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16 冷静と怒り(ルイ視点)



サリーが怪我をした次の日。

僕はライオネルと共に馬車で学園に向かっていた。



「学園側はまだ事故か故意的か、という決断はつけていないようだ。

サリーにぶつかった男子生徒は自主的に謹慎することになっている。

サリエラにぶつかったのはブロム伯爵家嫡男スイード。

体格はふくよかな部類に入る。

素行も悪いというほどでもない。

多少、粗暴な節は見られていたが田舎貴族だからと多めに見られていたようだ」

 


ライオネルの言葉に僕はうなずく。



「サリーに言いがかりをつけていた令嬢は?」


「そちらも確認済みだ。

4クラスで初回のお茶会を模した授業でサリーにコテンパンにされたコエル伯爵家令嬢フローラだ」



僕はカラスの報告書を頭の中でめくりながら2家の共通点はないかと探る。

しかし、ブロム伯爵はクォーツ国の東の田舎の貴族で、農耕も牧畜も盛んな古くからある貴族家。



一方コエル伯爵は王都で代々財務に関する部署で働く家系。


共通点が見当たらない。

僕が眉間に皺を寄せ、腕を組みながら考え込んでいるとライオネルが声をかけてきた。



「何も出てこないか?」


「あぁ今のところは……。

家の関係だけじゃなく、本人同士に何か共通点があるかもしれない……。

本当にただぶつかってしまった事故かもしれないが……。

念のため今日の帰りにブロム家に寄って話を聞いてみてくれないか?

サリエラが気にしているとかなんとか理由をつけて。

難しそうなら、漆黒のカラスを動かせるか父上に頼んでみるから、まずはライオネルに頼みたい。

俺は二人の関係を学園のカラスを使って探ってみる」


「おう。分かった。任せろ」



ライオネルの強気な返事に少し安心しながら、今日まずアレクとローレンナ嬢にサリーの事をどう説明するか考えた。



学園に馬車がつく。

今日はいつもいるはずのサリエラが居ないことに気づいたのか、令嬢たちが我先にと僕とライオネルに近寄ってきた。


その中にコエル伯爵令嬢フローラを見つける。

頬を染めこちらに近寄る姿が目に入り思わず背筋に悪寒が走り、顔が強張る。

これが怒りから来るものだと冷静な自分が判断する。



元々、令嬢に対して冷たいことから『氷の王子様』という恥ずかしい二つ名までつけられているので強張らせた顔のまま校舎に向かう。

ライオネルは本人曰く『年上の余裕』と言いながら愛想を振りまきながらついてくる。



王家に近しい筆頭公爵家。

そして母上に似た顔の造形だけで近寄ってくる令嬢。

中身のない着飾ることにしか興味のない令嬢に囲まれ続けたことで、僕は女性というものに本当に興味がわかない。


美しいものは僕も美しいと感じるけれど人に関しては中身が伴ってこそだと思ってしまう。

だから少しの会話で飽きてしまう。


『こんなものか』と……ただ一人を除いて……。




「ルイ様! あの! サリエラ様のご様子は?」



僕の腕を引きそう言ってきたのはコエル伯爵令嬢フローラだった。

僕の気を引きたいがためにサリエラの名前を出す。

そんな雰囲気を纏っている。


なぜなら、僕の腕を掴んでいるその人間の瞳の青は喜色に満ち溢れているからだ。



本当にサリーを心配している顔ではない。

僕は掴まれている手を振りほどき

「知らない」とだけ言いその場を離れた。




ライオネルと分かれて教室に入るとアレクと珍しくローレンナ嬢が居た。

僕の顔を見つけると僕に駆け寄り、不安そうな顔を浮かべ問う。



「ルイ様。おはようございます。

……あの……サリエラは……」


「おはようございます。ローレンナ様。アレクも。

授業が始まるまで少し場所を変えても?」



2人は僕の言葉に頷き、連れだって歩き出す。

本当に心配してくれる友人がサリーのそばにいることに安堵する。

2人といつもの隠れた東屋につく。



「すみません。ルイ様。

どうしてもサリエラが心配で……。

右手をケガしていたので手紙を書いても、返事が書けないことに気を使わせてしまうと思って。

ルイ様に尋ねる事しかできなくって」


「ローレンナ様、お気遣いありがとうございます。

サリエラは骨折しておりまして1週間ほどは熱が出るとのことで安静にする予定です。

その後は、2か月ほど学園は休むことになりました。

体調が良くなり次第、ご連絡しますのでぜひサリエラに会いにお越しください」




僕の言葉にショックを受けたようで

「2か月も……」とつぶやくローレンナ嬢にすかさずアレクがフォローをする。



「学園があればなかなかゆっくりできることも無い。

これを機会にサリエラ嬢も休息を取り、また学園で一緒できるまで待とう?

もちろん彼女の調子が良ければローレンナが行くとサリエラ嬢も喜ぶだろう」


「そうですよ」




アレクの言葉に同意を示すとローレンナ嬢は強張っていた表情を緩めつつ

「ありがとうございます」と微笑んだ。



「ところでローレンナ嬢にお伺いしたいのですが、あの日コエル伯爵令嬢はサリーに何を詰め寄っていたのですか?」


「……あのご気分を害されると思うのですが……」



そう言いながら伺うようにこちらを見るローレンナ嬢に僕は軽くうなずき問題が無いと伝える。

一つ息を軽く吸い意を決したように話し出したローレンナ嬢の話にしっかりと耳を傾ける。



「今までサリエラに口止めされていたのです。

自分が何とかするからと。

彼女が2クラスに居ることに関して最初の頃、令嬢や令息達の嫉妬もあったのですが……。

定期テストの結果が出て、言いがかりをつけてくる方はほとんどいなくなりました。

しかし、殿下と私が婚約をきっかけにルイ様とサリエラも共にいる時間が増えましたでしょう?

それで今まで受けていた私の分の嫉妬もサリエラに向かうようになったのです……」




ローレンナ嬢はいつも凛とした雰囲気を醸し出す令嬢だが、今は眉間に皺を寄せ怒りを我慢するような表情をしている。

アレクも似たような表情をしている。

そして僕もおそらく眉間に深い皺が入っているだろう。



「あの日コエル伯爵令嬢にサリエラが言われていた言葉は……。

『婚約者でもない癖にルイ様の隣に立つなんて』

『男爵なんて下位の者が夢を見るんじゃない』

『卑しい育ちのくせに』

というような言葉でした……」



最初の二つは予想通りの言葉だった。


しかし『卑しい育ち』とは……。

彼女が虐待を受けていることを知っているような……と思うのは深読みしすぎだろうか?


行儀見習いとして公爵邸で生活していることを指すのであれば分からないことも無い。

優秀なものほど早くに行儀見習いとして高位貴族の屋敷に引き取られることは少なくない。


まさかその意味を知らないとは思えない。



僕が考え込んでいるとローレンナ様が

「そう言えば……」と再び口を開く。



「意味がよく分からなかったのですが『あなたは辛気臭い場所がお似合いじゃないの?』とも言っていました」



その言葉に僕は確信を得た。



「ローレンナ様ありがとうございます」

そう言って僕は急ぎライオネルの元に走った。




「ライオネル……」



僕は息を切らしつつライオネルが居る3クラスに向かった。

僕の気配に気づいたのか人が少ない廊下でライオネルが待っていた。



「ルイ。

いくら俺が公爵家の縁戚で行儀見習いだからと言っても学園で親しくするのはやめようと話していたよな?」


「すまない。しかし急ぎ確認してほしい事がある」



ライオネルの苦言に素直に謝罪し、僕はライオネルに至急用件を伝えた。



「サリエラの最初の件で処罰を受けた家の者が学園に居ないか調べてくれ」


「どういうことだ?」


「サリエラの過去の事が流れている可能性がある」



ライオネルは僕の言葉に殺気を思わずと言ったように出してしまう。

ライオネルの肩に手を置いて落ち着かせながら言う。



「落ち着けライオネル。

あの件に関わった者の処分後は屋敷に戻ればすぐにわかる。

しかし両親が離縁し、母方の姓に代わって入学している可能性もある。

噂の出元をしりたい。もちろんほかのカラスにも指示をする」


「わかった。できる限りしらべてみよう」



ライオネルの返事を聞き僕は教室に戻った。

授業はすべてうわの空で、屋敷に戻るまで必死であの時の処罰を受けた家の家系図を思い出していた。




僕は帰宅後すぐに母上の部屋に向かった。


「母上。お時間を取っていただきありがとうございます」


「前置きはいいわ。用件を話しなさい」



母上も今回サリエラが怪我をしたことが腹に据えかねているようだ。

珍しく苛立っているようだった。



「今日の報告とお願いがあります」


僕の言葉に少し驚きの表情を見せながら椅子に座るように促してくれる。

お茶を準備してくれ一口飲み話しはじめる。



「まずは事件に関わったと思われる令息令嬢に関しては現在調査中です。

それに加えて、ローレンナ様から興味深い話を聞きました」


「ローレンナ嬢ね。彼女も聡い子だからいい情報をくれそうね」


「ええ。ローレンナ様の話だとどうやらサリエラが虐待されていた話が出回っているようでした。

あの日、サリエラに言い寄っていた令嬢が『卑しい育ちのくせに』『辛気臭い場所が似合いだ』と言っていたそうです。

そこで母上、処罰を受けた家のその後の状況を調べたいので茶色のカラスの使用許可を」




僕が話した内容がよほど不快だったのだろう。

母上の眉間に深く皺が刻まれていく。



「茶色の? 青ではなくて?」


「えぇ。あの話が出回っているということはどこかで関係者が接触しているとみていいでしょう。

学園ではすでにライオネルが調査済みです。

関りの合った家の令嬢、令息はおとなしく、勉学でも優秀らしいのです。

そしてそれとなく聞いたところ、しっかりと緘口令を守っておりました」




母上はしばらく考えた後

「なるほどね……。いいわよ。茶色のカラスの使用許可を旦那様に出してもらうように伝えるわ」と言ってくれた。


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