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32 覚悟と任務(ルイ視点)



昨日の夜。

夜会の最中に大きな声が響き渡った。


「バルコニーから女性が突き落とされた!!」


その声に僕は心臓が止まるかと思った。



僕は周囲が慌ただしくしているのを横目に急いで外に出て、バルコニーの下にあたる場所に向かう。

小さなサリーの体が植え込みに埋もれていた。


枝や葉の散らばり具合から、上から単純に落ちたわけでは無いと冷静に判断はできていた。

しかし僕の本能はそうじゃなかった。

目を閉じて横たわるサリーを目にして、分かってはいるが冷や汗が吹き出す。

思わずサリー抱きかかえ、強く抱きしめるとサリーが僕の首に腕を回す。


サリーのそんな行動に安堵と嬉しさが交じり合う。

僕の様々な感情の波を知ってか知らずか……。

僕とは正反対になんとものんきなサリーの

「派手にしすぎたかしら?」と言う声が僕の耳をくすぐる。




サリーを抱き上げた僕はサリーへの怒りと伯爵令嬢への怒り。

そして安堵の気持ちが、ないまぜになったまま伯爵の弁解を無視して公爵邸へ帰ってきた。

帰る時に周囲への圧力をかけることを忘れなかっただけまだマシだと言えよう。

馬車に乗り込んだ僕達を確認してすぐに御者が馬車を出す。

馬車でもサリーを手放さなかった。

膝に乗せたままのサリーが何度も降ろすように訴えるが、僕はサリーを手放す事ができなかった。

今、手放してしまえば、僕はサリーを失う恐怖が再び自身を襲い震えるはじめてしまうだろうという事がわかっていた。



そもそもサリーから聞いていた作戦は伯爵令嬢を煽ってサリーに軽く手を出させる。

押すか叩くか、その程度だろうと考えていた。

そしてそれを大げさにしようというものだった。


一旦は許可をしたが、もし本当に手が当たってしまったら。

もし大きな怪我をすることになればと不安は尽きなかった。

しかしサリーの力強い訴えに僕が折れることとなり渋々だが許可を出した。

許可を出したことを、こんなにも後悔することになるとはその時は思わなかった……。




公爵邸に到着しやっとサリーを僕の手から離す事ができたのは歓談室に入ってからだった。

サリーへの怒りが思わず口調に現れてしまう。

サリーは恐る事はなかったが心の底から申し訳なさそうにしていた。




サリーが怪我することも……。

もうこの先、許容できないと思った。

もう我慢できない。


サリーが傷つけられる言葉を言われることも、暴力を受けることも。

そしてこんな危ないことをさせるなんて、もう許容できない。



僕はサリーに怒りのあまり本音を漏らしてしまった……。

しかし本音を漏らすほどに僕が動揺したこともまた事実だった。


僕はその後サリーをメイドに託し、その日のうちに王宮に出向いた。

状況をアレクに説明し王宮騎士と公爵家騎士の共同調査を行うことになった。




一旦、その日の夜は王宮騎士に伝達と言う形であえて時間を空けることにする。

次の日の朝というには、ゆっくりとした時間から騎士たちに調査に向かわせた。


伯爵令嬢の件は殺人未遂として取り扱うことを決定事項とし調査に向かわせた結果、目撃者の者達は口々に言う。


やはりというべきか……。


『伯爵家から金品をちらつかせられ、今回はブローイン男爵が自らバルコニーから身を投げたと証言してほしいと頼まれた』


様々な貴族が同様の証言をしたことで、僕は怒りのあまりその報告が届くたびにペンをへし折っていた。


アレクはそんな僕を見て苦笑しつつ

「容赦しないから安心しろ」

と慰めの言葉を言っていた。




その証言もあり、伯爵家一家は虚偽証言の強要として犯罪奴隷に落とされた。

そして伯爵令嬢も殺人未遂犯として両親同様に鉱山に送られた。


かなり重い罰になるが筆頭公爵家嫡男の婚約者を殺そうとしたということ。


そして、あまつさえそのことに対して虚偽の証言をするように買収しようとしたとなれば妥当と言えるだろう。

アレクと今回の件について話し合い、このように落としどころをつけることにした。



「アレク……。ぼくは……」


「あぁこれで目ぼしい王女派の者達は瓦解していくだろう。

この先も目を光らせる事にはなるが、しばらくは落ち着くと見える……。

そして……。

次の王宮舞踏会で側妃として王女を発表することに決まった……」


「ローレンナ妃は?」


「昨日の夜、話してくれたよ。

王妃の立場上受け入れるが、俺の愛だけは譲らないと言ってくれた。

俺はその言葉に精いっぱい報いるつもりだ。

この先またローレンナを不安にさせることもあるはずだ。

しかし遠慮するのではなくお互いぶつかり合おうということになった」



アレクの話に僕は安心を覚えると同時に僕も覚悟を決めた。



「サリエラとの婚約を……」


「分かった。王命は解くことにしよう。

ただし詳細はルイに任せよう。

このくらいはルイに助力させてくれ」


「あぁ。ありがとう」




サリーに伯爵家の処分に関して報告した。

予定していた以上の成果にアレクも満足していたことを伝えると、サリーも安堵の表情をしていた。



「サリー……」


「どうしたの? ルイ」


「……おそらく明日、ローレンナ妃から話があると思う。

その後、僕も君と話がしたい」


「……分かったわ」



サリーの瞳が少し揺れる。

僕はそのことに淡い期待を寄せてしまう。



「ねぇルイ? 私もあなたに話があるの。

聞いて欲しい……」


「もちろんだ」



僕の返事に安堵したように微笑むサリーの表情は、何かに耐えるかのような無理した微笑みに見える。

僕の胸は苦しくなる。



『なぜ俺たちはこうも拗れてしまったんだろうか……』



アレクの言葉が脳裏をよぎり、思わず苦笑してしまう。

確かに僕たちは拗れている。


しかし、まだやり直すことはできるはずとサリーの目をしっかりと見て微笑んだ

サリーとの夜の歓談時間が終わる。

いつもどおり「おやすみ」と言ってサリー部屋を出る。



僕も自分の執務室に向かい、カラスの仕事を少しでだけするつもりだった。


しかし僕が部屋に戻ると同時に後ろから

「ルイ」と呼びかけられた。

誰かと尋ねる必要はなかった。

ライオネルの声だった。



「どうしたライオネル」


「少しいいか?」


「もちろんだ」



僕はライオネルを部屋に通す。

ライオネルは何冊かの印のついたカタログを僕の前に差し出す。



「子供の頃教えてくれただろう?」



そう言って僕にカタログを開くように指先でトントンと表紙を叩く。

そしてニヤリと笑いながら早く開くようにと促す。



「ルイはそれどころじゃないかなと思って俺が調べておきましたよ。

俺の主様?」



僕はカタログを軽く開いた。

そして驚きのあまり思わずライオネルの手を掴んだ。



「よくやった! 間に合うのか!?」


「ルイがいつを想定しているのか分からなかったから一応数個、取り置きだけしている。

複雑でなければ特急料金を足せば数日ってとこだ」


「分かった。

すぐに選ぶから明日朝一番で頼めるか?」


「あぁもちろんだ。

ちなみに今、市井ではこういうのがはやってるらしい。

なんでも…………」



ライオネルの話に僕は大きくうなずく。

そして早速男、二人でカタログを間に頭を突き合わせ話し込むことになった。


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