10 学園に入学(ルイ視点)
僕が14歳となり、サリーとライオネルは16歳となった。
僕の身長は伸びてサリーとは頭1つ半の差がついた。
けれどライオネルは僕の頭一つ分高い。
2歳の年齢差はなかなか埋まらない。
今日から僕たちは学園に入学する。
サリーは虚弱だった体もほぼ健康になり、ライオネルは僕たちに合わせて入学すると決めていた。
サリーは2歳差であるが相変わらず小柄で、母上に鍛えられた結果、かわいらしい笑顔でその場を支配するような雰囲気を醸し出し社交界を羽ばたいていた。
それに領地経営では2年前にフリック経由で渡されたブローイン男爵領の改革案が通り、改革に成功した。
それにより父上を後ろ盾として成人後ブローイン男爵位を正式に継ぐことが決定した。
公にサリーはブローイン男爵と前もって名乗ることが許されている。
既に男爵として領地経営に携わっており、領地にはカラスの中から引退したものを代官として雇い日々忙しくしている。
それでも母上から渡される様々な報告書に目を通し、自分の考察を交え報告書をまとめることもしていた。
そして昨年、サリーがきっかけで再調査を行ったドルマン伯爵の不正事件は見事発覚することになった。
王家を謀ったとして罰金と爵位降格が決まりドルマン伯爵家はドルマン男爵家と爵位を下げた。
貴族位はく奪とならなかったのは、王家からの助成金や補填金が支払われる前だったことで事前に防いだことによるものだった。
今日は3人で学園に登校するので玄関に向かう。
白いワンピース型の制服に白いジャケットを羽織ったサリーが目に入る。
本当にここ数年で健康な体つきになり髪も艶のある薄い金色が輝いていた。
「またせたね。二人とも」
「いいえ。私たちも今来たところです」
「ルイも似合ってるな制服」
そういうライオネルは明らかに同世代よりも体ができ始めており、しっかりとした肩幅に白のジャケットがよく映えていた。
「サリーもとても制服が似合っているよ」
「ありがとうございます。ルイ様」
サリーの言葉に思わず息を飲む。
今までサリーは僕の事を『ルイ』と呼んでいたのだが数か月前から『ルイ様』と呼ぶようになった。
一度問いただしてみれば、
『単に行儀見習いに過ぎない私が、気軽にルイと呼ぶのは学園で奇異の目で見られることになる』
と反論の余地のない意見を言われ、僕はうなずくしかできなかった。
気を取り直してサリーに手を差し伸べ
「さぁ行こうか」
と促せば嬉しそうに僕のエスコートを受けてくれた。
ふとサリーの髪に目が行く。
サリーの髪には昔、彼女にあげた水色のリボンが飾られていた。
僕はサリーにばれないように無意識に上がりそうになる口角をぎゅっと引き結んだ。
学園に到着し、馬車を降りサリーをエスコートしようとしたが、無言でライオネルに反対された。
あまり僕がサリーを優遇してしまえば、ほかの令嬢がサリーによくない感情を抱いてしまう恐れがある。
だからサリーとは行儀見習いとその家の者という距離感でいるようにと先日ライオネルから釘を刺された。
『女の嫉妬は怖いぞ。
サリエラはルイの婚約者でもないのに変な憶測でサリエラの学園生活を乱さないでやれ。
それにサリエラは令嬢の中で自ら地位を証明していかなきゃならないんだ』
珍しく真面目な顔で言うライオネルに僕は素直にうなずいた。
苦笑しつつもライオネルの手を取るサリーを見て、大事な妹がとられたからか胸が少し苦しくなる。
そんなことを顔に出すわけにもいかず僕はたくさんの令嬢令息の視線のなか前を向いてサリーとライオネルの前を歩いた。
学園の入学式で、僕と王太子のアレクは挨拶があるので壇上で待機していた。
アレクは王族を代表してあいさつをする。
僕は主席入学の挨拶をする。
入学時、一応試験というものが実施されよほど成績が悪くなければほとんどの貴族の子供が入学できる。
アレクは王族のため、すでに学園で履修する内容は終えているので試験は今後も受けることは無い。
だから僕が主席となった。
そして先に父上が手に入れた学園入試時の成績順を見ると僕に続き、サリーが2位、ライオネルが3位だった。
ここまで5点も差がない順位だったため、主席を取ることができて思わず安堵したことは記憶に新しい。
そんなことを考えていると壇上で周囲に誰もいないことを利用してアレクが小声で話しかけてきた。
「成績順見たぞ。危うかったな」
「うるさい」
「それにしてもサリエラ嬢はかなり人気だぞ。見て見ろ」
「それがどうした」
アレクの言葉に思わず眉間に皺が寄りそうになるのをグッと堪える。
そう言われてサリーの方を見ると、周囲の男子生徒がちらちらとサリーの事を見ているのに気づく。
そっけなくアレクに返すと苦笑混じりの声で僕に話し出す。
「サリエラ嬢はすでに男爵位を得ることが確定している。
下位貴族の次男以下が黙ってそんな優良物件を見逃すはずないだろう。
それにサリエラ嬢と縁付けば、実家にもマグネ公爵との縁を期待できる。
本人もうまく本性を隠してふわふわとした穏やかな令嬢に見せているしな。
そして頭も良いとなれば今後、安泰なことは確実だ」
「まだサリーをほかのやつにやることは考えていない」
アレクの言葉にぴしゃりとそう言ってのけるとアレクは今度こそ大きなため息をつきながら言う。
「お前いつまで父親気分。いや兄気分なんだ。
彼女はお前よりも年上の魅力的な女の子だぞ」
「…………そんな事は僕が一番わかっている」
僕の返答は壇上の真ん中に向かったアレクの耳には届かなかった。