表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/17

第四話 恋も外交も修羅場ですわ!

 勇者が帝国に滞在して三日。

 すでに城中が彼の話題で持ちきりだった。


 ──勇者殿下、侍女にお礼を言う。

 ──勇者殿下、厨房で第二のオムライス事件。

 ──勇者殿下、庭師と仲良く日向ぼっこ。


 ……全部、好感度が上がる方向である。

 なにこの人、平民と庶民のハートを鷲づかみ。

 “恋に落とす任務”のはずが、周囲の方が先に落ちているではありませんか。


「セレナ様、勇者様が昨日、侍女に“ありがとう”と仰ったそうです!」


「それだけで報告書にするのやめなさい!」


 国政より勇者の日常がニュースになる。

 この城、末期では?


 とはいえ、油断は禁物。

 彼の存在を羨む他国は、確実に動き始めている。


 そんな予感が当たったのは、昼下がりだった。


「──聖教都市の使節団が到着しました!」


「はあ!? もう!?」


 勇者召喚の主導国である“聖教国ルミナス”。

 勇者の保護と引き渡しを求めて、早くも圧をかけてきたというわけだ。


 私は深呼吸して、謁見の間へ向かった。

 大理石の床を踏みしめながら、心の中で唱える。

 ──冷静に。優雅に。外交スマイルON。


「帝国の皆様、光のご加護を。聖教国第一巫女リオナ・セラフィーヌにございます」


 現れたのは、金糸の髪を揺らす絶世の美女。

 ……あ、これ絶対、勇者狙いのやつだ。

 見た目からして“攻略対象を一瞬で落とすタイプ”。


「リオナ殿、お久しぶりですわ。勇者様の件で?」


「ええ。召喚の儀にて生まれた聖なる使命──勇者様の導きを、我ら聖教国にお任せいただければと」


 要するに、“勇者を返せ”である。

 言い方が丁寧すぎて逆に怖い。

 でも、私も負けない。


「勇者様は今、帝国で心身の回復をされていますの。

 召喚の影響が癒えるまでは、私どもが責任をもってお預かりいたしますわ」


「まあ……ずいぶん親しげな口ぶりでいらっしゃるのですね」


 笑顔が刺さる。

 外交戦、開戦である。


 その瞬間──背後の扉が開いた。


「おーい、セレナさーん、例のスープ、出来ましたよー!」


 ……やめて勇者様。

 なんでこのタイミングで来るんですの!?


 勇者は両手に鍋を抱えて現れた。

 服の袖まくり、髪少し乱れ、いつもの調子で。


「昨日のパンがちょっと硬かったから、スープにしてみたんですけど──」


 勇者とリオナの視線が交わる。

 場の空気が、一瞬で変わった。

 彼女の瞳が輝き、柔らかく微笑む。


「まあ……あなたが勇者様ですね。初めまして。私はリオナと申します」


「あ、どうも。えっと、よろしく……?」


 ──やばい。笑顔が甘い。声が柔らかい。天然勇者、秒で落ちる危険信号。


 私は慌てて鍋を受け取り、前に立ちはだかった。


「勇者様、まずはお食事の前にお手を洗いましょう! ほら! 衛生第一ですわ!」


「え、あ、はい!?」


「ちょっ、セレナ殿!?」

「申し訳ありません、勇者様は現在療養中ですの!」


 強制撤収。

 勇者を抱えるようにして廊下へ引っ張り出した。

 背後では、リオナの静かな笑い声が響いていた。


「……ふふ。帝国の王女殿下。なるほど、“恋に落とせ”とはこういうことですのね」


 ──なぜバレているんですか。


 私は勇者を廊下の影に押し込み、息を吐いた。

 心臓がうるさい。


「セレナさん、どうしたんですか? あの人、優しそうだったけど……」


「優しい人ほど危険なのです! 特に外交の場では!」


「えぇ……」


 勇者は困ったように笑う。

 その笑顔が、さっきよりも近い。

 ああもう、この距離感ずるい。

 胸の奥がちくりと痛む。


 ──落とすどころか、また私が落ちてどうしますの。


 恋も外交も、思っていたよりずっと難しい。

 そして、もっと厄介なのは。

 恋のライバルが、国家単位で出てくるということだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ