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お願いを聞いて戴けないと、後悔致しますわよ

「わたくし、貴方に習いたいですわ」

「だから断るって言ってんだろ」


ディートリンデは、手元の箱からゆっくりと顔を上げて、じっとアレンを見詰める。


「何だよ?」

「少しお時間を頂けまして?」

「嫌だね」

「後悔致しますわよ」


幼い少女の脅しに、アレンは少し驚いた顔を見せて、仕方なく、と言った風に長椅子に座り直した。

ディートリンデは傍らにある紙を手繰り寄せると、さらさらと絵を描いてアレンに見せる。

それは驚くほどに精緻な、人物画であった。


「わたくしの特技ですの」

「ほう……こりゃすげえな……」


自分にそっくりの人物が、紙の上にまるで生きているかのように写されているのを見て、

さすがのアレンも驚きを隠せなかった。

だが、それが何だと言うのだろうか?

驚嘆から、怪訝な顔になり、ディートリンデに視線を戻すと、彼女はまた何か新しい絵を描いている。


「ここまでそっくりに書けると、知っている人が見れば貴方だって分かりますでしょうね」

「……まあ、そりゃあ、なあ……こんだけ上手けりゃそうなるだろうな」


ディートリンデが次に見せた絵に、アレンは驚愕した。


「んなっ!?……はぁ??」


大事な部分は隠れているものの、淫らに乱れた自分の絵を描かれて、思わず赤面して、

貴族の少女?らしきものと、淫らな絵を見比べた。

そんな事は何処吹く風、というように、ディートリンデは更に手に持った木炭を動かしている。


「さらに、こうしたら如何かしら」


「うぎゃああああああ」


次に見せられた絵は、アレンを叫ばせるに至った。

それは、あろうことか冒険者ギルドのデニスに、背後から組み敷かれている構図の絵で、

見ようによってはそう見えないこともない、限りなく犯罪に近い卑猥な絵だったのだ。


「わたくし、絵は得意ですのに、うっかりしてよく、落し物をしてしまいますの」

「……脅しじゃねえか」


びりびりと破かれた絵が、はらはらと机と絨毯に紙片となって降り注ぐ。

ディートリンデは、少女の筈なのだが、激昂した男相手に、優雅に紅茶を飲んで答えた。


「いいえ、事実ですわ。わたくしは、貴方に家庭教師になって頂きたいの。

そして、わたくしは絵が上手くて、少しうっかり屋さんなだけですわ」


「で、何すりゃいいんだよ。まさか裸になって絵のモデルしろなんて言うんじゃねえだろうな」

「わたくしはただ、貴方の技術を教えて頂きたいだけ。貴方の名誉を汚すような要求は致しませんわ」

「今、したじゃねえかよ!思いっきり」


あら?昔見たファンタジードラマの王妃が、騎士に言った台詞だったのですけれど。


漫才みたいな返しをしながら、律儀に怒ってくる姿はやはり可愛い。

コホン、と咳払いをして訂正した。


「名誉を汚すような要求はしないのは、仕事を請けていただいたらですわ。請けて頂けない方の名誉など知ったことではありませんの」

「脅しじゃねえか」


またもや律儀に返してくる姿に、真面目か!と返したくなってしまう。

でも、家庭教師になるなら妄想から除外して差し上げるのは吝かではない。


「どう致します?」

「いや、選択の余地ねーだろ」


まさに選択を与えているのだが、それが答えなのならこの上ない。


「では、明日の午後からお願い致しますわね」

「はぁ、分かったよ」


扉を開けて、廊下で待っていたグレーテを振り返ると、頷いて銀盆を持ってくる。

その上には二つの包みと、契約書が載せられていた。


「ではこちらが、紹介料。こちらが貴方のお給金。こちらが契約書ですわ」

「前払いとは豪勢だな。もし持ち逃げとかしたらどうすんだよ?」


馬鹿にしたように、金の音をさせながら、包みを手の上で放り投げて弄び、ニヤつく。

ディートリンデは、ふふふ、と笑って答えた。


「その時は、”あの絵”で稼がせて頂きますわ。そういう好事家の方もおりますのよ?」


知らんけど。

そういう趣味の人は探せばいるだろうし、ニッチな需要はあるだろう。


期待した答えと違ったのか、アレンは動きが固まったせいで、包みを取り落としそうになった。


「……お前本当に7歳か?」

「ええ、その筈ですわ」


本当は50位プラスされるけれど、それは黙っておきましょう。


ディートリンデは優雅に微笑んだ。




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