ラインラント進駐
イスパナ内戦が激化する中、帝国は非武装地帯であるはずのラインラントに軍をすすめた。
帝国と共和国の国境線は一時緊迫した状況となったが、それ以上の進展はなく、連合国からの非難声明で終わった。
「まったく、どうかしていますわ。まかり間違えば戦争一歩手前でしてよ」
いつもの4人での会議という名のお茶会。
新聞を開いていたローザ様があきれた声を紡がれました。
「連合国としても前大戦のようなことが起こるのを良しとしない以上、非難声明以上のことができないんですわ」
「ベルネス王国としても非難声明はだしましたけれど、それだけですものね」
「あたくしたちの国だけで帝国とやり合うのは不可能ですものね」
まったくもって事実ですわね。
前大戦ではそれぞれの同盟国同士の防衛協定によってヨーロッパ中に戦争が広がったわけですが、同じ轍を誰も踏みたくはないわけです。
あれは互いに国力を疲弊させるだけの戦いだったというのが今の認識です。
そして今後の戦争は、より総力戦とならざるを得ないことは容易に想像がつきます。
「ユーディ戦車の量産は順調ですし、関連する対戦車砲の配備も軍の要求を満たせました、対空自走砲とくちく・・・突撃砲の配備もほぼ完了、我が国としてはかなりの防衛体制を引けているのではなくて?」
「はぁ、ほんとうに、戦車の名前どうにかならないのかしら」
「もう無理ですわね。改良型すらユーディMk2ですわよ」
「泣きたくなる事実ですわ」
ユーディ戦車は結果的に国内に現在100両が配備されました。
価格は生産当初の約半分にまで低下、車体を流用した派生機種は駆逐戦車もとい突撃砲と呼ばれる12.7cm砲搭載の車両、8.8cm対空高角砲を積んだ対空戦車に、車体を活用した兵員輸送車にまで及びます。
ほとんどの部品を共通化できており、車体本体の生産数だけで言えば500両を超える勢いです。
特に、兵員輸送車は歩兵の方から評価が高いですわ。
20mm機関砲に、45mmの傾斜装甲で全周を守られ、戦車と等速で進軍し、車両後方から乗り降りし、かつ乗車戦闘も可能。
さらには、物資輸送と燃料輸送にまでこの車体を使う話が出ており、そのうち我が国から軍用トラックがいなくなりそうな勢いです
車体の設計が優秀だとなんにでも活用できますわね…ですけど大丈夫でしょうかそんなことして
「そういえば、シルビア様とニーナ様はご懐妊とか?」
「えぇ、おかげさまで」
「で、ユーディ様とローザ様はいつご結婚成されますの?」
「「あきらめておりますわ」」
「・・・」
「貴族としてそれでよいのですか」
「別に養子をとればいいだけの話ですもの、結婚より仕事ですわ」
「今じゃあ私がアルセロール軍事部門のトップですのよ?結婚なんて二の次ですわ」
「ま、まぁそれで両家ともお認めならば良いのではないでしょうか?」
二人に呆れた顔をされましたが、実際そんな暇ないのですわ。
各種改良に、次期主力戦車の設計、それに伴う技術試験。
やることは山とあります。
別に一人で行っているわけじゃありませんが、その指針を示さなくてはなりません。
今研究しているのは複合装甲と呼ばれるものですわね。
現在使われる対戦車砲弾の一つHEATですと、どんなに装甲厚を増やしても防ぐのに限界があるのです。
なにせ、平気で350mmほどの装甲を打ち抜きますからね。
ですが、HEATは薄い板を1枚手前に置くだけで、その貫通力を抑制できることが分かっています。
現行のMk.1などには、追加装備として溶接でブラケットを取付エプロンを取り付けることで防げることを確認しておりますの。
車体各所にt2程度の板をぶら下げる形ですわね。
不格好になりますが、それだけで防御力が強化できるならやるべき改良ですわね。
複合装甲は、この後付けエプロンをはじめから装甲に組み込み、HEATだけでなく徹甲弾に対する防御力も高めようという研究ですわ。
1枚の分厚鉄板を用意するより、ある程度の厚さの鉄板を複数重ねたほうが、徹甲弾に対する防御力も上がるようなのです。
まだ、明確な答えが出ておりませんし、製造が面倒なため相当お高いですけれど、今後の為ですわ。
何せ、帝国の4号戦車に我が国のMk.1が戦えるかまだ分かりませんからね…




