第二話 帝国へようこそ!──恋愛任務、早くも波乱の予感。
勇者が召喚された翌朝。
私は“外交任務”という名目で、彼を帝国へ招く許可を聖教都市から得た。
……といっても、帝国の影響力はほぼ皆無。
他国からすれば「どうぞ、好きにどうぞ」という感じだ。
いや、逆に言えば──チャンス。
今のうちに勇者を“帝国側”に染めれば、他国は指をくわえて見ているしかない。
とはいえ問題がひとつ。
勇者本人が、全くその気じゃなかった。
「俺、まだこの世界のこと何も知らないのに、いきなり他国に行くって……それ、大丈夫なんですか?」
控え室でそう言われた瞬間、私は営業スマイルを保ったまま、心の中で叫んだ。
──勇者様、正論です。正しすぎて刺さります。
でも、私には時間がないのです!
「ご安心ください。帝国は安全で穏やかですわ。
戦争なんて滅多に起きませんし……最近は、国境での小競り合い程度で済んでおります」
「え、それ戦争ですよね?」
「……言葉の定義には個人差がありますわ」
あ、笑った。
この人、本当に飾らない。
だからこそ、笑わせたときの反応がまぶしい。
ああもう、危ない危ない。“任務”に集中、私。
そんなこんなで、勇者の了承を取りつけ、翌日には出立。
帝国までの馬車の旅が始まった。
──ところが。
「えっ、これ道ですか!?」
「ええ、帝国街道ですわ」
「舗装されてないですけど!?」
「風情があって素敵でしょう?」
「馬が半分止まってますよ!?」
……そう、帝国の財政は風前の灯。
街道整備など夢のまた夢。
しかし、勇者の表情は不思議と険しくなかった。
荒れた道を見ながら、ぽつりと呟いた。
「でも、空気はきれいですね。星も近いし」
その一言で、心臓が跳ねた。
誰もが“衰退”としか言わないこの国を、初めて“綺麗”と言ってくれた。
たったそれだけで、涙が出そうになる。
……やめて、勇者様。そんな無自覚に刺さる言葉、反則です。
──そして数日後。
帝都ヴァルディア到着。
灰色の城壁、古びた屋根、少し傾いた尖塔。
それでも私は胸を張って言った。
「勇者様、ようこそ我が帝国へ!」
「……おぉ、味がありますね」
「褒めてくださってありがとうございます!(※たぶん褒めてない)」
彼は素直に城を見回し、感嘆の息を漏らした。
……え、本当に褒めてる?
その目が真剣すぎて、逆に動揺する。
「この城、長い歴史があるんだろうなって。
手を加えすぎてないのが、むしろ本物っぽいというか」
「……っ!」
思わず顔が熱くなる。
なにそれ、そんな言い方ずるい。
この人、恋愛経験ゼロのはずなのに、ナチュラルに心を掴みにくる……。
「セレナ様? 顔、赤いですけど……熱でも?」
「い、いえ! 違いますの! 空気がちょっと……帝国の空気、濃いので!」
「えっ、濃い空気? 大丈夫なんですか!?」
「だ、大丈夫です! むしろ健康に良いです!」
──危ない。本気で心臓が濃度限界。
こうして、帝国の恋愛任務は正式に始まった。
けれど私は知らなかった。
この“勇者の滞在”が、帝国全体を巻き込む大騒動になることを──。




