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83:脆弱なる己

プロローグを、少しだけ加筆修正しました。








 いつからか。

 俺は勘違いしていた。

 自分が強いと。

 何者にも負けないと。

 なんでも守れると。


 慢心していたのだ。

 いつからだ。

 オーザックの死を以ってしても、未だ理解していなかったのだ。

 そんな、脆弱なる己を、忘れていた。

 いや、忘れたかったのか。

 自分に自信を持ちたかったのか。

 オーザックの時の無念を、嫌と言うほど痛感した自身の脆弱性を、知りたく無かったのか。

 自分は、大陸に四人しか居ない極魔法使い。

 自分は、大陸で唯一の浮遊魔法師。

 その肩書きが、脳裏をいつも過っていた。


 慢心していたのだ。

 知らぬ間に自分は、他人を自身よりも下に見て、偉そうにしていたのだ。

 実際立場的にアルゾナ王国の王族に当たるので偉くない訳では無いのだろうが、そう言った物ではない。

 人間として、他人を蔑み、大して強くもない自分は特別なのだと。



 巫山戯るな。

 だから今俺は地面にへたっているのだろう。

 大切な人を守れなかった。

 呆れる。

 弱い自分に

 惚ける。

 ただ無念に浸ることしか出来ない自分に。





 サラナは、ノールを抱き抱えた状態で倒れていた。

 背中には爆発の衝撃で、焼け、爛れた皮膚が露見し、口や鼻からは、途轍もない衝撃波のせいで血がだらだらと流れ続けている。

 爆発自体は小規模であったが、その程範囲内の衝撃波は計り知れない。

 本当は脈や呼吸を確認しなければいけないのだろうが、今のエルダに、そんな気力は無かった。



「はっ! さっきまでいけしゃあしゃあと調子に乗っていた浮遊魔法師様がこのザマかい。結局お前には、何も守れないのよ! そんな弱者は、そうやって地にへたばっている方がお似合いよ!

 殺したとて奴隷。どうせ変えはいっぱい居るさ。そんな塵に構っている暇は無いんだよ。」


 立ち上がりそう言うジャーナは、エルダの方に歩いていった。

 エルダは、そんなジャーナの言葉など、何も届いていなかった。


 未だ放心状態のエルダは、背後に迫ったジャーナの存在にも気付かない。


「糞が!」


 そう叫びながらジャーナは、エルダの脇腹を蹴り飛ばした。

 エルダは吹き飛ばされ、地面に擦った左腕からは、少しばかり血が垂れていた。


 その様を見たジャーナはエルダに向かって歩き、エルダを何回も踏み蹴った。

 対抗する気力すら無かったエルダは、ただただ蹴られ続けた。

 そうして意識の朦朧とするまで蹴られ続けた後、ジャーナはエルダに向かって唾を吐き捨てた後、サラナの方へと歩いていった。

 よくよく見ると、サラナが庇ったお陰で、ノールは生きていた。

 サラナの下敷きになっているノールの指が、微動していた。

 思考する気力も無いエルダであっても、ジャーナがサラナの所に向かう目的は解った。

 ノールを奪い返す為。

 顔を見たのは一瞬だけだったが、あんな美人、ジャーナが易々と捨てる訳が無い。


 奪われる。


 もう少しなのに。


 ここまでなのか。


 エルダは失意した。


 ジャーナは、サラナの元へと行った後、サラナをゴミを見る様な目で見下ろした。


 その後ジャーナは、サラナの頭を蹴り飛ばした。

 蹴り飛ばした時の鈍い音が、静寂に包まれたエントランスに微かに響いた。


「…………………………っ!!!!!」


 

 それを見たエルダは、憤怒した。

 サラナを守ると自信満々で言っておいてこのザマ。

 自身でも許せない。

 だが、これ以上サラナを傷つけて欲しくない。

 傷ついて欲しくない。


 ジャーナ・カルトスト。

 幾ら自分がサラナを守れなかったとて、やはり悪いのはお前だ。

 お前がサラナを貶めたから。

 サラナが自分を閉ざしたのだから。


 サラナも人間。

 ジャーナも人間。

 だが、ジャーナよりもサラナの方がよっぽど強い。

 サラナは頑張って生きてきたのだ。

 会って数日の自分に言えたことではないが、それでも。

 これ以上傷つけたくないから。


 傷つける障害からは自分が守らないと。

 

 残り少ない魔力を使って、エルダは、目一杯ジャーナを吹き飛ばした。

 エントランスに轟音が響く。

 ジャーナは壁にめり込み、失神している。

 その証拠に、口からは涎が垂れ、失禁している。

 壁はバキバキに割れ、ジャーナがもう行動不能である事を悟らせる。

 エルダは正気を取り戻しながらゆっくりと立ち上がり、トボトボと、サラナの方へと歩いていった。


 サラナ。

 無事なのか。

 今なら逃げられる。

 サラナとノールを連れて逃げられる。

 お願い。


 エルダは切に願いながら、サラナの首元に触れた。




「――――――――――――――」




 エルダは顔を青褪めた。

 額からは冷や汗がつーっと流れた。

 エルダは首に触れていた手を、サラナの手首へと持っていった。



「――――――――――――――」



 サラナの手は、非情な程に冷たかった。

 よく見ると、あの美しかった肌の橙色は、霞んでいた。

 サラナを仰向けに寝かせて、目を開かせた。


「……………………っ………………!」


 エルダの瞳から、一筋の涙が流れた。

 サラナの瞳孔は、散大していた。

 死。

 その事実のみが、エルダに突きつけられた。


 自分が。

 ちゃんと守れていれば。


 さっきと同じ反省が、頭の中に残り続ける。

 もう死んで仕舞えば、エルダの知る限り、生き返らせる方法は無い。

 今連邦国に来ている父さんだとしても、使えるのは負傷者の治癒であって、死者の蘇生は出来なかった。



 エルダは泣いた。

 会って数日の女性の死に、嘆いた。

 無念であった。

 自分が嫌いだ。


 だからこんな事に……………………








「転生魔法。」






黄泉帰り(ヨミガエリ)。」






 突然背後から声が聞こえ、その瞬間、サラナの体が金色に輝いた。



「……………………!!!!」


 エルダは、声の聞こえた方を向いた。


 そこには、白髭を生やした、腰の曲がった老爺が居た。

 目は緑色をしていて、髪の毛は黒髪の中にうっすらと白髪が生えていた。

 腰に手を当てるその老爺。

 エルダは、見覚えがあった。


 幼い頃、村に来てはオームル王国に話をしていたような………………


 エルダは不意にそう思った。



「…………その嬢ちゃん。後数十分も経てば意識を取り戻すだろうさ。」


 少し掠れた声だった。

 だが、その年季の入った声には、何か強いものを感じた。


「貴方は………………?」


 ついエルダは、知らないのに会っていたその老爺に、名前を訊いた。





「儂の名前は、」

































 















「ジュルカ・デラフト」

























 








 

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