婚約破棄とお国のために
夕方、久しぶりにお父様がご帰宅なされた。
「ユーディ!元気にしていたか!」
「お父様!元気にしていたかではありませんわ。
お父様が選んだ婚約者のマルクスが平民女にうつつを抜かし、私のことを蔑ろにしているんですのよ!!」
「なんだと!?それは本当か!!」
マルクス・フォン・フォーゲル令息、それが私の婚約者。
私が10歳のときにお父様の同僚の方との縁つなぎで婚約いたしましたが、今では私を無視して別の女の尻を追っかけるクズですわね。
つい昨日まで慕っていたのが嘘のように今は心が離れてしまっています。
あの夢のせいでしょうか?
婚約が調ったころに見せていたあの笑顔をここ2年は見た記憶がございません。
私は、これまでの経緯をお父様に説明いたしました。
包み隠さず、私がその平民女性を虐めていたことも話しました。
「フォーゲルがどうしてもというから結んでやった婚約なのに、ユーディを悲しませるようなことをするとは…」
「お父様、この婚約の破棄をお願い致しますわ」
「…わかった、そもそもは浮気することが許されんことだ。私がなんとかしよう
お前も、もう平民の女を虐めるような真似はするなよ」
「申し訳ございませんでした。よろしくお願いいたします…
ところでお父様、我が国に”戦車”はありますの?」
「ん?どうしたのだ突然」
「いえ、ちょっと気になっただけですわ。
我が国は大国間に挟まれておりますでしょう?
共和国は前大戦の反省から国境線沿いに要塞を建築しておりますけれど、我が国との国境には何も作っておりませんから…
もし、両国がまた戦争を始めるようなことがあれば、我が国が前線になってしまうかもしれないのでしょう?」
「学校では真面目に勉強しているのだな…たしかにその可能性がないとはいえない。
現在陸軍では確かに戦車などの研究は進めているが…
王立国家が使用したような塹壕を乗り越え歩兵と共に戦う戦車の試作を始めているところだ」
「そうなのですね」
やはり、神様がくださった本の戦車はまだないようですわ。
本の中には共通項として、1つの全周式砲塔、十分な機動性というものが謳われておりました。
前大戦で王立国家が使ったMark1戦車は複数の砲をもって人とともに進軍する地上戦艦のようなものだと我が家の文献には書いてありました。
「お父様は戦車の開発に関わっておりますの?」
「多少な、だが我が国は基本防衛を主体とする軍隊だ。
塹壕を乗り越えて攻め込む意味合いは薄いから、あくまで研究用として我が国でも作ってみようというところだ」
「…そうですのね、ありがとうございました。
お父様夕食は家で食べられるのでしょう?もう少し詳しくお聞かせ願いますか?」
「あまり機密なことは話せないが、まぁいいだろう」
こうして私は久しぶりに父との夕食の席で、現在の我が国陸軍の基本的戦術の考え方など教えて頂ける範囲のことを教えてたいだけました。
その代わりに私の学校生活についてのお話をずいぶんすることになりましたわ。
学校ではアンナ・レーマンによって、私以外にも数名の貴族令嬢の婚約者がたぶらかされ浮気をしていることをお伝えいたしましたわ。
父は何事かと怒りをあらわにしておりました。
まったく同感ですわね。
家同士の繋がりのための婚約ですもの、それはひいては国の為ですのに…
それでも、父との久々の食事は楽しい時間でした。
我が家は母がおらず、子は私だけで父は仕事柄なかなか家に帰ってこないモノですからね…
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