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【おまけ】 女帝と呼ばれた女公爵とワンコ令息



私はジュリエッタ。

我が国クォーツで唯一の女公爵。


喋り方ときつい顔立ちのせいで社交界では陰で『女帝』と呼ばれていた。

34歳となり行き遅れも行き遅れ。

そもそも私は公爵なので、婿を取る側なのだが結婚もしていない。



私が公爵になったのは突然だった。

学園を卒業した17歳の冬だった。

それから今まで私は、我が領を守るために話し方も、立ち方も、考え方も、何もかも変えた。

他の貴族に舐められないように広大な領を守ることに必死だった。



我がエイハンド公爵領はクォーツの北側に位置する。

とても寒い地域で、独特の文化を持つ部族がいる領地でもある。

エイハンドの領都は、領地の南側に位置している。

冬はもちろん王都よりは厳しいが、外に出られないほどの積雪日は限られている。


しかしエイハンドの最北端に位置する場所は、寒さが厳しく特定の部族しか暮らしていない場所がある。

昔はその部族との衝突もあったらしいが、それは100年ほど前の出来事。


今は部族とも交流が盛んにおこなわれている。

当時の名残として北の塔と言われる塔は残っているが、今はもう誰も近寄ることが無い。



私も年に一度だけ国の建物と言うことで代理管理のため確認に向かう程度の場所だ。

我が領は林業で成り立っており、領民と各主要地に置いている代官、そして公爵家とも距離が近い。

私も子供の頃は森で育ったようなものだった。





私がなぜ17歳で公爵になったかと言うと、それは両親が事故死したからに他ならない。

17年前にあった豪雨の影響を確認すると、王都のタウンハウスにいる私に手紙が届けられた。

その後に土砂崩れが起こりそうな小さな村を発見し、避難を呼び掛けているときに土砂崩れが起きた。


最後まで避難を呼びかけていた両親だけが、それに巻き込まれ亡くなった。

領民を守り亡くなったということで、領全体が悲しみに明け暮れた。



両親が亡くなった報告が王宮に届いてすぐに、私は王宮に呼び出された。

婚約を早急に結ぶか私が公爵となるか決めるように言われた。


私は一人娘だったため、両親はそれはもう婚約者の選定に厳しかった。

おかげでと言って良いのか分からないが、私には婚約者がいなかった。



先代の陛下は、私が公爵となるならば国王直々に後ろ盾になるとまで仰っていただき。私は二つ返事で公爵となることを決意した。

あれから17年。私は34歳となった。



最近、王都ではグロリアの姫が『押しかけ女房』状態でクォーツにやってきたといことで貴族間も落ち着きがなくなっている。

国王が側妃を娶るか娶らないか、ということで揉めていると話をきいた。


年に数回ある王宮舞踏会にはど一年に一度、出席すればいい。

私はいつも夏に一週間だけ公爵領を留守にし、参加していたが急遽、今年は秋の参加を決めた。


その舞踏会でまさかあんなことが起こるとは思わなかった。




クォーツの女性貴族それも爵位持ちの者は両手で事足りるだろう。

私もさすがに全員の名前も顔も把握している。

その中でも私は特に目にかけている人物がいる。

サリエラ・ブローイン男爵。


彼女は5歳の時に私が両親を亡くした。

私と同様に17年前の豪雨で両親を亡くし、辛い幼少時代を送っていたと聞いた。


しかし未成年のうちから、マグネ公爵家を後ろ盾に男爵となる決意をし、両親の残した男爵領を大きく発展させた女性でもある。

彼女とは私がお王都に行くたびに、必ず一度は顔を合わせてゆっくりとお茶をする数少ない人物だった。




その彼女がグロリアの侯爵令嬢に罵詈雑言を浴びせられていた。

挙句の果てに侯爵令嬢は我々、女爵位を馬鹿にする発言をした。


私はたまらずサリエラを擁護した。

彼女のうまい立ち回りにより侯爵令嬢らは拘束されることになった。




私は周囲の貴族に謝罪の言葉をかけ会場を見渡す。

すると青い顔をした令息が震えながら壁際に立っているのが目に入った。

彼は最初に侯爵令嬢に詰め寄られていた人物だった。

私はウエイターから水を受け取り彼に近寄る。



「顔色が悪い。もう大丈夫だ。水だ。飲め」


「あっ……ありがとうございます……」



彼が水を一気に呷り震えが止まったのを確認し再び声をかける。



「運が悪かっただけだ。

すべての女性がああではない。素敵な女性はたくさんいる」



私の言葉にウルウルとした目をこちらに向ける令息。

そして何かを思い出したかのようにハッとした表情をする。

私は彼の目を見たまま首を傾げると彼は急いで礼を取った。



「ジュリエッタ・エイハウンド様にご挨拶させていただきます。

わたくしヴィオレーラ伯爵家三男サミュエル・ヴィオレーラと申します」


「ヴィオレーラと言うと王宮文官で有名なヴィオレーラか」


「はいそうです。私も文官として王宮で務めております」



私は彼に「そうか」と微笑みかけると彼は勢いよく私に話しかけてくる。



「あのっ! エイハウンド領で今文官の募集はされていますでしょうか!?」


「あっあぁ。ちょうど文官が不足している部署がある。

しかし王都の者にはエイハウンドは厳しい土地だから、近隣領にしか募集は知らせていない」



いきなりの質問に私も素直に答えてしまう。



「わかりました! ありがとうございます公爵!

ではまた!」



そう言って去っていく彼の背中を私は呆気に取られてただ見送った。


そんなこと出来事も忘れかける頃。

本当に彼の言う「また」がやってくるとはその時、露ほどにも思わなかった。




それから一か月。

この国で一番早く冬が始まるエイハウンド領には既に雪が降り始めていた。

私は各主要地、そして村や町から送られてくる資料にせわしなく目を通していた。



この時期冬ごもりの準備に入る。

もし不足している食料や物資がある場合は早急に手配しなければならない。

その決議の最終調整を確認していた。



扉がノックされたことに気づき、私は書類から視線を話さずに返事をする。

私の執事がそんな私にも慣れた様子で話しかける。



「ジュリエッタ様。

今回の文官募集で採用され、あなたの秘書となるものを連れてきたので5分で良いので顔を上げてください」


「少し待て」


「あなたの少しはすこしじゃありません。

その書類に目を通し終えれば顔をあげてください」


「……あぁ。え?」



顔を上げるとそこには見覚えのある男が立っていた。

赤茶色の髪がくせ毛でふわふわとしている、そして真っ赤な目には見覚えがあった。



「お久しぶりでございます。ジュリエッタ・エイハウンド公爵。

サミュエル・ヴィオレーラでございます。

この度エイハウンド領にて公爵秘書として採用をしていただきました」


「あぁ久しいなサミュエル殿」



私はなんとか彼に挨拶をし、執事に声をかける。



「おい、いつの間に秘書を募集していたのだ?」



「お嬢様は私をこき使いすぎです。

本来、私はサポートするのがお仕事なはずです。

しかしお嬢様は屋敷の管理を私に丸投げ。

挙句の果てに執務の手伝いまでも。


私は屋敷の管理を担当いたしますので、執務の方はこちらのサミュエル様にお願いいたします。

彼は執事ではなくあくまでも秘書ですので。

あなたがお転婆な頃から知っている私達使用人ではありませんよ。


そして、王宮で文官としてお勤めされていたサミュエル様であれば、お嬢様の膨大なお仕事の手助けもしてくださるでしょう」




執事が息継ぎも無く、私に口を挟ませないように一気に話す。

執事の話が長くなりそうだったので私は顔の前で軽く手を振る。



「分かった。じいや。今まですまなかった。

彼に秘書を頼むから、じいやは屋敷の管理を頼む」



そう言うとじいや事、執事は恭しく礼をして部屋を出て行った。



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