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88:『仕方無く』

この頃、暑かったり寒かったり。

丁度良い気温で止まって欲しいですね。







 何とか逃げ切ったエルダの背の方から、王城が崩落する轟音が響いた。

 砂煙が辺りを立ち込め、まるで狼煙の様に天へ昇っていった。

 崩れたのは、王城の前部分のみ。

 エントランスの真上の天井が落ちて来た感じだ。

 だがそのせいで元々の入り口は消え、地下牢への入り口も閉ざされた。


「グリリア………………」


 エルダはそっとそう呟いた。

 地下牢への階段が閉じられたのは、一目瞭然であった。

 最悪グリリアはあの中で………………


「えっ、呼んだ?」


 突然後ろから、グリリアの声が聞こえた。


「ぅわぁゎゎゎぁぁ!!」


 思わずエルダは、変な声をあげてしまった。

 膝の力がふっと抜け、地面に尻餅をつく。


「いててててっ」


 エルダは、自身の臀部を摩りながら、そう呟いた。

 目の前には、砂埃を目一杯被ったせいか、身体中がクリーム色のグリリアが、時々咳き込みながら立っていた。


「逃げ出せたんだな…………」


 ゆっくりと立ち上がりながら、エルダは言った。

 臀部の砂をぱっぱと払い、その払った手と手に付いた砂をもう一度払った。

 エルダは、自然と笑みがこぼれ落ちたのを感じた。


「まぁな。此奴に助けられて。」


 そう言ったグリリアの後ろから、ギニルが姿を現した。

 背中を丸め猫背になっていて、エルダやサラナに目線を合わせない様、ずっと下を向いている。

 そりゃぁそうだ。

 グリリア(友人)に刃を向けた上、王の命に逆らえず少女の笑顔を奪った弱者。

 それを知っているであろうエルダやサラナには、顔を合わせる事すら抵抗がある。

 ミロルには憎まれているだろうか。

 サラナには失望されているだろうか。

 エルダには軽蔑されているだろうか。

 ノールは自分に殺意を覚えていたりするのだろうか。

 もし自分が殺されるのなら…………

 それも良い。

 こんな奴、さっさと殺してくれた方が、自分としても清々する。

 だが。

 それでは駄目だ。

 それは自分が一番わかっている。

 ちゃんと面と向かって話をしないと。


「そ、その……………………」


 もごもごした声で、ギニルは言った。


「本当に済まなかった。自身の身を一番に案じたばかりに、本来救出すべきビルクダリオの、しかも子供の笑顔を奪う様な蛮行に加担してしまって。

 そう軽々と許して貰える様な事で無いことは、重々承知している。

 だがどうか………………

 許しては貰えないだろうか。

 この愚かな自分を……………………」


 ギニルは、腰を直角に曲げ、さっきのもごもごした声とは対照的に、ハキハキとした、少し震えた声で謝罪した。


「…………私からも頼む。王に従わなければギニルは殺された。仕方が無かったんだ。どうか、私の親友を…………」


 そう言いながらグリリアも、深々と頭を下げた。

 それを見兼ねたミロルは、ノールの手を離れ、ギニルの下へズカズカと歩いた。

 そうしてミロルは、ギニルの頬を、赤いアザができるほど強く叩いた。

 パチンッと、甲高い音が、場に響いた。


「何が“仕方無い”よ! あんたのせいでお母さんは! お腹に怪我をして! 今もこんなにボロボロになって。

 私達とは一切関係のない貴方達の、無責任で自分勝手な“仕方無い”行動のせいで、私は…………お母さんは………………」


 そう叫びながらミロルは、涙を流した。

 それを見たノールは、咄嗟にミロルの下へと走り、ミロルを抱きしめた後、ギニルを睨んだ。


「私は、殴られて当然の事をした。ナイフで刺されても、仕方無いと思っている。

 私は。

 貴女(ノール)のお腹を刺した時、私は心が痛かった。逃げ行くミロルちゃんを見た時、私は心が締め付けられた。とても生意気な事を言っている様に聞こえるかもしれないが、何の罪悪感もなく、傷つけた訳ではないと言うことを、どうか信じて欲しい。」


 ギニルは、叩かれた頬を軽く手で押さえながら。再び頭を下げた。

 よく見ると、グリリアはほぼ無傷なのに対し、ギニルは、背中や腕などに大量の外傷があった。

 傷位置を見る限り、ギニルがグリリアを庇いながら此処まで助けて来た事が直ぐに理解できる。

 ノールは、睨んでいた目つきを少し緩め、ノールを抱きしめていた腕も、少し緩めた。


 そんな時。


「こんな雰囲気の中言うのは非常識だが、時間が無い。済まないが続きは後にしてくれ。」


 マグダが、一見空気の読めない様に、ノールとギニルの間に割って入った。

 ノールもギニルも困惑し、口をパクパクしていた。


「エルダ。お前が国王を殺したのか?」


 エルダはマグダのその問いに、ドキリとした。

 そうだ。

 国王は死んでいない筈だった。

 だが、気付くと死んでいて、死んだ筈のノールが生き返っていた。

 よく考えると、あの時の頭痛と流れて来た記憶は。

 あの、ジュルカが国王の腹を刺していた、あの記憶は……


「俺は殺していない。恐らく、途中で王城へ侵入して来たジュルカという老爺が殺した。」

「ジュルカ………………誰だ?」

「あれだ、子供の頃よく村に、農作物を買い取りに来てくれた旅商人。大人になっても知り合いだったから顔見知りでさ。確かオームル王国から来てるんだっけ。」

「…………エルダ、何を言っているんだ?」

「…………何を言っているんだろう。」


 エルダは困惑した。

 自分でも何を言っているのか。

 子供の頃?

 子供の頃なんか、母の薬代を稼ぐためにずっと働いていたじゃないか。

『大人になっても……』って言ったって、俺はまだ子供だ。


 ?



「まぁ良い。エルダは殺していないんだな?」

「あ、あぁ。」

「なら良し。ギニルとエルダとサラナさんは此処に残って。グリリアさんとノールさんとミロルちゃんは、『国王が崩御なされた』という報せを、スラム中に回して下さい。そして、この王城前に集めて欲しい。

 よろしくお願いします。」


 そう言ってマグダは、頭を下げた。

 その顔を見るに、説明する暇は無いように思える。

 それを悟った全員は、マグダの言う通り動いた。


「集め終わったら、また此処に集合して下さーい!」


 走ってギャリグローバへと向かう三人に向かって、マグダはそう叫んだ。



 三人の姿が見えなくなり、残った四人は、顔を合わせていた。


「えーっと………マグダ様は一体何をしようと……」


 サラナは、恐る恐る訊いた。


「済まないがサラナさん。持っている通信魔石を借りても良いですか?」


 マグダはその問いに答えず、サラナにそう要求した。

 サラナは答えてくれなかった事をあまり気にせず、一応ポケットに入れていた魔石を取り出した。


「エルダ。確か、前に盗聴されていた時の魔石って、まだアルゾナ王国にあったよな?」

「あぁ、確かあった気がする。」

「よし。」


 そう言ってマグダは、魔石を手のひらに乗せ、念じた。


複製(コピー).通信」


 そうマグダが言った瞬間、魔石が鮮やかな空色に光出した。

 そうして数秒間光った後、光は消えた。

 その後マグダは、その魔石を耳に当て、ごにょごにょと話し始めた。


 何処と話しているのだろうか。

 話の流れ的に、アルゾナ王国と、か。


 そうして暫くマグダは小さく話した後、マグダは、魔石を耳から離し、胸ポケットに仕舞った。


「アステラ王と話をつけた。この国、カルロスト連邦国を、私達アルゾナ王国と統合する。」















 

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