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30 建前と本音(ルイ視点)



あれから毎日、サリーは玄関で僕の帰りを出迎えてくれるようになった。

少しの時間だが会話をする時間ができた。



昨日の夜はグロリアの侯爵令嬢を強制送還することが決まったことと、手引きした貴族の処罰の結果を伝えた。



「おそらく強制送還後、彼女は修道院に行くことになるでしょうね」


「あぁ。侯爵令嬢の問題を盾に一応、王女を引き取るように言ったらしいが……。

そちらに対しては無言を貫いているらしい。

グロリアでも王女の対応に困っていたから、できればこちらで引き取ってほしいと。

そして王女の今後の事は関知しないと頑なだ」



「手引きした者たちはどうなるの?」



「手引きした者の全員がまだ爵位を後継していない令息達だった。

親たちにも監督責任は問えるだろうが一様にして離籍をさせられた。

よって強制労働に従事することでこの話は終わったよ。

少々厳しいが、王宮舞踏会を乱したことで全貴族、そして王族を敵に回したからね」



「じゃぁ後は……」


「そうだね……」



昨日の夜はかなり重い空気になってしまったが、それ以外の日は比較的に穏やかな雰囲気で過ごせていた。

会話の内容は出席する夜会の調整や、アレクとローレンナ妃の話が主だったものだった。


時折、サリーが話してくれる男爵領での話やローレンナ妃とのお茶会で食べたスイーツが美味しかったという話が僕たちの空気を和ましてくれていた。




任務の中でも時々見せてくれるサリーの本当の笑顔。

離れ離れになってから、そして大人になるにつれて微妙に開いていった距離。

それをまた埋めていく時間のようで僕はこの時間がかけがえのないものになっていた。





今日は王女派の筆頭と言われている伯爵家の夜会に参加する。

この家の長女がグロリアの高位貴族に嫁いでおりグロリアとも縁深い家だ。

そしてあからさまに今まで僕を狙っていた令嬢の家である。



そんな家からの招待状と言うことで僕はかなり渋ったがサリーが嬉々として参加を希望した。



『だって、こんなにあからさまに私からルイを奪いますと言っているようなものよ?

宣戦布告されたならしっかりと受けなきゃ!』

と張り切ってくれていた。



『私からルイを奪う』

その言葉を聞いて希望を抱いてしまう。

僕はサリーに自分のものとして思ってもらえているのだろうかと……。




今日はサリーに送ったドレスは、前回の王宮舞踏会と同様に僕の独占欲に満ちた二色のドレスだ。

それを綺麗にそしてかわいらしく着こなしたサリーにまたもや目が奪われる。


装飾も刺繍も最低限の青い薄い生地がグラデーションのように折り重なるスカート部分。

ダンスの時や翻った時にふわりと中から薄い青が見えるだろう。


胸元に小さなピンクのダイヤをちりばめたドレスのためアクセサリーは最小限に抑えているようだった。


僕も王宮舞踏会と同じ少しだけ生地の質感を変えただけのものでサリーの色を纏っている。

サリーはそんな僕を満足そうに微笑んで見て嬉しそうに口を開く。



「私の『春の王子様』今日もよろしくお願いします」



綺麗なカーテシーをしながら言うサリーに僕は同じように紳士の礼をして言う。



「僕の『春の妖精』。

飛び立たないようにしっかり捕まえておかなきゃね」



僕の返事におかしそうにクスクスと笑うサリーをエスコートしながら今日の夜会の会場となる伯爵家へと向かった。






会場に入り、とりあえず今日の夜会の主催であるベントール伯爵夫妻に挨拶に向かう。



「マグネ次期公爵殿ようこそ我が伯爵家へ。

今日は派閥など関係なく交流を深めさせていただきたい!

ぜひ我が娘ともダンスを」



来て早々、自ら派閥の事を言い始める。

さらには婚約者を伴っているにも関わらず、自らの娘をダンスに誘うように言う。


このレベルだから王女派は大したことないと放置してもいいのだが、今後の事を考えれば刈り取れるものは刈り取りたい。



「招待感謝する」



僕はいつも通り簡潔に言い、サリーに挨拶させることなくその場を後にする。

まずはダンスをと思いサリーをダンスに誘う。


三度踊ることも慣れてきたのか、サリーは何も言わずに微笑みながら僕の手を当たり前のようにとる。

このダンスの間にこの夜会での方針を軽く打合せする。

今日の夜会も単純な作戦で終わるようだった。



さっさと打ち合わせを終わらせ、単純にサリーとのダンスを楽しむ。


少し大きめにターンをするとドレスがふわりと浮き上がり綺麗な青のグラデーションを見せてくれる。

そしてサリーは子供のように喜んで、はじけるような笑顔を見せてくれる。



「やっぱりルイとのダンスが好きだわ」



その言葉に僕の胸が大きく鼓動する。



「僕もサリーとのダンスが世界で一番好きだよ」



耳元でそう囁くとサリーは耳を赤く染め恥ずかしそうにうつむく。

少し拗ねたような表情で僕の顔を下から覗き「もう」と怒るその姿も可愛い。



三度目のダンスを終え、休憩のついでに壁際により二人で飲み物を飲む。

そうすれば挨拶の波がやってくる。


王女派の連中は分かりやすく、アレクの腹心である僕にすり寄ろうとする。


それ以外の者はいつも通りの挨拶をする。

もちろんサリーとの婚約の祝いも忘れずにしてくれる。



この時のサリーの目はカラスのものに変わる。

自分の持っている情報と挨拶の相手を精査しているようだった。

時折、サリーが僕の服の後ろの裾を分からないように引っ張る。

問題のある貴族だという合図だ。



後でタイミングを見てサリーから話を聞くことになる。

そんなことをしていると挨拶の列を押しのけて一人の令嬢が僕の前までやってくる。



「『氷の王子様』!! 私とダンスしてくださいませ!!」



僕が冷たい視線をよこすとサリーがさりげなく前に出る。



「ベントール伯爵令嬢?

ただいまルイ様はご挨拶中ですわ。

少々お待ちくださいませ?」



当たり前のことを優しい口調で諭すように言うサリー。

サリーとさほど年齢も変わらないのに、サリーに子供に言うように諭されたことに顔を真っ赤にして怒り出す。



「私は今日の主催者の娘よ!!

偉そうに!!

お前が『疫病神』と呼ばれるのも分かるわ!!」



周囲がベントール伯爵令嬢の言葉にザワザワし始める。



「『疫病神』?」

「どういうことだ?」

「しかし……」



そんな言葉は無視してサリーはニコニコとした表情を崩さない。

それに更に怒りを感じたのか令嬢は金切り声で叫び始める。



「この間のグロリアの侯爵令嬢といい、学園時代にもコエル伯爵令嬢を修道院行きにしたのはあなたでしょう!?」


「ええ」


「あなたに関わるとみんな不幸になるのよ!!」



サリーは表情を崩さないが僕は苛立ちが募っていく。

サリーの作戦を邪魔しないために俺はグッと我慢する。



コエル伯爵令嬢とは学生時代、サリーの過去を無理やり暴いて騒いだ令嬢だ。

アレクの事も僕の事も巻き込んだので結局、伯爵家がことを収めてもらうために彼女を修道院送りにした。


その時、関わった令嬢たちも修道院に行ったものや自主退学したものなど様々だ。

王家と公爵家に目をつけられては家も危なくなるので正しい選択だと思う。



「それで?

私は今、ルイ様はご挨拶の最中ですのでお待ちくださいと申しただけですが?

婚約者として彼の社交をサポートするのは当たり前でしょう?」


「なっなっ……。疫病神の言う言葉を聞く必要はないわ!!」



サリーは頬に手を添えて「困ったわ」という仕草をして僕と話していた最中の子爵をちらりと見る。



「私は後程で構いません」



子爵の言葉にサリーが返事をする。



「申し訳ありません。

後程、ルイ様とご挨拶に伺います。

それではルイ様?

ご令嬢とダンスにどうぞ?」


「いや。彼女とダンスはしない。

僕は婚約者としかダンスはしないと決めている」



僕がきっぱりと言うとサリーは嬉しそうに僕に腕を絡める。

そして上目遣いで僕を見て言う。



「そんなことをすればまた私が『疫病神』と言われてしまいますわ」


「そんなもの勝手に言わせとけばいい。

僕にとっては君が僕の『春の妖精』だからね」



そう言ってサリーの額に触れるか触れないかのキスをする。

一瞬、サリーが素に戻り驚いた表情をする。

それを目にして僕の心は満たされていく。


スッとすぐにカラスに戻ったサリーが伯爵令嬢に向かい「どうされますか?」と言う風に首を傾げる。


伯爵令嬢は顔を真っ赤にして、足音を大きく立てながらその場から離れていく。

興ざめしたため

「挨拶は後程……」と僕たちはその場を離れバルコニーに出る。



「本当に大丈夫? サリー」


「ええもちろんよ。

もうあの頃の私じゃないの。

完璧ではなくてもできるようになったことは増えたから」




僕は後ろ髪を引かれながら

「ドリンクを取ってくるよ」

と言ってサリーをバルコニーに残して会場に戻った……。




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