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28 役割ともどかしい気持ち(ルイ視点)



僕達はアレクとの話を終え、2人で王宮を歩いていた。

僕は執務に戻るため、サリーはローレンナ姫の元へと向かうために。


その道中、僕の少し前を歩くサリーの後ろ姿を見てふと立ち止まる。


『無関心』とアレクが言った言葉が心に突き刺さった。


サリーは僕が態度を変えてから時々、照れた様子を見せてはくれる。

しかし行動や態度は今までと変わらない。


それは『無関心』だからこそ任務として割り切っているからなのだろうかと急に不安になる。




昨日、抱きしめた小さな体。

少し早くなったサリーの鼓動は僕が僕自身に見せた願望なのではないか……。



僕が考え込んでいたからか、サリーは申し訳なさそうに僕の袖を引っ張り現実に引き戻す。


サリーの方を見ると伺うような不安そうな顔で僕を見上げていた。

先ほどまでの不安は吹き飛ぶ。

そのかわいらしさに鼓動が早くなり思わず頬が緩む。



「どうしたんだい? サリー」


「ごめんなさい」


「何が?」


「ルイの親友に酷い事言ったわ」



僕と話す時だけ少し幼くなる話し方。

普段は20歳を超えたにも関わらずまだ少女のような小柄な身体とあどけなさを残す容姿に反し、凛とした良く通る澄んだ声で話すが、力が抜けると一気に幼くなる。

そんな小さなことでも愛おしく思ってしまう。



「酷い事ではないよ。

サリーも陛下もローレンナ妃も僕もそれぞれ覚悟があって、それに見合った行動しなければならない時がある。

それは立場上、気持ちとは違うことをしなければならない時も……」



僕が王命でサリーに気持ちを伝える前に、婚約と言う形を取らざる得なくなったことも含まれる。


僕の言葉にサリは「そうね……」と力なく答える。



「ここでは話づらいから……。

今日の夜はできるだけ早く帰る。

少し話す時間を作らないか?

サリーもローレンナ妃のところに行かなければならないだろう?」



僕の言葉にコクリと頷くサリーの頭をさらりと撫でる。

驚いたように顔を上げるサリーがかわいらしくてまた抱きしめたくなってしまう。



「ここで大丈夫よ。

それじゃあ夜にね。あまり無理しないで?

でも早く帰って来てくれると嬉しい」



そう言って、僕から離れ、歩き出すサリーの後姿を呆然と見送った。


『早く帰って来てくれると嬉しい……』


その言葉に思わずだらしなく緩んでしまいそうになる頬にギュっと力を籠める。

ここは王宮だ。誰が見ているか分からない。



しかし……本当にかわいいことを言われた。

今日は早く帰ろう。

そう心に決め僕はアレクの元へ急ぎ戻った。




アレクの執務室に行くとアレクは先ほどとは打って変わって真剣に書類に目を通していた。

僕に気づくと顔を上げ苦笑する。



「少し話せるか?」


アレクの言葉に軽く頷く。

僕はメイドが準備していたティーワゴンに向かい2人分のお茶を淹れる。

アレクはソファに力なく座り込んだ。


アレクの前にお茶を差し出すと

「ありがとう」と言って口にする。


僕もアレクの正面に座りお茶を飲む。

しばらく無言の時間が過ぎていく。



「サリエラ嬢はさすがだな……」


苦笑しつつアレクが言う言葉に頷く。



「王命でお前達を婚約させたが……。

もうしばらくこのままこの婚約状態を続けてもらわないといけない」


「……分かっている。

それはサリーも理解しているだろう」


「王女派の奴らが……。

俺が王女を側妃とすると宣言した後もマグネ公爵家に自身の娘を送り込もうと躍起になるのは想像できるからな……」


「あぁ。マグネ公爵家を守るためにはサリーが適任だ」


「なぜ俺たちはこうも拗れてしまったんだろうか……」



うなだれるアレクに僕も同意するしかなかった。

もちろん、こうなる前にどうにかできたことだ。

自分に言い訳をして長引かせたという自覚はある。


しかし、この件が無ければ僕たちはこんなにも悩んで、振り回されて、大事な人を傷つけることは無かったのではないかと責任転嫁もしたくなる。



「すべて終わらせて早く一緒にゆっくり酒が飲みたいな……」


「あぁそうだな……」


「王女を側妃とするのにはローレンナの気持ちもだがタイミングも重要になる。

ある程度、王女派の力を削ってからでないと荒れてしまう」


「あぁ。国内だけの問題であれば対処がそこまで難しくならないが……。

王女が関係することだからグロリアがどう出しゃばってくるかは予想できない」


「そうだ。このまま問題なく側妃として大人しくしてくれるか……。

もちろんこの調子で暴走して自滅してくれれば助かるが……。

今回、侯爵令嬢が暴れただけでは足りない。

もう少し王女派の力を削れるだけ削りたい」


「分かっている。

これからサリーを連れて社交に出向く予定だ。

ありがたいことに僕達が婚約している事を知って焦っているのだろう。

昨日の今日で王女派のやつらがこぞって俺たちに夜会の招待状をすでに送り始めている。

サリーが居れば簡単に尻尾はつかめるだろう……」


「サリエラ嬢を餌にするのは心苦しいが……」


「……彼女もカラスだ。

それも凄腕の。信用している」



僕もサリーもカラスと言う仕事と自分の気持ちとの間で揺れ動いてしまう。

僕とサリーの揺れ動く先は同じであるか分からないが……。


アレクとローレンナ妃のように……。

おかげでアレクの気持ちが良くわかる。



「アレクの気持ちも分かるよ……」


「あぁそうだな……俺もだ……」



急ぎ仕事を終わらせたと言ってもかなり遅くなってしまった。

すでにサリーは夕食を終え入浴もすましているだろう……。

ため息を吐きつつ公爵邸の玄関の扉を開ける。



「ルイ。おかえりなさい。お疲れ様」



顔をあげるとサリーが普段着用のドレスのまま僕を待ってくれていた。

思わず顔が緩んでしまう。

抱きしめそうになり手をギュっと握り耐える。



「ただいま。サリー」


笑顔でそう返事をする。


「夕食は王宮で?」


「あぁ食べてきた。

しかし仕事をしながらだから軽食をつまんだだけなんだ。

軽く何かもらおうかな」


「分かったわ。

厨房にお願いしてくるから着替えてきて?

歓談室でいい?」


「もちろん」



僕は何食わぬ顔で私室に向かう。

しかし内心はまるで夫婦のようだと浮かれ、私室に着替えに向かう足取りも無意識に軽くなってしまう。


そこでふとサリーの事を考えて立ち止まる。


サリーは僕の事をどう思っているのだろうか?

幼い頃から共に育った事で情があるのは分かる。

けれど、サリーが僕を男と認識していて僕と同じ気持ちを抱いてくれているかどうかは分からない……。


今日、話さなければならないことはこの王命での『仮の婚約』の継続。

そして社交界での王女派の炙り出しについてだ。


僕は頭を振ってそちらに意識を戻す。

まだ浮かれるには早い。


もしサリーが僕を1人の男としてではなく、兄や弟のように思っていたとしても……。

この『仮の婚約』をチャンスにして必ずサリーの気持ちを僕の方へ……。


何度、頭を振ってもサリーの事を考えてしまう自分に苦笑いしながら再び、私室に足を動かした。



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