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45:婚約

追記:(2022/10/17)

一部加筆しました。






 その次の日から毎日、リカルはリーゲルの自室へと赴き、魔法というものについて、様々なものをレクチャーして貰った。

 優秀な炎魔法師であるだけでも無く、魔法論理学にも精通しているリーゲルの授業はどれも分かりやすく、ユーモアもあり、とても楽しい毎日であった。


 時々、アステラもリカルの様子を見に、授業を見学する事があった。

 その時は、リーゲルがアステラを呼び、授業の説明に使う事も度々あった。


「魔法っていうのは、要は創造(イメージ)なんだ。炎魔法の場合、何処に、どのくらいの大きさの、どのくらいの温度の、どの様な形の炎をどれだけの間発生させ、どのように移動させるのか。それらを脳内でイメージした時、初めて魔法発動の用意が完成する。

 なぁに。何も難しいことはないさ。例えば、アステラが此処にいたとする。」


 そう言いながたリーゲルは、アステラの腕を引っ張って、自身の隣に立たせた。


「そして、このアステラの髪の毛を燃やしたとする。そうした時、さっき言った発動条件をおさらいしてみよう。

 先ず大きさは、それ程大きく無くても良いので、コップひとつ分程度。そして温度は少し低め。燃やすのは一瞬だけ。移動はさせない。形は………………球状にしよう。

 そうしたイメージで、準備は完成する。

 そして次に、炎を発生させる場所を確認する。位置がずれれば意味が無いからな。

 そして………………こうだ!!」


 そう言ってリーゲルは、指パッチンを一回、綺麗な音で部屋に響かせた。

 その瞬間、アステラの頭が一瞬燃え、直ぐに消えた。


「あっちっ!!」


 そう言いながらアステラは、自分の髪の毛を自分の手ではらい、熱を逃そうとした。

 よく見ると、アステラの頭頂部が少し焦げている。


「凄い……………………」


 リカルは、アステラの心配を一切せずに、その炎魔法に、思いを馳せていた。

「いつか自分も、炎を操れるようになる。」

 より一層、リカルは自分の可能性に期待した。





 一ヶ月後。

 リカルも、意図して魔法を発動出来るようになった頃、アステラが一週間、王宮を空けた。

 リカルには、「少し出かけてくる」とだけ伝えていて、帰るのを待って、もう今日で一週間が経った。

 

 よく考えると、王宮に来た時から疑問に思っている事があった。

 お昼時になれば必ず、アステラは王宮から居なくなるのだ。

 何処かに行っているのだろうが、その見当すらつかない。

 そして帰ってくる度、少し寂しそうな顔をしていた。

 何処に行っていたのか。何をしているのか。城の者は誰も知らされていない。

 そんなある日の事。


 アステラが帰ってきた。


「やっとか………………」


 少し呆れながらも、ちゃんと出迎えようと、アステラ自室のフロアの入り口まで走った。

 その時だった。


「失礼しまーす………………」


 アステラの居る方向から、聞き覚えのない女性の声が聞こえた。

 気になったリカルは、更に速度を上げて走った。

 そして、そのフロアの下階段の前へ着いた時。


「あぁ、リカル。ただいま。」

「お、おかえり。えーっと、その方は?」


 そう言いながら、リカルは、アステラの隣にいたその女性を見た。


「あぁ、リカルは知らないんだっけ。この人はね…………私の婚約者だよ。」

「………………っ?」


 リカルは驚いて声も出ていなかった。


「はじめまして。アステラ王と婚約しました、シュリ・キルリルと申します。貴女が……リカルちゃん?」


 そう言って首を傾げるシュリ。

 いきなりの“ちゃん”呼びに少し困惑するが、悪い人では無さそうだ。

 第一、人を見る目だけは無駄にあるアステラが選んだ人だ。

 そうそう変な人では無いだろう。


「は、はい。リカル・アルファと申します。」


 そう言いながらリカルは、ぎこちなく一礼した。


「あーー…………可愛い。」


 未だに幼かったリカルを見て、シュリは呟いた。


「はい?」


 何を言ったのかがよく聞こえず、リカルは聞き直した。

 それを聞いた途端、シュリはリカルに飛び付き、抱きついた。


「可愛いわねーー!!! よしよしよしよし!!」


 そう言いながらシュリは、リカルの頭を、髪がグチャグチャになってもお構い無しに撫で続けた。

 最初は軽く抵抗するリカルだったが、案外悪く無く、抵抗する力も弱くなっていった。

 シュリの懐の中は、居心地が良かった。

 そんな時。


「シュリ…………そろそろやめてやれ。」


 呆れた声で、アステラが話しかけた。


「あっ! ごめんなさい! 私ったらつい…………可愛い子供が大好きでねー!! 見かけたら飛びかかっちゃうのよ。次からは気を付けるから! ね! ね!」


 そう言いながらシュリは、リカルから離れた。




 アステラがシュリを自室に案内した後、アステラはリカルの元へ行き、話をした。


「すまないな、突然、婚約だなんて。実は、結構前から彼女とは付き合っていてね。父上(リーゲル)に話したら、快く結婚を許してくれたんだ。」

「はぁ、そうだったのですか。」


 少し低めのトーンでリカルが返した。


「…………で、式はいつなんですか?」

「一週間後。日数で言うと十一日後だな。勿論、リカルも来てくれるよな?」

「まぁ、恩人の晴れ姿は見に行きますけど………………」

「よし! 決まりだな!」


 そう言ってアステラは、満面の笑みをリカルに向けた。

 そんな幸せそうなアステラを見て、リカルは、自分の心を温めた。








 

リカルの過去は、もうちょっとだけ続きます。

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