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64:擦れ違い







 密談。

 そう言っても、行っているのは野外だから、密談とは呼べないかもしれない。

 だがまぁ、周りには人一人居ないし、グリリアの家の中で行うよりかは、よっぽど密談だった。



「…………で、先ず何から話せば良いのやら…………」


 サラナが、そう言った。

 今は真夜中。

 風も一切吹いていない中。この場は、ジズグレイスでは経験し得なかた、本当の静寂に包まれている。

 落ち着かない。

「静かな世界に行きたい」とか言う本の登場人物とかが居るが、本当に静かな世界は、落ち着かなくてしょうがないだろう。


「まぁ先ず、私から訊こうか。」


 そう言って暫く悩んだ後、サラナはギニルに訊いた。


「こんな言い方だと語弊があるかもしれないが。何故今、お前(ギニル)は生きている? あの傷は確実に致命傷だった筈だが…………?」


 それを聞いたギニルは、少し考える様な素振りを見せながら言った。


「それが……私にも解らんのですよ。私だって、あの時は助からないと思っておりました。そして、サラナ様に運ばれて、安置所の前で寝ていた時。どんどんと意識が遠退き、“死”を覚悟した時です。何処からともなくやってきた、謎の男が、私の近くへと歩み寄って言ったのです。『転生魔法、黄泉帰り(ヨミガエリ)』と。その途端、意識は戻り、怪我は治り、文字通り、黄泉から帰った(よみがえった)のです。」

「…………その謎の男とは…………?」

「私には判りかねます。私の意識の戻った頃はもう、そこから去っていましたから。ただ、体格を考えると、老父の様でした。声は男性でしたし…………一体誰なんでしょう………………?」


 暫く考える素振りを見せたギニルだったが、「考えても無駄だ」と悟ったのか、考えるのをやめた。


「それで、お前とグリリアは、どう云った関係なんだ?」


 サラナのその質問を聞いて、ギニルは少し、心を痛めた。

 此処で、「ビルクダリオ解放の、サルラス帝国人協力者だ」と言えれば良いが、実質王政のトップ2のサラナに言えば、どんな処分が下されるか、判ったものじゃない。


「見ての通り…………私はあの者を利用しているのですよ。確かあの者は、ビルクダリオ救出を目論んでいるようですが、つまりそれを完全に(こな)すには、王政の打倒が必要不可欠。そんな脅威は排除すべき。ですが未だ証拠が掴めておらんのです。その証拠を掴む為、彼と関わっているのです。」


 ギニルは、嘘を吐いた。

 自分を守る嘘だ。

 グリリアを守る嘘ではない。

 ギニルは、より心を痛めた。

 何か、自分の善意が、我が身を貪り食っているようだ。

 気分が良くない。


「…………そうか…………………………」


 ギニルの解答に対して、何故かサラナは、落ち込んだ。


(ギニルがグリリアの協力者で、王政打倒を目論んでいれば、私も協力しようと思ったが………………そうか……やはりギニルはビルクダリオの敵か………………)


 サラナは、失望した。

 まぁ、ギニルは期待したより、王政の人間だったと言う訳だ。


「……今度は、此方からの質問、宜しいでしょうか?」


 ギニルが訊いた。


「サラナ様は何故、あの、サルラス帝国兵をゴブリンの村で大量に殺し、此処でもあのヒリーを殺したあのエルダ・フレーラと、行動をしているのでしょうか?」


 その問いに対し、サラナは、少し考えた後、ギニルに明かす事を決めた。


「ジャーナ国王から直々に命を賜ったのです。『エルダ・フレーラをこの王城まで誘き寄せろ』と。恐らく、エルダを王城で待ち、自身の魔法の力を見せつけ、配下につけるおつもりでしょう。」


 それを聞いて、ギニルは少し失意した。


(エルダ・フレーラは、グリリアの大切な人。グリリアの家に入る前に聞こえた会話を考えると、エルダ・フレーラは、ビルクダリオ解放に協力的に見えた。そこにサラナ様がご助力なるとなれば百人力でしたが…………サラナ様もやはり、王政の人間でしたか………………)


 サラナとギニルは、深いため息を吐いた。



「あっ、そうだ。後一個訊いていいか?」

「何でしょう…………?」


 サラナが、さっきから気になっていた事を訊いた。


「さっきあの少女は、何故お前をあんなに恨んでいたんだ?」


 その質問に、再びギニルは、胸を締め付けられた。

 今にも此処から逃げ出したい気分になった。

 だが、そんな事が叶う訳もなく。

 今此処で明かさなければ、サラナ様は不服だろう。

 明かすほか無いか。


 ギニルは、過去を呪った。

 あんな事をしなければ、あの少女は苦しむ事が無かっただろう。

 だが、仕方無かった。

 国王命令だった。

 幾らビルクダリオを助ける為に王政に侵入した反逆者であっても、国王の命に退く事は極刑となる。

 そう。仕方無かった。

 仕方無かったのだ。

 …………仕方無かったのだ…………………………



「…………で、あの少女は何でお前を恨んでいるのだ?」


 そう問い返したサラナに、ギニルは答えた。



「先月だったか。私は…………………………あの少女の母を、あの少女の目の前で攫ったんですよ。」












 

前に「この章は長くなる」と言いましたが、そこまで長くならなさそうです。

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