叛逆龍事変【爆裂ウルトラ編】
天界の騒ぎから3日後、風音が管理している猩々緋家の豪邸、3階フロアの広々とした、空調機能の整った窓のない会議室で一番奥には豪邸の主である風音が気怠そうに書類に筆を走らせている。長い四角形に、中心を囲むようにテーブルや椅子が配置されており、雷太や妹のこあちゃんはやや出入り口に近い位置に座るよう、案内されている。この兄妹からは見知らぬスーツの怪しそうな男女の数々が脂汗冷や汗をかきながら、必死に風音が口を開くのを待っていた。いくら戦闘面、実績などで自信のある兄妹と言えど、風音は世界の能力者強さランキング3位であり、相当に周り同様、激しく緊張で喉を細め、あまり他人に甘えないこあちゃんが珍しく、雷太の二の腕の裾をずっと握って離さない。
そんな重々しい空気感の中、1人堂々と遅れてきた、この会議最重要人物の魔女が入ってくる。警察官であり魔女のドロテア シャインという金髪の女性で、雷太たちのやらかした後始末に追われ、遅れたと風音に軽く説明を行い、その隣に座り込む。そして、風音はようやく全体へ口を開いた。
「かなり前略、今回の会議は少なくともそこにいる緑埜の2人を咎める会議ではないという、ていで話しますが……一度終わりを迎えたと思われる、最龍侍学園付近にあった叛逆龍事変が再発してきているという報告が、確かな伝手から、ありました。騒ぐの禁止ね。それでー…………」
風音が長々と話しているあいだにこあちゃんが、とても小さな声で雷太に、叛逆龍事変いついて尋ねる。
この世界の発端から説明すれば、この大都市の呼ばれる遠くの、やや北方面にある学園付近で人間がドラゴン化するという事件が多発した。ドラゴン化した人間は凶暴化し、建物や人々を壊して回ったというものである。一方で、この大都市が無縁かと言われるとそうでもなく、度々どこから出たか分からないドラゴン達も、因果関係があるのではないかと、風音とドロテアが協力関係を結び、調査中なのである。以下の点で、雷太は大都市に現れるドラゴン達を倒し続け、ドラゴンキラーの二つ名を持つように。能力者ランキングでは5位に位置づいている。なお、3位である風音とはあまりにも相手に実力を離され、強めに言われればそれほど言い返す事は出来ない。そんな感じの説明を、雷太は周囲の邪魔にならないよう、こあちゃんに説明した。ひとしきり話し終えた風音はひとまず紅茶を一口すすり、話の主導権をドロテアへバトンタッチ、次の書類を用意し始める。
ドロテアが立ち上がって、力強く拳を握って叛逆龍事変、大都市のドラゴン出没の原因特定を主な項目に挙げ、室内の緊張感は一層高まった。何せ、ドロテアは能力者ランキング2位であり、風音とライバル関係だった事もあり、この辺の関係は概ね誤差で拮抗しているだろう。雷太はこの強大な聳える壁に対して、普段よりも真面目に話を進めている様は緊張が体の中で走る。そんな中、会議室は大きくまるで地震のように揺れる。座っていた何名かが転倒するほどだ。
「ドロテア、確認してきてよ」
「なんで私が! しょうがないな。やれやれ」
指示を受けるなり光に包まれ、閃光になって扉から出ていった。
雷太とこあちゃんも立ち上がって「俺も行く!」「自分も!」と、風音が口を開く前に部屋を飛び出す。
猩々緋家の大きな窓ガラスの扉を開け、白い柵のベランダへ。
赤い宝石のような部分と、岩肌のような鱗を持つ巨大なドラゴンが4つの脚を地に着け、屋敷を陰で覆い尽くすほど大きな2枚の羽がゆっくりと蠢く。咆哮とも思える鳴き声が全体の空間を揺らすほどの鳴き声が空高くまで轟いた。その光景にドロテは固唾を飲んだ。
「デカすぎだろ! 今までここまで大きいドラゴンが現れた事例は、ある狐達が倒した例以外は無い!」
「お兄さん逃げましょう! ね」
雷太の左腕の短い袖を引っ張るが、動き出す意思をこあちゃんは感じず、ふと見上げる。
「赤い宝石の、ドラゴン。分からねえけど許せねえ。お前だけ逃げろ」
またしても言う事を何も聞きれない雷太は、袖を持つ妹の手を優しくほどいて、全身に緑色の静電気を無数に走らせる。徐々に増えた静電気は魔法となって全身のオーラとなり、一直線にドラゴンへ猛進する。が、後から飛び立ったドロテアに木製の魔法使いの箒で地面へ叩き落とされた。
「バカが自分の実力ぐらい分かれ」
「ってーな!」
「妹を連れて逃げろ。こいつは私と風音で十分だから」
「……分かった」
そのままこあちゃんを傍に抱えてどこかへ飛び立つ。遅れてノコノコと出てきた風音は降り立ったドロテアの横へ。
「蓮ちゃんいないけど、うちらなら倒せるね」
「当たり前だ。お前が足止めして私が仕留める」
「いや、うちが倒すね! 指図すんな!」
「なんだと!? お前もバカだ!」
ガヤガヤ仲良く喧嘩してる間に、ドラゴンは大きな口に魔力を溜める。炎を吐くつもりで時間はそれほどかからず、巨大な火柱が2人に向かう。咄嗟に左右へ避けた。そして、一直線に飛んで攻撃をともに攻撃を開始した。
大都市で巨大ドラゴンが猩々緋家に出現する騒ぎは一瞬で日本各地にSNS・テレビのメディアを伝って知れ渡り、そのニュースは大都市よりかなり北方向に位置する、海を挟んでもっともっと遠くにある最龍侍学園の地下、雷鳴駅にて1人の化け狐がスマートフォンを使い、巨大ドラゴンのニュースを拝見している。
彼女を陰で覆い隠す最も新幹線がある駅にはライトニング・トレインと呼ばれる新幹線が4編成あり、これらは主に並行世界を渡る為に使われる、空を飛ぶ新幹線達だ。
という解説をまた自慢げにしている、機械オタクのピンク髪の18歳ほどの女性が、狐の様子も見ずにまた自慢げにベラベラ語っている。
「うるさいわ! 後で聞くでの、この龍を狩りに行く。電車を動かす準備をしておくれ。ラムちゃん」
「はーい! あと、そこに隠れてないで行くよ」
やっぱりかと、のそのそと物陰から出てきたのは、日本刀を腰に携えた黒髪の少年、穂村 京斗が、気怠そうに苦笑いしながら、狐と同じくスマートフォン片手に出てきた。
やっぱり行かないとダメですか。と、今からでもお家に帰りたそうにしている。問答無用で狐は手首を握って笑顔になる。
「お主も来い!」
「分かりましたよ……」
引っ張られるままライトニング・トレインに乗り込む。
追記:作品名を変更しました。