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60:薬師

前話の問題の答えはこの話の後書きに!






 潡々(どんどん)と扉が鳴る音が聞こえる。

 全く……ここ最近、この店に来る人も少なくなったし、妻もこの前糞貴族に連れて行かれたし。

 もう人と会いたく無い。

 嗚呼そうだった。

 あの時もそうだった。

 こうやって荒々しく扉が鳴って、久しぶりの患者かと思えば、ファーの付いた真っ赤な毛皮のコートを着た糞貴族がズカズカと土足で家に立ち入り、商売道具の薬を床にばら撒かれて、妻を見つけるなりその長髪を腐った手で握り、抵抗する妻を数回殴って、純白の肌を青く染めた後、無理矢理連れて行かれたのだ。

 もう私には何も無い。

 商売道具も、床の埃と混ざって、最早使い物にならない。

 残っているのは、サルラス帝国に売っていて、興味本位で購入した、テロスウイルスの特効薬のみ。

 だが、オームル王国に流行らせたウイルスの感染者が、カルロスト連邦国に出る事は先ず有り得ない。

 ならこんな薬、塵も同然なのだが、捨てようにも捨てられなかった。

 理由は特に無かったが、何と無く、捨てられる気になれなかったのである。



 ドンドンドンドン。


 未だ扉が鳴っている。

 もう良い。

 どうせ貴族だったとて、盗まれて困る物も無いし、殺されたとて、別に心残りがあるわけでも無いし。

 いや、心残りはあった。

 この国に来た理由を忘れた訳では無い。

 自分なりの正義を忘れた訳では無い。

 だが、その希望も今や潰え、他人からの信用も失った。

 昔薬を買ってくれたあの少年も、もう来なくなり。

 確か、あの子が最後の客だった。

 今あの子は何歳になったのか。

 大人になったのか。

 身長はどの位伸びたのか。

 尤も、最後に少年に会ったのが何年前だったか、覚えていないが。



「グリリア! 俺だ! エルダだ! 薬を売ってくれ!!」


 外から、そんな声が聞こえた。

 エルダ…………そうだ。昔薬を買ってくれた子の名だ。

 でもあの子の故郷は、ちょっと前に無くなった筈。

 そうだ、きっと空耳だ。


「グリリア! 頼む!! この子の命が!!」


 もう止めてくれ。

 一人にしてくれ。

 誰とも会いたく無い。

 あんな軽蔑される生活をするよりかは、こうしている方は落ち着く。


「グリリア!!!」


 もうその名を呼ばないでくれ。


「グリリア!!!!!」





 ………………………………






「なんだ…………?」


 扉を叩き始めて一分後。

 やっと扉を開けてくれた。

 数年ぶりに会ったグリリアは、顔には皺が増えて、窶れていて、昔の清潔感が皆無だった。

 何があったのかゆっくりと話をしたいが、今は少女を引き渡すのが先だ。


「グリリア! ゆっくりと話したいが時間が無い。この少女を助けてくれないか!」


 薬師グリリア・スクリは、エルダの顔を見ながら、何とも言えない表情をした。

 嬉しそうに見える反面、何か隠している様な、再会に驚いている様な、目を丸くして見ているのは確かだが、その眼球の奥に、エルダと距離を取ろうとするグリリアが、はっきりと見えた気がした。

 グリリアは、サラナから無理矢理渡された少女を受け取り、


「さぁ、中へ。」


 と言い、中へと入った。



 エルダが、中へと足を踏み入れた瞬間、エルダは、店の変わり様に、愕然とした。

 昔来ていた頃は、綺麗な白樺が一面を覆った、とても綺麗な店だったのに、今見ると、そこら中の白樺が湿り腐り、部屋の隅には蜘蛛の巣が張られ、薬の入った瓶が綺麗に並べられていたカウンターや後ろの棚も、今やボロボロになり、あの時は大量に並んでいた薬が、今や何も無い。

 一体この数年で何があったのか。

 聞いて見たいが、今はそんな事をしている場合では無い。


 グリリアは、元々薬屋の待合室だった所にあるベンチの中で、一際綺麗な物の上に少女を寝かせ、容態を見始めた。

 何年も患者を見ていないグリリアであったが、その技術は未だ健在であった。

 だが、その肝心の薬が、今少ししか無い。

 少女の病が、今ある薬が効く物であれば良いのだが。

 グリリアは、心底そう願いながら、少女の容態を見た。



「なっ…………!」


 容態を見始めて約三十秒後。

 グリリアが突然、目を丸くしながら少女を見た。


「どうかしたのか?」


 その様子をいち早く察知したエルダは、そう声をかけた。


「……何故カルロスト連邦国(ここ)に、テロスウイルスの感染者が…………? この病は、()()()でしか蔓延していない筈なのに…………!」


 グリリアが、つらつらと独り言を並べるが、エルダには、何の内容を喋っているのか一つも理解出来なかった。


「だが、このウイルスなら、特効薬がある。」


 そう言ってグリリアは少し笑んだ後、カウンターの引き出しを開け、その中から、隠し持っていたテロスウイルスの特効薬を取り出し、薬を入れた注射器を少女の首元に刺し、注入した。

 その特効薬の入っていた瓶に何か文字が書いていたが、エルダの知らない文字で、何を書いてあるのか、解らなかった。


「これで二、三日寝ていれば、直に治るだろう。」


 そう言いながらグリリアは、注射器の先を拭き、絆創膏を、注射を刺した部分に貼り付けた。


「今夜は此処に泊まると良い。丁度今日、暇潰しに二階の部屋を掃除したものでね。さっ、この嬢ちゃんを二階に運ぼうか。」


 そう言ってグリリアは、少女を抱えて、少し急な階段を登った。

 エルダやサラナも、それについて行った。



 二階の部屋に少女を寝かせて、その傍らに、三人は座った。


「まぁ先ず。グリリア、久しぶり。覚えているかな? エルダだ。」

「あぁ、覚えているとも。だって君は…………この店最後のお客さんだったからね…………。」

「それってどう言う………………」


 そう言っている時、横からサラナが会話に入ってきた。


「グリリア様…………でしたか?」

「えーっと…………貴女は?」

「失礼しました。私、サラナ・モルドと申します。以後、お見知り置きを。」

「あぁ、はい…………」


 互いに少しぎこちない自己紹介を済ませたところで、サラナがグリリアに、ある質問をした。

 

「貴方、もしかしてサルラス帝国ご出身なのでしょうか。」


 その問いに対して、グリリアは答える。


「何故そう思ったのか、理由をお聞かせいただいても?」

「簡単な話。さっき少女に渡した特効薬が、サルラス製の物だったじゃ無いですか。」

「…………だからって、サルラス帝国からの輸入品であるかもしれないじゃ無いですか。」

「そんな筈ありません。先ずサルラス帝国は、こんな(いち)ビルクダリオに、こんな大層な特効薬売ったりしません。」

「……………………」


 サラナの言う証拠に、只黙るしかないグリリア。


「もう言い逃れは出来ない……か。」


 そう言い、一つ深呼吸をした後、グリリアは言った。



「そうです。私は、サルラス生まれサルラス育ちの、純粋なサルラス国民です。」








 

答え:

第一章 12話後書きの、緑色人の各国の呼び名。

サルラス帝国のみが、緑色人を「ゴブリン」と呼んでいる。そして、かつてエルダも、初めてオーザックと会った時、彼を“ゴブリン”と呼称していた。(第7話)そしてその少し前、「授業で“ゴブリン”という名が出ていた」と述べている。

つまり、エルダに、サルラス特有の呼称“ゴブリン”を教えたのはグルダスであり、グルダスがサルラス帝国の出身だったからこそ、ゴブリンという呼称を知っていた。


わかったかな?

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