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4 サリエラという女の子 (ルイ視点)



サリーがスゥスゥと安定した寝息をたてるのを確認して僕はゆっくりと手を離し、そっと部屋を出る。

そのまま母上の部屋に向かう。




「待っていたわ。ルイ。

サリエラはきちんと寝たかしら?」


「はい。今はうなされることも無く、薬のおかげか深く眠っています」


「ずっとうなされていたって聞いたから心配したわ」



先ほどまで浅い眠りだったせいかサリーは何度も何度もうなされていた。


『ごめんなさい』や『私はサリー』と寝言も苦しそうに言っていた。

それを思い出し、顔を思わずしかめてしまう。



「まぁまぁ。ルイ。心配するのもわかるけれど、こちらに座ってこれを確認なさい」


母上にそう促され、ソファに座って渡された報告書を確認する。

それを読み進めて行けば行くほど僕の眉間はどんどん皺が深くなる。


「縁戚の中でいくら遠縁といっても把握できなかったのは私たちの責任だわ……。

今、旦那様がサリエラの実家にあたるブローイン男爵の爵位取戻しを国王に申請しに行っているわ。


男爵夫妻がなくなった後に、男爵を継いだ男は従弟にあたるみたいね。

けれど領地経営もずさんであっという間に借金漬けになって爵位を返上したみたいよ。

元々その従弟は平民で、貴族に憧れて転がり込んだチャンスに縋りついたけれど失敗したみたいだわ」


母上の言葉になるほど。とうなずきながら報告書をテーブルに置いてある箇所を指さしながら母上に尋ねる。


「このサリエラを引き取った家に関しての処罰は?」



母上は医者と共にサリーの体を確認した。

母上と医者が戻るのを待っていた歓談室で母上は入るなり泣き崩れた。

医者から語られるサリーの状態に僕も涙がこぼれそうになった。


骨と皮だけになったような体に無数の傷痕。

小さな女の子が味わうべきでない所業に怒りと悲しさで母上は泣き崩れた。



「明らかに虐待の痕だね。体が小さいのも栄養失調だからだろう。

今後、ある程度、体は戻るだろうが……。

おそらく体は同年代よりも小さいのは変わらないだろう。


成長する時期に必要とする栄養を取れなかった弊害だ。

傷痕はこれから体が成長すればほとんど目立たなくなるとは思う。

どのくらい痕が残るかはこれから定期的に彼女を診察することでわかるだろう。」



その話を聞いて僕は怒りのあまり涙を堪え左手を血がにじむほど握りこんだ。




「今、旦那様が対応しているわ。詳細も調べてもらっているわ。

虐待も放置もすべてきちんと対応するつもり。


軽い罰を与えるにしても公爵家から縁戚から外す。

あまりにもサリエラを虐待したことがあからさまならば、しっかりと公爵家から訴えるわ」



「わかりました。その件は一旦、父上と母上に任せます。

僕はまずはサリーのそばにいることを優先します」


「そうね。私もできるだけサリエラと居られるようにするけれど、ルイもお願いね」



母上の言葉にしっかりとうなずくと、僕は再び報告書に目を落とす。




本名、サリエラ・ブローイン。元ブローイン男爵家の令嬢。12歳……。

僕よりも2歳年上に見えないサリー。

見た目だけだと、サリーを見つけたときに参加していた男爵令嬢のパーティーの主役の子と変わらなく見える。

彼女は8歳だったはずだ。ということは実年齢よりも4歳も小さく見えることになる。


更に髪も肌もぼろぼろで、明らかに栄養の足りていない小枝のような細さの手足。


見つけ出したときの何も映していないようなピンクの瞳が僕を見て『春の王子様』と言った時だけキラキラと光った。


あの瞳がキラキラと光り、本来のサリーの姿で元気に走り回れるようになるところを心底見たいと思う。

そんなことを考えていると母上から名前を呼ばれていた。



「……ルイ……ルイってば! 聞いてるの!?」

「あぁすいません。考え事をしていました」


「とりあえず健康になるまでは公爵邸で面倒を見るわ。

その後の事はまたその時話しましょう。

カラスの件もあるけれど、あの子はまだそこまでの事は無理だから」


「そうですね……まずはサリーを健康にすることが僕も大事だと思います」


僕の返事に母上は同意するようにうなずいた。



「今、サリエラを一人にするのは不安だわ」


「母上、せめて熱が下がるまでは僕がサリーの部屋で寝泊まりします」


「本当はよくないけれど、まぁこの屋敷で変な噂を口にするものはいないし。

サリエラもルイによく懐いているみたいだからお願いするわ」


「分かりました。任せてください」


僕はそう言って、自室に戻り自身の就寝の準備をしてサリーがいる客室に向かった。

サリーは変わりなくかわいらしい寝息を立てていた。


額に置いたタオルを軽く触るとメイドが取り換えてくれたのか冷たいままだった。

サリーの寝顔を少しの間眺め、ソファに準備されていた寝具を纏い僕も眠りに落ちた。



深夜、僕はサリエラの唸り声で目が覚めた。

薬の効果がきれてしまったのだろうか。

そっとサリーの眠るベッドの傍らに行く。


「……ここから出して……私はサリエラ……名前を呼んで……」


唸り声の合間にサリーが言う言葉に僕は胸がギュっと苦しくなる。

そっとベッドに上がってサリーの手を握りもう片方の手でサリーの頭を撫でる。


「もう君は大丈夫だよ。僕がずっとそばにいる……。

だからサリー。もうさみしくないよ。泣かなくていいんだよ」


サリーの頬に零れた一筋の涙に唇を寄せてチュッと吸い取る。

すると寝ぼけているのか少し目が開きサリーのピンク色の瞳が見える。

そしてふにゃりと笑顔になり、僕の体にギュっとしがみついた。


「……もう……独りにしないで……」

小さく呟かれたその言葉がまたぼくの胸を苦しくする。


僕はしがみついてきた細い細いサリーの体を慎重に抱きしめ返す。

するとスゥスゥと安らかなサリーの寝息が聞こえてきて僕は胸をなでおろし、そのまま目を閉じた。


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