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5 新しい日々の始まり


ルイそして公爵家に助け出されて数日が経ち、私は熱も下がりお風呂にも入れてもらった。


ぼろぼろの体を見られることは恥ずかしかったが、メイドのお姉さんたちは私の体の汚れや絡まった髪を優しく丁寧に洗い上げてくれる。



鏡を見るとまだ骨が浮くほど細いけれどここ数日、毎日エイダ様に食事を食べさせてもらって少しだけ頬に肉が戻ったように感じる。

何よりも入浴なんてもってのほかで、数日に一度だけ体を冷たい水で拭うしかできなかった私の肌と髪が輝くようになっている。



「まだこれからたくさんお食事をとれば、サリエラは肌も白いし髪もきれいな色だからお姫様みたいになれるよ」


そう言ってくれたのは私より3歳年上の15歳のクラリッサだった。

エイダ様が私付きのメイドとしてわざわざつけてくれた。



最初は固辞したのだけれど、エイダ様に

「あなたには今後必要なことだから」

と言われ、ありがたくクラリッサについてもらうことになった。



最初クラリッサに「お嬢様」と呼ばれた。

私は元男爵令嬢で今はただの孤児であることを説明し、名前で呼んでもらうようにお願いした。

クラリッサも最初は渋っていた。



「今まで長い間、名前を呼んでもらえてなかったから、できれば名前だけで呼んでほしいの。

私がサリエラであることを実感したいから……」


私が言うと、クラリッサはそれから常に私の名前を呼んで接してくれるようになった。




「サリエラ、まだ髪が乾いていないわ。

こちらで乾かしてもう少し手入れをさせて頂戴」


クラリッサの言葉におとなしく鏡台の前に座る。


「今日はまだ部屋で過ごすように夫人から言われているから部屋で過ごしましょう。

後でルイ様が来られるからそれまでに準備をしなきゃね」


鏡越しにウィンクをして言うクラリッサに私は思わず顔を綻ばせる。


「ルイが来るの? 今日はどんな本を持ってきてくれるかな?」




私は子供の頃に覚えた少しの文字しか読めなかった。

それに気づいてくれたのはルイだった。


最初に渡されたのは、薄い小説のような本だったがあまりにも読めない文字が多すぎて困っていた。

すぐにそれに気づいたルイが公爵邸の図書室に走り、次に持ってきてくれたのはかわいい挿絵の入った絵本だった。


それは問題なく読めたので、それから徐々に書いてある文字が多くなり知らない単語が含まれる本を持ってきてくれるようになった。



私が何度もルイに

「これはなんて読むの? これはどういう意味?」

と聞いてもルイは嫌がるそぶりも見せずに丁寧に教えてくれた。


私はルイと過ごすそんな時間が特別だった。


「はい。完成しましたよ。

一応、熱は下がりましたが、まだ無茶をしないでくださいね。

エイダ様がくれたウサギさんとおとなしくまだベッドに居てくださいね。

私はサリエラに温かい飲み物を準備してきますから」


クラリッサはそう言って私をベッドに連れて行き、背中にたくさんのクッションと暖かいブランケットをかけてくれる。

足元は柔らかい布団でおおわれて、久々の入浴で少し疲れた体はホッと自然に力が抜ける。


「眠かったら寝てしまっていいですからね」


「大丈夫。ルイも来るし起きておく」




私が公爵邸に連れて来られた次の日の朝、目覚めるときれいな春の空の色が眼前に広がっていた。

よく見るとそれはルイで、嬉しいやら恥ずかしいやらで大変だった。



それを見かねたエイダ様が、ルイのような春の空のような水色に濃い青色をした目を持つウサギのぬいぐるみをプレゼントしてくれた。


ルイの話によると、ウサギを抱きしめて眠るようになってから寝ている時にうなされることはなくなったそうだ。


「僕はサリーと寝れるから良かったのに……」

と不貞腐れながら教えてくれた。



うなされている事にも驚いたが、確かにしっかりと寝れているという実感はあった。

私はルイの言葉に嬉しくも、同じように少し残念な気持ちにもなった。

さらさらとシーツに流れる水色の髪が見れなくなると。




エイダ様にいただいたウサギをギュっと抱きかかえながら、クラリッサが出て行った扉をぼーっと見ていた。

コンコンと扉をノックする音が聞こえる。

クラリッサがお茶を持ってきてくれたのかなと思い返事をすると、扉から覗いたのは私の大好きな春の色だった。


「ルイっ!」


思わず弾むような声でルイを呼ぶとルイは顔を綻ばせながらベッドに近寄って来てくれる。


「サリー。入浴したと聞いたよ。

髪も整えたんだね。かわいいよ」



私の肩まで切りそろえられた髪をひと房掬いあげそっとキスを落としてくれる。

そんな王子様のような仕草に照れくさくなりながら私はコクリとうなずいた。


「今日はいろんな図鑑を持ってきたよ。こっちは鉱物、宝石や石だね。こっちは花」


そう言ってズシリと重い図鑑を私の膝に乗せる。


「ルイ。重いよ」


「あぁごめん。サリーには重かったね。じゃぁこうしよう」



そう言ってルイは私の背後に回り、私を後ろから抱きしめるように抱える。

そしてルイの立てた膝の上に鉱物の図鑑を置き広げる。


「これでどう?」

「重くないし、見やすいけれど……。

これだとルイが自分の本を読めないわ」


確かに私に負担は全くない。

背中に感じるルイのぬくもりと優しい森のような匂いにほっとする。




「今日は内容が難しいし、僕も知りたいことがまだいっぱいあるから二人で読もう」


そう言われてはどうしようも無いのでいわれるがまま開かれたページに目を向ける。


「これ。サリーの瞳の色と同じだね」


ルイが指さしたのは茶色いごつごつした石の中から少しだけ覗くピンク色の石だった。


「ピンクダイアモンド……?」


「そうだよ。ここを読んでご覧?」


私はルイが指で示す場所を声に出して読む。


「石言葉……完全無欠の……愛……」

私は思わずルイの方に振り返ってしまう。



思っていたより距離が近くて慌ててしまう。

そんな私をクスリと見て額に優しく口づけしてくれる。


「ほら、他にも美しさを含める意味がたくさんあるよ。

君が素敵なパートナーと巡り会えた時にこの宝石のついたアクセサリーをプレゼントすればいいよ」



ルイの言葉に思わず胸がズキリと痛む。



私は再び前を向き

「そうだね……」

とだけ返事をしてページをめくる。



「じゃぁこれはルイの瞳だね。石言葉は慈愛・誠実だって……。

これもピンクダイアモンドと同じでパートナーに喜んでもらえそうだよ」


私が指さす宝石はサファイア。



胸がズキズキと痛むけれど顔には出さないようになんとかルイに伝える。

ルイからの返事はなく、私の後頭部に柔らかいものが当たる感触がする。

何かよくわからなくてもう一度後ろを振り向くと、優しい笑顔で私を見るサファイアの瞳がこちらを見ていた。

 

「そうだね……いつか……」




ルイが何かを言いだそうとしたとき扉をコンコンとノックされた。

クラリッサがお茶を運んできてくれたようだ。

私とルイをみてクラリッサが嬉しそうに微笑む。


「さぁ、お勉強は一旦おいて温かいお茶をお飲みください」


その言葉にルイは本を避けてベッドを降りる。



私に手を差し伸べてくれてそのままソファに連れて行ってくれた。

2人で今後どんな本を読みたいかを話しながらクラリッサが淹れてくれたお茶を飲んだ。


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