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21 再会



久しぶりの公爵邸。

自分の部屋で私は時計に目を向ける。

時計は深夜に近い時間を指していた。


馬車が止まる音が聞こえ私は分厚いガウンを羽織り、部屋を出て走った。



「ルイ!!」

「サリー!!」



玄関に急ぎ向かったことで、ルイが私室に戻る前に久しぶりに会うことができた。

最後に合ったのは数か月前の王宮舞踏会で、その時は軽く挨拶をすることしかできなかった。



ルイはダンスに誘われることが煩わしいらしく、いつも陛下とローレンナの後ろに厳しい顔をしてたたずんでいた。


私が陛下にご挨拶に向かった時に、一言二言だけ言葉を交わす。

それがここ数年の私たちの関係だった。

いつも厳しい顔をして立っているルイの顔が、私と話す少しの間だけ微笑みに変わることが私はとても嬉しかった。




王都を出て男爵領に移ったのは、もちろん男爵としてしっかりと自領を栄えさせるためだった。

けれど何より当時、王太子だった今の国王とローレンナの結婚を期に、筆頭公爵家嫡男のルイの婚約を周囲の誰もが期待するようになった。


私はルイの婚約を近くで見たくなくて、逃げたと言っても過言ではない。




しかし私が王都を離れて4年が経った今も、ルイは婚約どころか、そのような話が社交界で流れることはなかった。


嬉しい反面、自分がルイ以外の誰かと婚約することが先になるのではないかという不安も募ってくる。





「サリー起きてたのかい?

もしまだ眠くないなら僕は今から軽食を取るんだ。

付き合ってくれないか?」


「もちろんよ。食堂で待ってる」



そう言うと子供の頃のように軽く私の頭を撫で、着替えに私室に向かうルイの背中を見送った。

その視線をライオネルに戻し声をかける。



「ライオネルもお疲れ様。

ルイと一緒に軽食食べる?」


「いや俺は部屋で食べるから二人でゆっくり食べろよ」




ライオネルの言葉に思わず頬が熱くなる。

「がんばれよ」とヒラヒラと手を振って去っていくライオネルに手を振り返し見送る。





ライオネルは私が男爵領に移ったときに、慣れるまではと執務を手伝うためについて来てくれた。


そしてずっと男爵領と王都を行き来する生活を送ってくれていた。

私がルイに抱く想いを知っているのはライオネルとローレンナだけだ。



ライオネルは私と男爵領に移った際に、私の気持ちを言い当てた。

私は正直にライオネルに、ルイへの気持ちと男爵領に移るきっかけになった理由を話した。



今回、王都に戻るようにと進言してくれたのはライオネルだ。

陛下からの依頼ももちろんあるが、そろそろ気持ちに決着をつけなければと考えていた私の背を押してくれたのだ。





私はメイドにカモミールのお茶を準備してもらい、それを飲みながらルイを待った。

お茶を飲んで一息つくと、ふと自分の今の服装を自覚した。


いくら馬車の音が聞こえたからと言っても、さすがにネグリジェの上にガウンだけを羽織って、ルイの前に出るのはよくなかったのではと焦る。

いくら分厚いガウンと言っても格好が格好だ。




子供の頃から一緒だったと言っても、最近は離れ離れに過ごしている。

前までは平気だったのに急に恥ずかしくなってくる。


今更、着替えるのもおかしいと思いながら、食堂の中をぐるぐると歩いているとルイが楽な服装に着替えて入ってきた。





ルイはまたここ数年で背が高くなった。

私は学園の頃から身長は伸びなくなってしまい、ルイは私よりも頭二つ分ほど高い。


昔は美少年という雰囲気だったが、今は精悍な顔になり綺麗な青年になっている。

水色のサラサラな髪も、深い青い瞳も昔の頃のままだったが、適度な筋肉もついて男の人になっている。




思わず赤くなった顔をうつむいて隠していると、私のそばにやってきて私の両手をそっと取り、腰を軽く折って私の顔を覗き込む。



「サリー? 顔が赤いけれど大丈夫?

疲れた?」


「……違うの……もう大人なのに子供の頃みたいに……。

寝るときの格好のまま出てきてしまったことが恥ずかしくて……」


「…………大丈夫だよ。

昔もよくこうしていたからね……」



その優しい声に思わずピクリと反応してしまう。

私の言葉に覗き込んでいたルイの顔が元の位置に戻り、うつむいている私の後頭部を優しく撫でながら言ってくれる。



しばらく二人でそうしていると、メイドがルイの食事を運ぶために入ってきた。

それに気づいて、ルイからぎこちなく離れ席に着く。

ルイも席についてワイングラスを手に持つ。



「久しぶりの再会に乾杯」

と言ってワイングラスを掲げる。



私も真似をして少しお行儀は悪いかもしれないが、お茶が入ったカップを軽く持ち上げて「乾杯」と言った。


2人でおかしくなりクスクスと笑い合い、久しぶりの深夜の再会の時間はゆっくりと過ぎていった。






次の日、朝早くからメイドに手伝ってもらい王宮に上がる準備をしていた。

今日は昼食からお茶の時間まで、ほぼ一日ローレンナと過ごす予定にしている。


ルイは既に公爵邸を出て、王宮に行ったようで朝食はエイダ様ととった。

昨日の夕食時にも最近の王都の出来事を改めて教えていただいた。

しかし今日の朝も再度、確認したかったことがあったのでいろいろお話を伺った。



エイダ様には定期的に青のカラスの報告書を送ってもらっていたが、ある程度まとめて送っていただいていたので時差が生じている部分もあった。

その齟齬を埋めるためにエイダ様からいろいろ教えていただいて、今日ローレンナから話を聞くつもりだった。


今日のドレスは落ち着いた深い緑のドレスに、サファイアの小さなアクセサリーを準備した。




「サリエラが王都に戻って来てくれてよかった……。

ごめんね。私のためよね……」


「気にしないで。あなたは私の大切な友達だもの。

あなたが大変な時はそばに居たいのよ」



私は王宮のローレンナの正妃の宮に訪れていた。

ローレンナは少しやつれたように見える


いつもの凛とした雰囲気は影を潜め、無理に笑っていることが分かってしまう。

そんな笑顔で私を出迎えてくれた。


そして席に座りお茶を一口飲んだ後にした会話がこれだった。




今の王アレクサンドル陛下。

ルイはアレクと呼ぶ陛下とローレンナは卒業後すぐに結婚して1年後、国王夫妻となった。

陛下は学生時代にローレンナを溺愛し今現在もその溺愛は変わることは無い。


しかし現在、結婚3年目。国王夫妻になって2年経つ。

問題が二つ起こっている。




「やっぱり……私……子供ができない体なのかもしれないわ……」


「そんな……もしそうだとしてもやり方はいくらでもあるわ……」




目に涙を浮かべながら言うローレンナに私は上手な返答ができなかった。

こればかりは軽い慰めや『大丈夫』だという無責任な言葉を言うことはできない。


結婚して3年。

確かに妃という立場であれば世継ぎをもうけるという重圧も半端ないものだろう。

ローレンナがここまで悩むのは実はそれだけではない。


今までもそのようなことを言ってくる貴族はいたが、今は状況が悪い方へ変わっている。




「あの方はまだ王宮に居るのね?」



私の言葉に力なく頷くローレンナ。


「……私が悪いのよ……。

アレクの愛を疑っているわけでは無いの……。

漬けこまれる状況を生んだ私が悪いのよ……。

この国の王族が側妃を娶らないのは今まで世継ぎに不安が無かったからよ。

けれど過去の国王夫妻が全てそうではないの……。

私たちのように、世継ぎが生まれなかった夫婦は国のために側妃を娶ったことはあるわ」



自分が悪いからとなんとか状況を納得しようとするもできない。

そんな自分が悪いのだと、自身を責めるローレンナに心が痛む。


私は言葉が出て来ず、涙をこぼさないように必死に耐えるローレンナをそっと抱きしめる事しかできなかった。

ローレンナの私室に静かな泣き声が響いた。


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