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74:密告








「…………落ち着いたか」


 グリリアの質問に、コクリとサラナは頷いた。

 サラナが涙を流し始めてから、何十分経っただろうか。

 その間ずっとグリリアはサラナの頭を撫で、サラナは静かに泣いていた。

 鼻水を啜る音と、髪の毛の擦れる音と、泣きながら息をヒッヒッと吸う音が、閑静とした地下で響く。

 そんな数十分。

 グリリアは、心が締め付けられた。


 泣き止んだサラナだったが、中々顔を見せてくれない。

 そのままでも良いやと、グリリアは質問を続けた。


「…………まぁ、訊きたい事は山程あるけど…………訊いても良い?」

「…………………………うん。」


 今にも消えそうな声で、サラナは返事をした。



「サラナは………………王政の人間だったのか?」

「…………グリリアはもう解っているかもしれませんが……私は、この国、カルロスト連邦国国王、ジャーナ・カルロストの第一秘書であり、政府内でも、唯一のビルクダリオなのです。」

「…………唯一の…………?」

「はい。私の他に王城を彷徨いているビルクダリオは見た事がありません。」

「………………ならば、サラナはどうして、そんな王政でも高い位に就けたんだ?」

「……………………ある時。誘われたのです。国王から直々に。理由は明確でした秘書として近くに起き、他国からの客人の目につくところに(ビルクダリオ)を置き、奴隷としての、ビルクダリオの商品としての優良性を説くためでしょう。」


 サラナの声のトーンが、刻々と暗くなってゆく。

 流石のグリリアも、これ以上聞き出す勇気は無かったので、気になった“()()()”という言葉の詳細も、訊かないでおいた。


「………………敬語なんか、使わないでくれ。この二人の仲だろ?」

「…………良いんですか? 許してくれるのですか?」


 サラナが、もっと掠れた声で言った。


「だから止めろって。許すに決まってるだろう? 今の話を聞いてても、“仕方無かった”って感じがするし。」

「……………………ありがとう」

「いえいえ。」


 サラナが、グリリアに顔を見せた。

 窶れた、元気の無い顔だった。

 さっきまで泣いていたせいだろう、目が真っ赤に腫れ、未だに潤っている。


「後最後に一つ。どうしてサラナも牢に? もしかして共犯だとバレたとか? ……まさか、荷台にあったウィッグのせいで?」

「いいや、バレるような事は何一つしていないし、悟られるような手がかりも極力隠滅した筈だから、バレてはいない……と思う。」

「…………じゃぁ何で………………?」


 サラナとグリリアが暫く考えた後、サラナが呟いた。


「……………………密告…………?」


 グルリアがはっとした。


「でも、私たちの計画を知っていた政府の人間はいない筈だし…………漏洩するような場面も無かったし…………」

「じゃぁ誰が………………」


 暫く悩んだ後。

 

「グリリア、今考えても判らないし、後でゆっくり考えよう。」

「あぁ。そうだな。」




 二人とも座り方を変えた。

 一応、椅子のような物は置いてあるので、グリリアはそこにサラナを座らせ、自分は地面で胡座をかいた。


「そういや、共犯がバレる前、気になった事があったから調べておいたのよ。」

「何を?」

「先のオークションに出されていた、女性奴隷の名前。」

「…………まさか…………っ!」

「全員で十人。ヒリル、グロー、ブノエル、ニグロ、アン、ガリンプ、ポロニル、フィリミ、ワルブ、そして、ロール。その十人だった。」

「ノールは………………居なかった。」

「あぁ。居なかった。」


 グリリアは、救出作戦が無駄足であった事以前に、ノールの安否を案じた。

 既に“殺された”から、オークションにも“居なかった”。

 もしそうであれば………………


「いや。殺されている可能性は低いと思う。」


 グリリアの様子を見て察したのか、グリリアの考えていた事を否定した。


「国王の側に居たから解る。国王は、ノールの事を恐らく気に入っていた。そこまで気に入った奴隷を易々と殺すとは考え難い。大丈夫。何処かで生きていると信じよう。」


 サラナが、先程とは打って変わって、少し頼もしい口調でそう言った。

 グリリアに話をしたから、少しは気が楽になったのか。


 そうであれば良いな。










 一週間後。















 いつも通り、サラナとグリリアは牢の中でゴロゴロしていた。

 死刑囚であるので、執行前に殺してしまうといけない。

 なので政府(むこう)も何もしてこないし、ちゃんと三食食べさせてくれる。

 決して美味しいとは言えないが、飯をくれるだけでありがたい。



 カツン

 カツン


 今日もいつもの様に、朝食の配給が来た。

 外の陽こそ入ってこないものの、体内時計と外から聞こえて来る音で、何となく時間帯は把握できる。


 カツン

 カツン


 足音が迫って来た。



 カツン


 牢の前で、その兵は足を止めた。

 二人分の朝食の乗ったお盆を牢の下から中へ入れた後、その兵は、帽子を少しずらし、顔を見せた。

 グリリアは、いつも通り兵を見上げその顔を見た時、驚愕した。

 サラナも、思わず声をあげそうになった。


 そんな中、その兵は言った。




 



「帰りが遅いと思えば。こんな辺鄙な所で寝ていたとは…………まぁ、今こうなっている事は、全部知ってたけど。」

















 






 

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