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19 私の武器に



学園に復帰はできたが未だ、腕は固定器具により不便を強いられていた。

そのせいでライオネルやローレンナにはたくさん迷惑をかけている。


毎朝、私のカバンを持って教室までライオネルが送ってくれる。

帰りも迎えに来て私のカバンを持って手助けしてくれていた。

そして移動教室の時などはローレンナが私の教科書を持ってくれたり、礼儀作法の時にフォローしてくれたりした。



未来の王太子妃にそんな事はさせられないと言うと、微笑みながら有無を言わさない雰囲気を醸し出されてしまう。

だから私は大人しく甘えることにしていた。




聞こえてくる噂はますますよくないものとなっていた。

しかし、私は気にすることなく普段通りの生活していた。


昼食はローレンナに誘われて、殿下とルイと一緒にとることが増えた。

それなのに毎日、ライオネルが教室に見送りや出迎えをしてくれることで令嬢たちの不満は募っているようだった。



「あの噂は本当なのかしら?」

「氷の王子様を利用して男爵家を没落させたって言う?」

「それなのにクライン男爵令息も侍らせているの?」

「まるで女王様のようね」



この噂にローレンナをはじめ、殿下やルイ、ライオネルはかなり憤っていた。

私もそろそろ真実を言わなければいけないと思っていた。

しかし私が一人になることが無いせいかそのタイミングはなかなか訪れなかった。


私はこのままだといつまでたっても私の考えの通りに物事が運べないと思いなおした。

そして、あらかじめローレンナをはじめ殿下やライオネルにもルイに話した内容を伝え協力を仰ぐことにした。



「あの……皆様。

今日の放課後にあれをしようと思っています」


私の言葉に全員が難しい顔をする。

最初に口を開いたのは殿下だった。



「そうだな。そろそろ決着をつけるべきだ。

ここまで真実ではないことに振り回されている者達ばかりに次世代を任せることはできない」


「私もそう思いますわ」


「サリー……本当にすまない……」


ルイが申し訳なさそうに俯いて両手を膝の上でギュっと握っているのが目に入り、私は胸が苦しくなる。

私はルイの手が握りすぎて自身を傷つけてしまわないようにそっと手を添える。



「ルイ様のせいではありません。

嫉妬であれば何をしても許されると思っている方々にはしっかりと理解していただかなければなりません。

皆様のお手をお借りする事には変わりありませんし。

こちらこそよろしくお願いいたします」




その日の放課後、ライオネルは先生に呼び出されたからカフェテリアで待っていてくれと私をカフェテリアに連れてきた。



「すまない。

少し待っていてくれ……。

大丈夫か?」


最後の言葉は私だけに聞こえるよう小声でライオネルが言う。

表情から心配しているのがよく分かったので私はライオネルに笑顔を向ける。



「ええ。もちろん。

ここで本でも読んでおくわ」


私の返答を聞いてライオネルは後ろ髪を引かれた様子でカフェテリアを出て行った。

私はウエイターにお茶をお願いし、カバンから読みかけの本を取り出す。


カフェテリアには私と同じように本を読みながらお茶をする生徒やおしゃべりに興じる生徒がちらほらと居た。



私は窓側のテーブルに一人で座ってお茶を飲んでいた。

広げた本に影が落ちる。



「あらぁ。サリエラ様おひとりなんて珍しいわねぇ」 


「まぁほんと。いつも男性にくっついておられるのに珍しいわぁ」


「さすが卑しい育ちの方は男性に媚びるのが上手くて尊敬しますわぁ」



甲高い声で人を馬鹿にした言い方をする令嬢の声が聞こえる。

私は顔を上げそ知らぬふりをして彼女たちを煽るように挨拶をする。


「あら。皆さまごきげんよう」


私の言葉に苛立ちを隠すことも無く10人近い令嬢達の先頭に立つ3人の令嬢が話し出す。



「噂通りの様子だわ!」

「お母様は元娼婦か何かでしょうね!」

「恥ずかしげもなく男性に媚びを売って!」

 


後ろに控えるご令嬢方もうんうんと頷き同意を見せる。

私はなおも煽るように小首を傾げ頬に手を当て「なんのことかしら?」と無言で表す。



「あなたはっ!! 虐待されたような女でしょう!?

果たして貞操も守られているかどうだか!

殿下やルイ様に媚びを売って爵位を持つ家を没落させた癖に!!

疫病神と呼ばれていたのはお似合いではなくって!?」



私はその言葉を待っていた。

優雅に立ち会がり令嬢たちに向き直る。

私が無言で立ち上がったため令嬢たちはビクリとして一歩後ずさる。



「あなたたちは、私がお願いしただけでルイ様や殿下が大事な我が国の貴族を断罪したと仰っているのですか?

私が虐待を受けていたのは事実ですわ。

あなた方は幼い頃からさぞ、ご両親に大事に育ててもらったのでしょう。

カビのあるパンはお召し上がりになったことはあって?

空腹を水でしのいだことは?

意味もなく鞭で打たれ背中が血だらけになり横になることができない日々を送ったことは?

小枝のように痩せ細ったことはありますか?

私はそんな幼少期をマグネ公爵家の方々に救っていただきました。

あなた方はそんなマグネ公爵家の方々を貶めているご自覚はありますか?」



「そんなことっ!! そんなこと言っていないわ!!」



「ここにはこの学園に通う、私達よりも上級生の方々もおられますが皆様方がどう思われるかわかりますか?」



キョロキョロと令嬢たちが周囲を見渡しどんどん顔色を悪くする。

先ほどまで本を読んでいた人たちやおしゃべりに興じていた人たちがこちらを見ていることに気づいたのだろう。



「私ははっきりと申し上げます。

5歳で両親が事故死し、男爵家を乗っ取られ、縁戚をたらいまわしにされ虐待を受けておりました。

それは事実ですわ。

マグネ公爵家に助けられ、医者の診断も受けております。

私の貞操はマグネ公爵家の医師が保証しております。

このようなことを公の場で言わせあまつさえ、この国の筆頭公爵家の嫡男、そして王太子を侮ることを言った自覚をお持ちなさい。

もちろんそれに同意を示したあなた方も同罪でしてよ」



私の言葉に後ろに控えていた令嬢たちが真っ青になる。

先頭に立つコエル伯爵令嬢フローラ嬢は顔を真っ赤にして必死になっているのが分かる。

彼女の手が先ほどまで私が飲んでいたお茶のカップに伸びるのが分かったが気づかないふりをする。


パシャッという音と共に私の髪からしずくが落ちていく。

私にお茶がかけられた。

もちろん予め、冷めたお茶を頼んでいたので火傷はするはずもない。



「あなたが悪いのよ!

礼儀作法の授業で私を馬鹿にした上に、ルイ様や殿下に近づいて!!

挙句の果てにはライオネル様を従者のように扱っているのよ!!

私はローレンナ様だってあなたみたいな疫病神がそばに侍るのはよくないわ!!

私は令嬢を代表してあなたにこうして指導しているのよ!!」




「あら? そうなの? 私はそんな事一度もお願いしていないけれど?」


「俺はサリエラの従者ではないがな……」


「君たちの発言行動は看過できるものではない」


私の後ろから出てきたのはローレンナ、ライオネル、殿下だった。

そしてバタバタと走りながら現れたのはルイだった。

手にはタオルが握られていた。



「サリー大丈夫か?

すぐに着替えを準備する。

火傷はしていないな?」


ルイは令嬢たちに目もくれず私の顔や髪にタオルを優しく当ててくれる。

その瞳は心配そうに揺れている。



「ルイ様、ありがとうございます。大したことはありませんわ」



私の言葉にルイが少し微笑む。令嬢たちを見るとルイが微笑むのを初めて見たのだろう。

一様に驚愕の表情をしていた。

ルイは令嬢達の方を冷たい視線で睨むと口を開いた。



「このことは王家と相談の上、公爵家からも各家に抗議をさせてもらう」



ルイのその言葉に殿下は大きく頷く。

令嬢たちは青を通り越して真っ白な顔色でガタガタと震えている。

私は彼女たちをしっかりと見据え口を開く。



「あなたたちは殿下を支える臣下として次世代を担う貴族の一員です。

真実をきちんと確認し、嘘の噂で自身の行動を正当化し糾弾したこと。

それはこの先、あなたたちの人生で変えられない事実として残ります。

より一層、貴族令嬢としての努力と責任を問われることになるでしょう。

しっかりしなさい!」



私はそう言うと令嬢たちを押しのけてカフェテリアに居る方々に頭をしっかりと下げる。

  


「皆様、ご迷惑をおかけいたしました。

せっかくの放課後にこんな見苦しいものを見せてしまいましたことをお詫びさせていただきます。

お詫びを兼ねてお茶とケーキを私から準備させていただきますのでよろしければ召し上がってくださいませ。

再度、ご迷惑をおかけしたことを深くお詫び申し上げます」


そう言ってウエイターに請求書を頼み、注文を聞きに行ってもらうようにお願いした。


「それではお先に失礼いたしますわ」


そして再び固まっている令嬢たちに私は優雅に淑女の礼をした。


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