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49:翼






 その後シュリは、リーゲルと共に、王宮の最深部で火葬された。

 大衆の面前でする事は、リーゲルやシュリの望む事では無いだろうと、アステラとマグダの、最後の親孝行らしい。

 リカルは、シュリやリーゲルが死んだと言う事実が未だに受け止められず、火葬場ではなく自室に籠った。

 アステラが誘っても一向に部屋から出て来ず、中からは只、啜り泣く声のみが聞こえた。

 王宮は、涙に包まれた。




 だが、そんな状況下であっても、国の指導者であるリーゲルが居なくなったので、第一王子であるアステラが、この戦争の後始末をしなければならなかった。

 悲しみ憂いている時間は、少ししか無いのである。

 それが例え、実の父親の死であっても。

 最愛の女性(ひと)の死であっても。

 前に進む他、道は無かった。





 自室でリカルは、様々な事を考えた。

 自室で籠るのではなく、もしアステラの側で、アステラやシュリを守れたら、シュリは死ななかったのでは無いか。

 リーゲルに教わった炎魔法(この力)が役に立ったのでは無いか。

 少なくとも、助けられる命はあったのでは無いか。

 私が前に出なかったから。

 自室の中で気絶なんかしていなければ。

 大切な人を喪わなかった。

 私が。

 私が。

 私が。


 リカルは、自分を蔑み続けた。

 なんとか自分を落ち着かせようとするが、その自虐が、また自分の気を荒立たせる。

 もうどうして良いのかが分からなくなった。

 大事な人を喪った後。

 リカルは、自分の生きる意味を見出せなくなった。


 俯いていた顔を少しあげると、机の上に、一つの林檎と、皮を向く為のナイフが置いてあった。

 アステラが、「リカルが元氣になるように」と思い、持ってきた物だ。


 私が死ねば、この(しがらみ)から脱せられるのか。

 もしかしたら、シュリやリーゲルにも会えるかも。

 丁度目の前にナイフがある。

 手首の太い静脈でも掻っ切れば死ねるかな。

 頸動脈を切ったら死ねるかな。


 リカルは、自分の首に、ナイフの刃先を押し当てた。

 だがリカルは、ナイフを床に落としてしまった。


「痛い。」


 刃先で少し刺した首から、一滴だけ垂れた血が、手に付いた。

 手の平に、乾いた血が、擦れている。


 そうだ。

 今こうして血が流れているのも、こうやって思うことが出来るのも、想うことが出来るのも、アステラが私を引き取ってくれたおかげなのだ。

 なら、私までもが死んでしまったら、きっと悲しんでくれるだろうか。

 悲しんでほしい。

 それ程に、私を大事に思っていてくれたと言う事だから。

 でも、悲しんで欲しくない。

 悲しんでいる顔なんて見たくない。

 もうあんな、シュリを抱えて絶望している顔なんて。

 なら、私がアステラを守れば良いんだ。

 側に居れば良いんだ。

 シュリの最愛の人。

 リーゲルの大切な人。

 アルゾナ王国の大切な人を。

 今までの恩を返すように。

 私がアステラを守れれば。

 助けになれれば。

 もうアステラの悲しむ顔など見たくない。

 私の大切な人(アステラ)を失いたく無い。


 その一心でリカルは、アステラの側で助けられる様、勉強する決意をした。




 その後リカルは、毎日毎日勉強に呆けた。

 何処に行っても、行政、税務、法律、憲法の勉強。


 そして、第一次サルラス帝国侵攻があってから十五年後のある日。

 リカルが、国王アステラの第一秘書に決定した。

 今までアステラには秘書と言った秘書が居らず、リカルが初めてであった。


「よろしくな。リカル。」


 リカルの努力を目の当たりにしていたアステラは、この結果を確信していた。

 なので、特にリカルが秘書に任命されても、あまり反応は薄かった。

 だが、そう言った時の笑顔は、これまでのリカルの努力の行き先を見せてくれたような、今までの長い道のりの道標の様な。

 リカルは、この身を結んだ努力に、歓喜した。

 そして二度と、大切な人の笑顔を崩さないと、アステラを守ると。

 そう強く胸に誓った。









  ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇










 

 だが、そのアステラも、今目の前で腹に剣を刺して倒れている。

 守ると決めたのに。

 ずっとアステラを見ていたのに。

 なのにこの様。

 秘書として恥ずかしい。

 主人も守れないとは。

 まるで()()()と同じ。

 ()()()と同じ感覚が、リカルに蘇った。

 リカルは背筋を凍らせた。

 二度とあんな思いをしたく無い。

 大切な人を失いたく無い。

 助けたい。

 でも、激しい痛みで、自分の体を動かせない。

 手を伸ばせば届きそうな距離に、アステラは居る。

 なのに、どうしても手が伸びない。

 動かない。

 どうして。

 どうして。


 リカルは、自分の無力さに失望した。

 悔しかった。

 自分がもっと強ければ。

 自分がちゃんと、周りを警戒していれば。



 死んで欲しくない。

 生きて。

 生きて!

 生きて!!!


 そう念じた時だった。





 ピカッと、建物の外から、激しい黄色をした光が見えた。

 まるで雷の様に一瞬だけ光った。

 その瞬間、外が静かになった。

 なんだ。

 外の敵兵が全滅したのか。

 はたまた、王国軍が全滅したのか。

 そんな事を考えていた時。


「兄上はここにいるか?!!!!」


 建物の入り口から、男の声が聞こえた。

 咄嗟にリカルは、その方をギリギリ動く首を動かして見た。



 そこには、エルレリア侵攻を阻止して帰還した、マグダとエルダの姿があった。








 

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