ、セレナ殿下」
「いえいえ、聖女殿こそお忙しい中わざわざ。帝国流の茶会を、どうぞご堪能くださいませ」
──笑顔。
どちらも笑顔。
でも、視線が少しでも逸れたら、きっと背後から光魔法が飛んでくる。
そんな緊張感。
テラスの奥では、勇者が無邪気に手を振っていた。
……あの人、なんで見学に来てるんですの。
外交席って、そういうものじゃありませんのに!
「勇者様もご一緒できて光栄ですわ」
「え? あ、どうも。えっと、なんかお菓子うまいですね!」
勇者、平和すぎる。
この人の存在が、いっそ場の空気を壊してくれて助かる……と思いきや。
「勇者様、お口に合いましたか? こちら、聖教国伝統の“マナ・ブレッド”ですの。
食べると心が穏やかになり、真実の愛を引き寄せるとも言われておりますのよ」
「へぇ、愛を引き寄せる……!」
勇者の目がキラッと輝く。
やめろ、そういう純真な反応が一番危険なんですわ!
「まぁ、面白いお話ですこと。では帝国の焼き菓子も負けていませんわよ?
“恋結びクッキー”。一緒に食べた相手とは、想いが通じ合うという伝承が──」
「おお、それもロマンありますね!」
「勇者様! どちらを先に召し上がりますの!?」
「え、えっと!? あの……両方いっぺんに食べたらダメですか!?」
「だめですっ!!」
「だめですわっ!!」
──ハモった。
そして同時に、ティーカップがカランと鳴る。
空気がピシリと張り詰めた。
リオナは微笑んだまま、優雅にカップを口へ運ぶ。
その仕草が完璧すぎて腹が立つ。
対して、私はこぼれそうな紅茶をこぼさないように必死。
でも、負けられない。
ここで“王女”の矜持を見せねば。
「聖女殿。ところで勇者様の導きとは、具体的にどのようなことを?」
「ええ、勇者様の魂は光の加護を受けております。
ゆえに、聖教国こそがその正しき使命を導くにふさわしいかと」
「なるほど。ですが帝国は、この地を守る実戦の地。
戦う者の傍で共に歩む勇者様を支えるなら、我らこそ相応しいのではなくて?」
「ふふ……なるほど。貴女のように“恋に落とす使命”を担っている王女殿なら、確かに熱意はおありでしょうね」
「ッ!? なっ……! その話、どこで聞きましたの!?」
「巫女には“風の声”が届きますの。お噂くらい、風に乗ってまいりますわ」
……情報網が風ってずるいですわ。
「でも、いいことですのよ? 恋も信仰も、導きの一形。
勇者様に愛を教えること、それも神の御業かもしれませんわ」
「…………言葉巧みに包みましたわね。要は“恋愛も聖戦”と?」
「ええ。愛もまた、戦いですもの」
ふたりの間で、紅茶の香りが静かに揺れた。
外では小鳥が鳴き、城下では鐘が鳴っている。
でも、このテラスだけは、まるで時間が止まったかのようだった。
──そして、その静寂を破ったのは。
「えっと……ぼく、クッキーもう一枚食べていいですか?」
「どうぞ勇者様! どうぞ勇者様!」
ハモった。
またハモった。
同時に差し出された皿が、カチンとぶつかる。
勇者はぽかんと笑って、
「ふたりとも仲いいですね!」と言った。
──違いますの。
今、裏で国家がぶつかってるんですのよ。
でもその笑顔を見て、思ってしまった。
ああ、たぶん。
この人が本気で誰かを選んだとき──
その一言で、国がひとつ傾く。
……だから、落とさなきゃ。
使命として。
でも、それ以上に──
私はもう、少しだけ、彼の笑顔を見ていたいと思ってしまった。




