早速学んだ技術が生かせますわ
通常の授業に加えて、エリアーシュからスライハンドを、オラヴィから文書についての講義を受けて、
ディートリンデは昼食後に町へと行く事にした。
我が弟ながらポンコツであるグレンツェンが手紙を仕上げないので、とりあえず自分だけでも先に出してしまおうという魂胆である。
アルベルティーナの授業は分かりやすく、どんどん吸収するディートリンデは基本的な日常会話は問題ないと太鼓判を押された。
が、流石に手紙は慎重を要するので、アルベルティーナ監修の元、王国語で書き上げたのだ。
父親達は自国語で、相手にとっては外国語で手紙の遣り取りをしていたが、流石に子供相手に辞書を引かせる訳にはいかない。
うっかりと自分がまだ子供だという事もわすれつつあるディートリンデは、町へ行くための馬車に乗り込んだ。
町には郵便局が有り、料金次第で早馬での速達が可能となっている。
本来なら使用人がまとめて郵便局へ持ち込むのだが、今回は特別だ。
勿論領主の娘なので、最優先で扱ってくれることだろう。
大通りから少しだけ入った路地に馬車を停めて貰い、ディートリンデは歩いて郵便局へ向かう。
手続きを済ませて郵便局から出ると、警備兵と貴族の男とみすぼらしい少年が揉めていた。
「ぶつかってきたのはコイツだ!財布を盗んだんだ!」
「俺は盗んでねぇ!」
両者を引き離しつつも、警備は少年の襟首をがっちり掴んでいるので、もがいても逃げ様がない。
兵士として鍛えられた警備兵と、栄養も行き届いていない少年とでは体格が違いすぎる。
それに、でっぷりと肥った貴族の言い分は当たっていた。
警備兵からも貴族からも背にして見えていないが、尻にあるポケットは膨らんでいる。
ちょうど、視線は遮られてるし大丈夫そうね。
ディートリンデは通り過ぎ様に財布を抜き取って、手元の鞄の下に隠したまま馬車へ向かった。
「用事が出来たから、まだ出発しないでくださる?」
御者が頷くのを確認しながら、護衛騎士が開けた扉から馬車の中に一旦入り、財布の中身を拝見する。
期待したほどは入っていない。
とはいえ、少しだけ抜き取ってから胸元に紙幣を入れて、入ってきた時と同じように鞄で財布を隠しつつ、もう一度馬車から降りる為に、扉を開いた。
扉を開ける音で護衛騎士が入口前に移動して差し出した手に掴まって降りる。
そしてまたディートリンデは騒ぎの起きている場所へと戻った。
未だ揉めているが、肝心の財布が無いので水掛け論に突入したようだ。
「あの、こちらが落ちているのを見つけたのですけれど、もしかして…?」
とディートリンデが財布を差し出すと、警備が「お嬢様!」と声を上げた。
「おお、おお!私の財布だ!」
と引っ手繰るかのように、ディートリンデの手から奪うと、中身を確認する。
「おかしい!1000リーベルは入っていた筈なのに金が減っているぞ!お前が取ったのか?」
届けたというのに何という言い草だろうか。
それに今お前が言った額の半分も財布にはなかったではないか。
冷たい視線で貴族を見ていると、警備兵が逆に威圧しだした。
「アーベル嬢に何と言う事を。彼女はこの地の領主のご息女ですぞ!それに拾って届けて下さったと言うのに…!」
「良いのです。……でも、折角なので、お名前を伺いましょうか?帝国貴族では無いとお見受け致しますが」
警備の言葉で顔色を失くした貴族は、ディートリンデの追い討ちで更に顔色を青くした。
「ル、ルクスリア神聖国から参りました…デーン男爵と申します」
「わたくしは、ディートリンデ・アーベルと申します。父は伯爵位を戴いておりますわ。
無実とはいえ、我が領民がご迷惑をおかけ致しました事をお詫びいたします」
ディートリンデが、にっこりと作り笑いを浮かべると、デーン男爵は玉の様な汗を浮かべて後退った。
「い、いや…いえ、私の勘違いだったようで…これで失礼致します」
そそくさと逃げるように立ち去る男爵を見送り、ディートリンデは警備に丁寧に会釈した。
「お仕事ご苦労様です。この少年には話を聞きたいので、渡して頂いても?」
「ええ、構いませんとも。でも、お嬢様の身に何かございますと…」
「護衛の騎士もおりますので、大丈夫ですわ」
「それでしたら…」
ディートリンデは、警備兵から少年を受け取ると、警備兵が掴んでいた襟首をそのまま掴むようにして、少年を路地へと連れて行った。




