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69:決行前夜







 その日から、ノール救出に向けた作戦を練った。

 作戦を立てたのは、主にグリリアとサラナの二人。

 その間エルダは、ミロルの相手をしていた。

 サラナが相手をするのが一番良いのだろうが、作戦を立てるのにはサラナが不可欠だった為、エルダが担当する事になった。

 幸い、ミロルも直ぐにエルダを気に入り、いつの間にか仲良くなっていた。

 ギニルのトラウマが、男性全員への恐怖へと繋がっていなかったことに、安堵した。





「さて、どうするか………………」


 グリリアが唸った。


「サラナ…………さん?」

「呼び捨てで結構です。」

「あっ、はい。サラナ……の案はいいと思うが、あのホールまでの道のり、路傍に監視塔が沢山あった気がするのだが…………」


 ジズグレイスの周辺地図を指差しながら、グリリアは言った。


「はい。なので、その為の荷台付き馬車と変装用具は用意しております。」


 サラナがそう言った。


「……………………ん?」

「なので、監視塔対策は既にしています。」


 グリリアが、阿呆みたいに口を開けたまま動きを止めた。

 サラナの仕事の速さに驚愕しているのだ。


「簡単な話、借りて来た馬車の荷台に貴方(グリリア)を乗せ、私が馬車を先導します。そして、適当ば理由を言って検問を潜ります。そして浸入した後、グリリアさん一人で、中に入って救出して下さい。私は外で見張っておきます。」


 サラサラとサラナが言う。

 もう既に、サラナの中で作戦が完成していたのだ。

 こんな会議など、する必要が無かった。


 グリリアは、今の話をゆっくりと理解していった。

 「そんな一人だけで勝手に決めた作戦で行くなんて……」と言いたいところだが、実際、これ以上の作戦は思いつきそうにない。


「……で、聞いてて思ったんだけど…………。本当に私一人で乗り込むの?」

「それしか無いでしょう。」


 サラナの様子を見るに、この作戦を変えるつもりがない様。

 グリリアは少し憂いた。

 だが昔から、運動神経には自信があった。

 ビルクダリオを助けたいと思ったのも、自身の運動能力を自負していたから。

 仕方無い。

 いざとなったらサラナが助けてくれるだろう。


 グリリアはそう考え、サラナの作戦を呑んだ。




「エルダ。」


 グリリアが、エルダの元へと戻ってきた。


「会議は終わったのか。」

「あぁ…………」


 少し疲れた様子のグリリアに、エルダは質問した。


「……何があったんだ?」

「………………(かくかくしかじか)…………」


 グリリアが、サラナに聞こえない程の声量で、エルダに報告した。


「成程な………………まぁ、頑張れや。」


 そう言ってエルダは、グリリアの肩を2回叩いた。


「…………んで、その間エルダは何をするの?」


 グリリアが、エルダに訊いた。


「あぁ、聞いてないの? ミロルの護衛だよ。流石に家に一人にするのも駄目だし、だからって連れて行くのも危ないし。こうするしかないだろう。」

「まぁ、そうだな……………………」


 グリリアが少し、意気消沈した。





 その日からグリリアは、看守拘束を完遂する為、サラナから特訓を受けた。

 幾ら腐った国の看守と言っても、一応は訓練を積んでいる一兵隊。

 素人が不意打ちを掛けようにも、去なされる可能性がある。

 なので、出来るだけその可能性を減らす為、サラナが教えている。

 大分とハードな様で、帰ってくる時にはいつも、死にそうな顔をしている。


 その間エルダはと云うと、ミロルと関わり、親密度を上げていた。

 救出作戦中、ミロルとエルダはグリリア宅(ここ)で待機だが、ミロルとエルダの信頼関係が築けていなければ、最悪ミロルが逃亡するかもしれない。

 そうなると拙いので、今の内に、ミロルと良い関係を持っておく。

 作戦の為でもあり、エルダが幼児を可愛がってほんわかする為でもあるこの工程。

 グリリアが次第にエルダの事を睨む様になったが、エルダは毎回、それを無視し続けた。




 そんなこんなで、作戦決行前夜。

 グリリアとミロルもいつの間にか仲良くなった様で、今頃一緒に寝ているだろう。

 エルダは、サラナと共に、星空を眺めながら座っていた。

 店(薬屋)の前にあるベンチに座りながら、エルダは、ある事を考えていた。



 前々から気になっていた事。

 気掛かりであった事。


 サラナについてだった。


 前。初めて会った頃。

 サラナは、自分の事を話してくれた。

 自身が、スラム出身のビルクダリオである事。

 愛していた母がいた事。

 自身の居ない間に、母は貴族に連れて行かれた事。

 そして、貴族に母は殺された事。


 ここで一つ気になる事がある。


 サラナは、「水汲みに行っている間に、母は攫われた」と言っていた。

 ならば何故、“母を連れ去った人物が貴族である”と断言出来るのか。

 それに、母が連れ去られたまま帰って来ず向こうで亡くなったのならば、その事を、サラナは何故知っているのか。

 貴族がサラナに報告した可能性もあるが、この国の貴族が、わざわざそんな面倒臭い事をするとは考え難い。


 前に一度訊こうとしたが、訊けなかった。

 今なら。

 二人きりの今なら。



「なぁ、サラナ。」

「なんでしょう。」


 ベンチの上で、ぱちっと目が合った。

 エルダはサッと目を逸らした。

 少し訊くのに躊躇ったからだ。

 幾ら不可解な事であるからと言って、肉親が死んだ話を掘り返すのは、気が引けた。

 だが、これから一緒に王政を打倒する身。

 パートナーの事は、知っておきたいと思った。


「サラナは何故、母親が亡くなった事を知っているんだ? しかも、“貴族が”殺したって。」


 それを訊いたサラナは、少し俯いた。


「それは……………………」


 言葉に躊躇い、サラナは目をすっと閉じた。

 そしてゆっくりと開け、エルダの目をまっすぐ見て、言った。





































 







「……母は…………………………」
























 













 
















「私が殺したんです」


























 















 







 

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