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8 サリーの成長(ルイ視点)


サリーと母上がお茶会に行ったその日の夜。

僕は母上に呼び出され母上の部屋へ向かった。


「ルイが今日の事気にしてるんじゃないかと思って呼んだんだけれど余計なお世話だったかしら?」



僕が椅子に座りお茶を一口飲むのを見て、母上がからかうように僕に言う。


「余計なお世話ではありません。

サリーはどうでしたか?」


「そうね。わたしから言えば満足いく結果だったわ。

サベッジ侯爵家の鉱山の話もよく調べていたし覚えていたと思うわ」


「鉱山のことなどサリーはどうやって知っていたのですか?」



サベッジ侯爵家の鉱山の事を思い浮かべる。

確かに鉱山の話題が少しだけ上がっていたが特に社交界で有名な話ではなかった。

僕の質問に母上が得意げに話しはじめる。



「あの子、我が家の図書室の本を一年少しで読み切ってしまったでしょ?

だから試しに私に上がってくる青のカラスの貴族に関する報告書を読ませてみたのよ。

そしたらあっという間に覚えてしまって、報告書の中にある正しい情報を推測してきちんと私にまとめて書類にして提出してきたの。

その出来栄えったらもう……それから手伝ってもらっているのよ」



母上が頬に手を当てうっとりと感心した様子で言う。



「サリーはライオネルと二人でライオネルの父フリックから領地経営の授業と通常の令嬢教育も受けていますよね?

更に母上の仕事の手伝いもしているのですか?」


「そうよ。体は弱くてもこれだけ能力値が高ければ戦闘能力の高いカラスと組ませれば怖いものなしだわ」



戦闘能力の高いカラスと言われ思い浮かんだのはライオネルの顔だった。

ライオネルはクライン男爵家として我が公爵家の領地を代官として管理を任される家系の嫡男だ。

だからどちらかと言えば頭脳労働を得意とする家系だ。ライオネルも領地経営に関しては及第点を取れている。


しかし本人はカラスの訓練場によく顔を出し鍛えているということもあり、戦闘関連にも興味があるようだった。

ライオネルであれば安心だが少し面白くない。

歳は僕よりも上だが、ずっとかわいがっていた妹を取られるような感覚だろうと僕はその時思った。



「まぁ青のカラスも花カラスも将来問題なくこなせるだろうから安心なさい」


「母上!! ダメです!! 花にはさせません!!」


「あらやだ。でも本人の希望を第一優先にするわ。

それはあなたでも変えられないからね」



母上の言葉に思わず大きな声で反論してしまう。

そして次の母上の言葉で僕は口を堅く引き結ぶしかなかった。



「青カラスとしても男爵位だと少し心もとないというか、あの子の能力だともったいないわ。

あの子の能力が最大に生かされるように考えるのが第一でしょ?

あなたは次期カラスの主なのよ?」


「分かっています」



僕はギュっと膝の上でこぶしを握りなんとかそれだけ返答した。




その数日後、僕と母上はライオネルの父であり、サリーの領地経営の教師であるフリックに呼び出されていた。


「先ほど、お館様にもお話をさせていただきました。

お館様からお二人にも話しておくように言われましたのでわざわざお集まりいただきました」


フリックの言葉に僕と母上はうなずく。それを確認してフリックが話し出した。



今日のサリーの領地経営の授業のさなかの話だ。

フリックがうっかりと前回の課題の中に先日あった豪雨による各領地の状況報告書を入れてしまっていたらしい。


特に極秘情報でもなんでもない資料だったのでフリックも今回の授業で返してもらうつもりだったそうだ。

しかし今日サリーが何でもないように、その状況報告書に添えて自身の見解をまとめた報告書を渡したそうだ。



『すっかりこれも課題かと思いまして、取り組んでしまいました。

いつもと少し違うなとは思ったのですが確認すればよかったです。

申し訳ありません』



サリーの謝罪の言葉を聞いて報告書を念のため確認したフリックはかなり驚いたらしい。



「こちらがそのサリエラが渡してきた報告書です。

原本は旦那様にお渡ししましたのでこちらは写しになります」


それに目を通した母上が驚愕で目を瞠る。

僕も急ぎ母上から書類を受け取りサリーの書いた報告書に目を通す。


「夫人からサリエラが青のカラスの報告書に目を通していると伺っておりましたが……。

その報告書と、各領地の基本事業を元に自ら仮説を立ててドルマン伯爵家を再調査するべきであると説いております。

この件はまだ手に着けてもおらずお館様も驚愕されておりました」




サリーの報告書には先日の豪雨で打撃を受けた領地の精査と国から支払われる補填金、復興金額の予想。

そして各領地の基本事業から税収を考え各領地がどのような対策を考えるかという事。


そして青のカラスの報告書から各領地の社交の出席の有無やカラスの情報からドルマン伯爵が不正に補填金または復興金を請求し受け取っているのではないかという仮説がしっかりと書かれていた。



「あくまでも予想であり仮説でありますが、再調査の必要は大きいです。

サリエラの視点。幅広く視野を持って判断する能力はかなり高いと思います。

もちろん領地経営の分野もかなり能力は高いです。


先日もまだ夫人やお館様から男爵位継承のお話はされていないと理解しつつも、現在のブローイン男爵領についての意見を求めたところかなり的確な改革案を出してきた。

それも後日資料を作成させてお館様にご相談することになっております」




12歳から公爵家に住はじめて約二年。

たったこの二年でサリーはしおれかけた花が大きく再び花開くようにたくさんの物を吸収し成長を続けている。

そのことに喜びはあるけれど僕の胸の中には何とも言いきれないもやがかかる。



彼女に送った水色のリボンが頭をかすめる。

いつしか彼女は違う色を纏うことになるだろう……。

そのもやを取り払うかのように頭を大きく振りサリーの成長を母上と喜んだ。


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