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29 任務と想い



ルイの帰宅を出迎えて私は厨房に足を運んだ後、先に歓談室でルイを待つ。


「すまない。待たせたね」


「ううん。大丈夫よ」



ルイは今日、強いお酒を飲むようでメイドにウイスキーを頼んでいた。

私はカモミールティーをお願いしメイドが準備してくれるのを待った。



「それでは失礼します」

部屋を出たメイドの背中にを見送って私とルイは自然と目を合わせる。



「ローレンナ妃はどうだった?」


「それが……」



私はわずかに言い淀む。

私が再度、話しはじめるまでゆっくりと待ってくれるルイ。

そんなルイに安心感を覚え私は一呼吸して再度口を開く。



「ごめんなさい……。

ローレンナに私たちの婚約が王命だとばれてしまったわ……」


「あぁそうか……」


「驚かないのね」


「あぁ。ローレンナ妃なら気づくかと思ったんだ」



ルイが思ったよりも落ち着いていることに驚きつつも納得する。



「取り乱したりはしなかったけれど……。

謝られてしまったの。

私は大丈夫と言ったのだけれど……」


「まぁアレクも覚悟していただろう。

今頃あの二人もこうして話していると思う」


「そうね……。

私の考えはローレンナに伝えたから後は陛下次第ね」



私の言葉に頷きつつグラスに口をつけるルイを見る。

一瞬の沈黙が今日は少し重く感じてしまう。






昼間、ルイと別れて私はローレンナの元に向かった。

私はいつも通りローレンナの私室に通され、彼女と向き合った。

ローレンナが顔色悪く座っている事に疑問を感じた。



「ローレンナ大丈夫?

昨日の疲れが出てるのかしら?

顔色が悪いわ」



私の言葉により一層顔色を悪くして俯くローレンナに寄り添うために彼女の座るソファに移動してそっと手を握る。



「…………。

もしかして……。

サリエラとルイ様の婚約って……。

私達のため?

私達のせいで結ぶことになったの……?」



ローレンナの言葉に絶句した。

昨日の出来事を陛下から聞いたのだろう。

私がカラスということもローレンナは察している節が見えていた。


聡明な彼女の事だ。

陛下からの話と私の役割を繋ぎ合わせ推測する事は容易いはず。

そして私の想いを知っているからこそ、心を痛めているのだろう。



「ローレンナ……。

自分のせいと思わないで。

私は……。私たちはこの国もマグネ公爵家もとても大事なの。

それを守りたいだけなの」


「…………ごめんなさい。

あなたの気持ちを踏み躙るような事を……」


「そんな風に受け取らないで?

始まりはどうであれ……。

私は夢を一つ叶えられたの。

ルイにエスコートされたがら王宮舞踏会に参加できたわ」


「でも……」


「ねぇ?ローレンナ。

もちろん私達の婚約はこの国と公爵家を守るために成されたものだわ。

けれど、守りたいという私の気持ちがあったからこそ私は今の役割を請け負っているの。

だから、そんな友人を褒めてくれない?

そうすれば私はどんな事でも頑張れるわ」


「…………サリエラ……ありがとう……。

私も……。覚悟しなければ……」



涙を浮かべるローレンナに私もなんと言っていいか分からず、ただ手を強く握った。






ローレンナとの昼間のやりとりを思い出し心が痛くなる。


私は普段この時間には食べ物は口にしないがなんとなく甘いものが食べたくなり、クッキーを一つ取りかじる。

それを見たルイがクスリと笑いつつ、ルイはカナッペを手に取る。



「サリーはそのクッキーが本当に好きだね」


「口に入れるとほろほろと崩れるのが好きなの。

この形も。

馬蹄だと知らなくてずっと三日月だと思っていたの」



先ほどの重かった沈黙の空気が霧散する。

それに少し安堵し、ルイにばれないように小さくため息をこぼした。



「……サリーにはこの婚約を続けてもらわないといけない……」


「ええ。分かっているわ」


「王女を側妃にすると発表するまでに社交での情報操作と王女派の力をできるだけ削るのが必要になる」


ルイの言葉に私はしっかりと頷く。



「僕と二人で参加する社交が主になる。

今回はお茶会よりも夜会が中心になるからドレスなど必要なものがあれば僕が準備するから」


「え?」



思わず出てしまった私の戸惑いの声にルイは困ったように笑いながら「婚約者だからね」という。

私は嬉しい気持ちとこの婚約が解消された後、そのドレス達を見て私はどう思うのだろうかと未来を考える。

しかしそんな複雑な気持ちを抑え込み笑顔を返す。



「ローレンナ妃はどのくらいで落ち着きそう?」


「陛下次第なところもあるけれど……。

思っていたよりも早く落ち着きそうよ……。

いい事ではあるけれど……複雑ね」


「そうだね……サリー?」



ルイの呼びかけに私はルイの方を見る。

ルイはなぜか悲しそうな顔を浮かべていた。

何かを飲み込むように一瞬、ぐっと何かを耐え、いつもの微笑みを浮かべる。



「今後もできるだけ早く帰るからこの時間を作ってくれないか?

もちろん就寝準備を済ましてくれてもいい。

『おやすみ』の一言でいいから……」



ルイが懇願するように、そして噛みしめるように言う姿を見て私の胸はギュっと痛む。


「もちろんよ」


笑顔とできるだけ明るい返事をして私はその痛みを誤魔化した……。



ルイがお酒を飲み終わり、私たちは『おやすみ』と言って部屋に戻った。

私は就寝着に着替えてベッドに飛び込む。

枕をギュっと抱きしめて必死で気持ちを抑え込む。



昨日抱きしめられた腕。

そして今日の困ったような顔。

私が素直にルイに気持ちをぶつけたら……。



ルイの演技かもしれないけれど、舞踏会の時のあの甘い雰囲気にカラスではなくサリーとして甘えれば……。

どうなってしまうのか……。



ローレンナの事は言えないな……。

私はこんなにも臆病だ……。

一筋こぼれそうになった涙はすぐに枕に吸い込まれた。






「サリーよく来てくれたわね……」


昨日泣いたのだろう。

私たちのせいでローレンナを泣かせることになってしまったことに心が苦しくなる。



「そんな顔しないでよ。

私は昨日アレクに怒ってすっきりしたの」



そう言って困ったように笑うローレンナに私も同じように笑顔を返す。

私の到着とともに、いつもメイドはすぐに下がる。

だから気兼ねなく話せるのだ。



「昨日は陛下とお話したのね?」


「えぇ。サリエラとルイ様の件……。

いくらこの国を守るとしてもありえないってしっかり怒っておいたわ。

けれど王妃の立場から言うと

『助かる』になってしまう。

私ね、昨日サリエラと話していて思ったの」



ローレンナが一口お茶を飲む。

私もローレンナに倣ってカップに口をつける。

そして目を合わせてお互い微笑んだ。



「サリエラのお仕事に関してはうっすらだけど気づいているの。

けれど明確な言葉はこの先、一生言わないわ。

それでね……私にも私の役割があってサリエラにもサリエラの役割がある。


その役割は必ずこなさないといけないけれど、その中でなら精いっぱい我が儘を言ってもいいのかなって。

逆を言うと、我が儘を言う代わりに私はしっかりと役割をこなすわ。


この国の王妃として……。

世継ぎは必ずと言えるものではないけれど、公務や民の事を考えての政策なんかは今まで以上しっかりするわ。

だから……アレクの愛だけは私のものなの……」




ポロポロと涙をこぼしながら話すローレンナはとても綺麗だった。



「側妃の話は受け入れる……。

けれどそれは公務なの。

この心は私だけのもの……。

私のものなの。

だから……サリーあなたも諦めないで?

私が言うのも変だけれど……ルイの心を手に入れる事を諦めないで?

お願い…………」



私とローレンナは手を握り合いながら一緒に涙をこぼし続けた。

抗えないこともある。

けれど諦めないこともできる。




それが今、私達ができる事……。





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