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7 動き出した日々



私は小走りで本を両手いっぱいに抱えて公爵邸の廊下を走っていた。

角を曲がったところで不注意にも人とぶつかってしまった。


「ごめんなさい」


「サリエラ。廊下は走らないって何度言ったらわかるんだ?」


謝りつつ散らばってしまった本を集める。

私が落とした本を拾いながら言うのはライオネルだった。


「あっライオネル。ごめんなさい。どうしても早く読みたくって」


「しょうがないから一緒に運んでやるから貸せ。

初めて会った時よりかは健康になったと言ってもまだ細いんだから無理すんなよ」


「ありがとう。ここでいいわ」




口は悪くても優しいライオネルにお礼を言いながら持っていた本を手渡した。

言いながら優しく微笑んでくれるライオネルと共に私の部屋に向かった。

私たちはソファ近くのテーブルの開いている場所に本を置く場所を作る。


「いつ見ても……少しは女の子らしく整えたらどうだ……」


「ごめんなさい。夢中になるとついつい……」




本が散らかったテーブルの上とソファを見ながら苦笑しつつライオネルが本をまとめだしてくれる。

言い訳しながら私もソファに広がった本をまとめてテーブルに置く。


「今日はどんな本を選んだんだ?」


「私も14歳になったでしょ?

学園の入学はライオネルにも付き合ってもらってルイと一緒に入学するからまだだけれど……。

エイダ様にお茶会に連れて行ってもらうことになったの」




初めてのお茶会に胸をはずませながら言う。

今まで公爵邸の中だけで過ごしてきた分、エイダ様にと初めていくお茶会は私の心を浮足立たせる。

ライオネルは私が選んだ本を一冊抜き取るとそれを開きつつ言う。


「なるほど。そのお茶会に招待されている貴族関連の事を勉強するのか」


「うん。どこが情報につながるか分からないからできる限り頭に入れておきたくって」




そう言う私の言葉でライオネルは何かを思い出したのか「あっ」と言って本を置きポケットを探る。

そう言って差し出されたのは水色のレースのリボンだった。


「そうそう。これルイから預かってたんだ。

サリエラがお茶会に参加すると聞いて準備したらいいぞ。

初めてのお茶会が上手くいくようにって」




私はそのリボンを受け取ってそっと広げる。

水色の糸で結った繊細なレースのリボンだった。


「とてもかわいらしいけれど、子供っぽくないかしら?

私14歳よ?」


「まぁサリエラは年齢よりも幼く見えるから」




ライオネルの言葉に頬を膨らまし私が怒りをあらわにしているとクラリッサが部屋へ入ってきた。


「もう! サリエラ! また散らかして!

あらっライオネル。どうしたの?

それにサリエラ、そのかわいいリボンをどうしたの?」


「ライオネルは私の持っていた本を部屋まで運ぶのを手伝ってくれたの。

このリボンはルイが初めてのお茶会にって。

子供っぽくない? 大丈夫?」




私の不安げな顔にクラリッサは自信満々に「任せなさい」と私を鏡台の前に連れて行く。

私は鏡越しにクラリッサの細い指が私の髪を戸惑い無く結っていくのを見ている。


「ほう。いいじゃん」


「さすがルイ様だわ。大人っぽくもない子供っぽくもない絶妙なセンス」




そう言いながら合わせ鏡にして後頭部を鏡越しで見せてくれる。

そこには私の薄い金髪の髪が後頭部の少し下の方で水色のリボンと共に複雑に結い上げられていていた。


「かわいい……」


思わずため息を漏らしながら言う私にクラリッサは満足げにうなづく。


「さぁお茶会のドレスを選びましょう。

このリボンに合ったドレスにしましょうね」


「うん!」


クラリッサの言葉に私は元気に返事をした。





クラリッサと選んだ鮮やかな青の派手すぎない落ち着いたデザインのデイドレスに白い少しヒールのある靴。

アクセサリーはエイダ様にいただいた小ぶりのダイヤがついた華奢なネックレスを一つ。


今回はエイダ様について公爵家の行儀見習いとして社交の勉強という名目で参加する。

派手過ぎず、かといって公爵家の威光を損なわない装いをすることになっていたのでちょうどいい感じのコーディネートになる。



もちろん髪型はルイにもらったリボンをつかった髪型だ。

クラリッサと鏡の前で出来栄えを確認しているとコンコンと扉をたたく音がする。



「どうぞ」


「あぁ準備ができたんだね。かわいいよサリー。

せっかくはじめてのお茶会だからせめて馬車までエスコートしようとおもってね」



差し出してくれた手にはにかみながら手をのせる。

玄関に向か合いながら、隣を見る。

少し高いヒールを履いた私と身長の変わらないルイ。




12歳になったルイは私より少しだけ高いという自分の身長を気にしていつも2歳上のライオネルと競っている。


12歳と14歳だと体のサイズも身長も仕方がないと私が言うと少しむくれながら

「僕もライオネルより高くなるからね」

といつも言っているのを思い出しクスリとした。



「どうしたの? 緊張してないみたいで安心したけれど。

リボンも使ってくれたんだね」


「大丈夫よ。エイダ様も一緒だし、しっかり色々学んで来るわね。

リボンもありがとう。でも少し子供っぽくない?」


「大丈夫だよ。とてもサリーに似合っている」





私は去年、エイダ様から公爵家の役割について教えてもらっていた。

隠密としていろいろなところから情報を得たり、暗殺を請け負ったり……。


漆黒のカラスというカラスの頂点とも言われる公爵直属の正体を誰にも知らせず任務を請け負うカラス。


茶色のカラスは平民の中で行動し、片付けカラスは公爵家の騎士の別名。


要人のすぐそばで様々な役割を担う護りのカラス。動物を使い伝令伝達をする伝令カラス。


そして花街でクラブと呼ばれるお金持ちが集まり彼らにお酒を提供しながらお店で様々な情報を得る花カラス。




私は体が弱いのでカラスとしての能力は限りなく低い。

私がなれるカラスは花カラスしかないと密かに思っていた。

もちろん普通の令嬢として過ごすこともできると言われたけれど、私はカラスとして生き公爵家に恩返しすることを望んだ。



今日のお茶会はカラスの練習にもなる。

特に問題がある貴族が参加するわけではないけれど、練習として参加するようにとエイダ様に言われていた。

ルイの腕に置いた手にギュっと力を入れる。


「私頑張ってくるから……」


小さな声で言ったけれどルイは私の言葉を聞き逃すことなく足を止める。


「大丈夫。サリーなら大丈夫だよ。

それに僕のお守りがついてるからね」




私の後頭部からすこし垂れているリボンの端を持って顔を近づけ軽くキスを落とすルイ。

思わずビクリとした私にリボンから顔を離し私と視線を合わせる。


「大丈夫。さぁいこうか」

再び歩み始めるルイに倣って足を進める。


先ほどまでいつも通りだった私の心臓は大きくバクバクと鼓動してしまう。

ちいさく「もう……」という私の声も聞き逃すことなくクスリとルイが笑った。





エイダ様に続いて御者に手を貸してもらいながらサベッジ侯爵家に降り立った。

サベッジ侯爵家はマグネ公爵家と昔から関わりが深く長らく親友として当主同士が仲良くしている。


そのため私の練習の場所としてエイダ様が安心してデビューできる場所として選んでくださった。

私はエイダ様に連れられてサベッジ侯爵夫人と令嬢に挨拶に向かう。



「まぁ。ようこそおいでくださいました。エイダ様」


夫人がエイダ様に挨拶をする。私はエイダ様の隣で淑女の礼をする。



「お誘いありがとう。リズ様。こちら今、我が家で預かっているサリエラと申しますの」


「初めましてサベッジ侯爵夫人、サベッジ侯爵令嬢。サリエラと申します」



私が挨拶をすると、優しく私の肩に手を添え「頭を上げて」と促してくれたのでゆっくりと顔を上げる。



「初めまして。私はリズリエンナ。こちらは娘のローレンナよ。気軽にお話しましょう」




ローレンな様もかわいらしく笑顔を向けてくれ、そのままお二人の席に案内される。

席に着き、お茶とお菓子をいただきながらエイダ様と夫人のお話に耳を傾けニコニコしているとローレンナ様と目が合った。


「サリエラ様は公爵家に行儀見習いに入られて長いとお聞きしていました。

ずっとお会いしたいと思っていました」


「体が弱かったものでなかなか外に出ることが叶わずやっとお目見えできて私も嬉しく思います」


「サリエラ様は私よりも年上とお伺いしましたが、私とルイ様が同い年ですけれどおいくつ違うのでしょう?」



はにかみながら私に話しかけるローレンナ様がかわいらしく私も思わず笑顔になる。

ローレンナ様の疑問もわかる。先ほど頭を上げると私とローレンナ様はあまり身長が変わらなかった。



「私はローレンナ様より2歳年上です。

けれど、身なりもこのような感じですし、体もずっと弱かったので学園では同級生になる予定です。

ぜひ学園でも仲良くしていただけると嬉しいですわ」



私の言葉にはじけるような笑顔を見せてくれるローレンナ様。

茶色に近い金の髪はウェーブで光に当たってキラキラしている。

目は黄色と緑色を混ぜたような爽やかな色合い。

かわいらしいピンクのふわふわとしたドレスも良く似合っている。




私はふとローレンナ様の胸元が目に入る。

そして夫人の耳元を見遣りさりげなく会話を始める。


「もしかしてそちらのブローチは最近サベッジ侯爵領で採掘されるようになったピンクサファイヤですか?」



私の言葉に夫人が大きな反応を見せてくれる。


「さすがだわ! サリエラ様! そうなんです。

みんな褒めてはくれるんですがピンクサファイアの事はご存知無くって……。

いつ誰がこれをサファイアだと気づいてくれるかしらって楽しみにしていたのよ」


「あら? サベッジ侯爵は鉱山をお持ちだったかしら?」


エイダ様が私を試すように聞く。



「最近、侯爵家で少量ですが良質なサファイアが採掘できる場所が見つかったそうですわ。

侯爵様は領地を大切にされているから無茶な採掘はされず時折、少量だけ市場に流されているそうですね。


私も一度でいいから侯爵領で採掘されるディープブルーのサファイアを拝見したいなと思っておりました」



「まぁエイダ様! サリエラ様はエイダ様のお話通り博識でございますのね」



夫人の言葉に思わず照れくさくなりローレンナ様の方に顔を向けるとローレンナさまが私をキラキラした目でみていた。



「特に有名でもない我が家のサファイアの事までご存知なんて! お母様嬉しいですね」


「そうね。

我が家は穀物地帯として社交界では有名だからまさか鉱山のお話をしていただけるなんて思わなかったわ」



お二人が喜んでくれるので私も笑顔になりながら返す。


「希少なピンクサファイアをご婦人とご令嬢にプレゼントされるとは、侯爵様は本当にお二人を大切にされているのですね。

ピンクサファイアの石言葉は大きな幸せが手に入る。ですから」



私の言葉に夫人はピアスにそっと手を触れ、ローレンナ様はブローチに手をやっている。

2人の幸せそうな顔がうらやましくもあり、喜ばしくもあった。


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