表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/42

18 事件の行方(ルイ視点)



サリーが学園を休んで1か月が経とうとしていた。

僕は集まってくる情報を精査し、結論に着いた。

今回の事件は、コエル伯爵令嬢フローラとブロム伯爵家スイードとは共謀ではなかった。





まずはライオネルがマグネ公爵家の従者としてスイードを訪ねたことから始まった。

ライオネルはマグネ公爵家の従者としてブロム伯爵家のタウンハウスを訪問した。


『サリーは怪我をしたことよりも、何故こうなったかの理由を知りたいと言っている』

といってスイードに事のあらましを聞くこととなった。




しかしその時は、要領を得ない回答しか得られなかった。

結果、スイードから得られたのは『サリエラが気に食わなかったから』という話しか聞けなかった。


そこで王都に来てからのスイードの調査を始めたところ、彼が頻繁に北広場にあるカフェに一人で通っていることが分かった。

茶色のカラスの調査書にはスイードがそのカフェの店員の女性に熱心に話しかけていたことが分かった。



「その女怪しいな」


「あぁ……」


ライオネルの言葉にうなずきながら更に報告書を読み進んでいくとある部分で目が留まった。

それはそのカフェ店員の素性報告だった。



「ライオネル。当たりだ。

ここを読んでくれ」


「ん? ……没落貴族?」


ライオネルが目を通しながら言った言葉に僕はうなずく。


「この家はあのサリーの件で処罰を受けた家だ」


「おいおい、ルイ。もしかしてその時の処罰した家の者の名前を全部覚えているのか?」


「あぁもちろんだ。

サリーが怪我をした日にすべて覚えた。

とくにこの家はひどかった。

サリーに暴力をふるうのはもちろん、食事をほとんど与えていなかった……。

そしてこの女も当時、サリーに暴力をふるっていたこともわかっている」


ライオネルは僕の言葉を聞いて眉間に皺を寄せ考えている。

それを見ながら僕は言葉を続けた。



「この家はもともと男爵家だ。

けれど処罰後、平民になっても贅沢が忘れられず一家離散。

家族全員が似たような性格だったせいで、責任を押し付け合ったようだ。

仲たがいの末、この女は平民としてこの店で働いているのだろう」


「そうだな……それでどうする?」


「悪いが、ライオネル……。その店に行って彼女を呼び出してくれないか?」


「……あぁ分かった。また後で詳しく教えろよ」


そう言ってライオネルはすぐに行動に移してくれた。



今日はライオネルとともに公爵家の別邸ウエスト邸に来ていた。

ウエスト邸は貴族街にほど近い、貴族の屋敷に見立てた場所だ。


庭園でしばらくライオネルと待っていると、使用人に変装したウエスト邸のカラスに連れられてスイードが来た。

今日はマグネ公爵家とブロム伯爵家のわだかまりをなくすためという名目でお茶会を開催した。



「わざわざ呼び出してすまなかったね。まぁ座ってくれ」


「本日は……お誘いいただき……ありがとうございます……。

ブロム伯爵家スイードと申します……」



僕がそう言うとキョロキョロと挙動不審にしながらも、席に座りだされたお茶を一口飲んでなんとか挨拶をするスイード。

横に大きい体を縮こまらせながら小声でなんとか挨拶をしたスイードに僕は口を開く。



「このままブロム家と我が公爵家が不信感を持ったままでは君もお父上に顔向けできないでしょう?

今日はもう一人お誘いしているのでお話はそこから始めましょう」


僕がそう言うとスイードはまた大きな体をプルプルと震わせながらなんとか頷く。

僕とライオネルはそんなスイードを見て顔を見合わせて苦笑する。



「ルイ様。お客様がそろそろご到着だと思うので僕は迎えに行ってきます」


そう言って庭園を出て行くライオネルの背中をみながら、これから起こることにほくそ笑んでしまう。

僕はそれを隠すようにカップに口をつけた。



しばらくするとキャッキャッとはしゃぐような声が聞こえ、ライオネルの腕に巻きつくように抱き着きながら女が現れた。



「素敵なお屋敷だわ! ライオネル様、私いつこかんなお屋敷に住みたいの」


猫なで声でライオネルに言うその女は元グリス男爵家キャシーだ。

浮かれて僕とスイードは目に入っていないのかライオネルの表情のない顔も目に入っていないのか、終始ライオネルに甘えていた。


「私元々は男爵令嬢なのですもの。ドレスなんかお貸しいただけないの?

色はピンクがいいわ。

そうね、アクセサリーはパールなんてどうかしら?」


あつかましくも、そんなことを言いながら歩くキャシー。

それに気づいたのか、先ほどまでプルプルと震えていたスイードは目を瞠りながらそちらを凝視していた。



ライオネルとキャシーがこちらに到着し、スイードは驚きのあまり立ち上がる。

キャシーは彼に気づいていて無視を決め込んでいるのか。

それとも気づいていないのか分からないが、僕の顔をみて驚きながらも笑顔になる。

僕が話しかけもしていないのに僕の方に走り寄って媚びを売り出す。



「まぁライオネル様のお友達は『氷の王子様』だったのですね。

私、公爵家の縁戚の娘なのです。おぼえておられますか?

何度かお茶会でご一緒させていただいたのを」


僕の手を無断で取ろうとしたので、それを振り払って僕は彼女に嫌悪感を隠すことなく口を開いた。



「君は既に我が公爵家の縁戚か外され、爵位も没収されているだろう?

元男爵家の娘のくせに礼儀もなっていない。

早速本題に入らせていただく」


僕の態度に自分がしたことを今、思い出したかのように顔色をお真っ青にしながら言い訳を始める。



「私は何もしておりません……。

それなのにお話も聞いてもらえずに……」


「黙れ」


僕は一言でキャシーを黙らせスイードの方に顔を向ける。



「君はこの女を知っているな?

この女から言われたことを話せ」



僕の言葉に顔色を悪くしながらスイードは話し出した。


「彼女は……僕に……。

サリエラ嬢に危害を加えて学園に来なくなれば……僕と付き合ってくれると……。

彼女がサリエラ嬢のせいで貴族じゃなくなってしまったと……」


「私はこんな醜い男しらないわ!」

 


キャシーがスイードの話の途中に割って入りヒステリックに叫ぶ。

僕は苛立ちながら「ライオネル」と一言言う。


ライオネルは布を取り出しキャシーの口を塞ぎ手を後ろ手に回し拘束し、地面にしゃがみこませる。

もごもごと何か言っているキャシーに一瞥しスイードに向き直る。



「それで? 君はサリーを害そうと考え怪我をさせたと?」



スイードはそんなキャシーの様子を見て、顔を真っ青にしながら怯えつつもしっかりと頷き話を始める。



「彼女は僕が王都に来て初めて行ったカフェの店員です。

仲良くなるうちにカフェ以外でも会うようになりました……。

そして彼女がサリエラ嬢の策略で、とある公爵家に目をつけられて身分をはく奪されたと。


僕は彼女に好意を寄せていたので告白すると、サリエラ嬢が学園にいると僕と婚約し学園に通えることになったときに怖いから……。

彼女が学園に来なくなれば僕の告白を受け入れると言ったのです……」



僕は俯きつつ泣きながら事情を説明するスイードを冷たい視線で見ていた。



「それでサリエラに怪我をさせたと?」


「はい……。

家に帰り、やってしまったことの大きさに怖くなり……。

部屋に引きこもって考えているうちに、サリエラ嬢の策略で貴族位を没収されたという話に違和感を覚え彼女に会いに行ったのです。


そして、サリエラ嬢に怪我を負わせたことを彼女に言うと

『たかが怪我ぐらいであなたなんかと付き合えるわけがない』と。

『私が言っているのは命を奪えと言うことだ』

と言われて怖くなってしまい、ライオネル殿が来られた時に説明もできませんでした」



スイードの言葉に僕は頭に血が上っていくのがわかった。

思わず、キャシーの口をふさいでいる布を取り払う。



「おい。サリーを殺そうとしたのか?」



先ほどまでヒステリックに、口をふさがれながらも騒いでいたキャシーがガタガタと震えだし顔色を真っ白になりながらうつむく。



「返事は?」


「…………ちがうんです!! 私は本当に死ねばいいとは思っていませんでした!!

そいつが勝手に!! うっ……」


キャシーが必死に言い出したことに不快感が頂点を超え、髪をぐいっとひっぱり上を向かせる。



「黙れ。僕はお前が何をしようとしたかを聞いている。

さっさと話せ」


キャシーはパクパクと陸に打ち上げられた魚のように口を動かす。

ライオネルがキャシーの髪を握っている僕の手にそっと手を添える。



「ルイ……そこまでにしよう。

あとは彼女に任せよう」


ライオネルの後ろに来ていたメイドの服を着ているフレア先生が微笑んでこちらを見ていた。

僕は落ち着くために大きく息を吐きキャシーの髪から手を放す。




「坊ちゃま手が汚れております」


すかさずウエスト邸の使用人に変装したカラスから濡れたタオルを渡される。

僕はタオルで手を拭き「連れていけ」とだけ声に出した。



ライオネルに引きずられ、メイド姿のフレア先生に連れられてキャシーが屋敷に消えて行った。

僕は椅子に座り、冷めたお茶を口にする。

メイドが入れ替えようとしたがそれを手で制する。


今は怒りで頭が熱くなっているから、冷めたお茶でちょうどよかった。

スイードは未だ呆然とキャシーが連れられて行った方を見ていた。



「スイード」


僕の声にビクリと体を揺らし、恐る恐るこちらを見るスイードに言葉を続ける。



「この件の処遇は公爵家からブロム伯爵家に通達をする。

学園を退学にすることはしないが謹慎はあるだろう。

ただし今後、一切サリーに接触する事は禁止する」


僕の言葉に涙を流しながら

「ありがとうございます」と何度も繰り返すスイードを使用人に馬車に連れて行くように指示した。



次の日、公爵邸にやってきたフレア先生から報告を受けた。



フレア先生は表向き医者であるが、カラスの中ではマッドサイエンティストと言われかなり恐れられている存在だ。


彼女は毒や拷問に精通している。

毒殺をする際の毒や、自白剤、そして毒や薬が効きにくい体になっているカラスの治療薬などの専門家だ。


今回、どのようにキャシーから話を聞き出したのかは詳しくは語らなかった。

それは僕も詳しく知りたくないので追及することはない。


「坊ちゃん。今回の報告書よ。

暗殺者を雇おうとしたけれどお金が足らなかったみたい。

落としやすそうだったスイードを使おうとしたみたい」


「ありがとう」

と言いながら報告書に目を通しつつフレア先生の話に耳を傾ける。



「ほかにも学園に通っていそうな令嬢や令息を捕まえて、サリエラちゃんの過去を言いふらしていたみたいよ。

まぁ詳しくは報告書を読んで。

私はサリエラちゃんの様子をみてから帰るわ。

またね」



そういって手をふりつつ部屋を出るフレア先生を見送り再度報告書に目を向けた。

結果、先ほどフレア先生が言ったようにキャシーが複数の学園の生徒にサリーの事を話していたことが書かれていた。


僕はできる限り茶色のカラスを使いカフェであの女と接触していた学生の情報を調べていた。

そんなことをしているうちにサリーの学園復帰が決まってしまった。



僕は思わずため息をつく。

サリーが学園に復帰するまであと3日と迫っている。

自分の対処の遅さでサリーに自ら、自分の噂を対処させることになってしまった。


僕が彼女を守りたかったのに……。


この気持ちはサリーと兄妹のように育ったからだと、この時まだ僕は疑っていなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ