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44:国王謁見





 



 その日からリカルは、王宮の一室を貰い、そこで生活を始めた。

 生活必需品などは、アステラが全て揃えてくれ、王宮のメイドにも色々と手伝って貰い、暮らしている。

 ちなみに、最初に此処に来た時に会ったあの女性は、全員王宮直属のメイドだそう。

 だから入浴させたり着付けをさせるのが上手なのかと、リカルは納得した。




 そしてある日。


「リカル。お前を一度、私の父上に会わせたい。」


 アステラの部屋に集まったリカルは突然、アステラに言われた。


「父上って…………国王ですよね。」

「あぁそうだ。」

「拒否は出来ますか?」

「いいや、無理に引っ張ってでも会わせる。」

「何でですか?」

「会えば分かる。リカルの為だ。」


 相変わらず、愛想のない受け答えを繰り返すリカルだったが、助けて貰った恩もある中、断りきれなかった。


「はぁ…………分かりました。いつお目にかかればよろしいのですか?」

「一分後だ。」

「えっ?」


 そんなリカルの困惑も他所に、アステラはリカルの手を引っ張って、国王の部屋まで連れて行った。




 リカルは、アステラの部屋の扉よりも、より一層、豪華で大きな扉の前に居た。

 その扉は、細部まで細かく装飾がなされており、如何にも、“THE 国王の部屋”と言った風貌であった。


「父上、アステラで御座います。リカルを連れて参りました。」


 アステラは、その扉を二回ノックした後、いつもと違う、ハキハキとした少し低めの声で、そう言った。


「入れ。」


 部屋の中から、とても威厳のある、図太い声が聞こえた。

 その声質は、王と呼ぶに相応しい威圧感を放っていて、それであって、少し優しさも感じ取れた。


「失礼します。」


 アステラはそう言い、大きな扉を、背筋をピンと伸ばした状態で開いた。




 部屋の中は、とても綺麗だった。

 いや、あまり物が少ないと言った方が正しいか。

 部屋の側壁には、大きな本棚が二つ設置されていて、その中に、綺麗に整頓された書類が冊子にされて並べられていた。

 真ん中には大きな机が一つあり、その両側には、革製のソファが並んでいた。

 見た感じ、一台四人は座れるソファであった。

 そしてその机の奥には、何とも風情のある机が置いてあり、その奥の木の椅子に、国王らしき人物が座っていた。

 真っ赤な、薄い生地の服を纏っていて、髪は白と黒が混じり灰色に見えた。

 髭などは無く、その白い綺麗な肌は、たとえ十八歳の長男を持つ父親とは思えない若々しさを醸し出していた。


 扉の閉まる音が聞こえると、その人物は、椅子から立ち上がり、此方に顔を見せた。

 美形だった。

 若い頃はモテモテだったのだろう。そう連想せる程に、整っていた。

 アステラと少し似ている気がした。


「君がリカル・アルファかな?」


 リカルの目を覗き込みながら、その人物は言った。


「はははははは、はい。そそそそそうですが…………」


 緊張で声がガチガチに震えた。


「はっはっは。そう身構えんでも良い。もっと楽に。ラフな感じで良いから。」

「そ、そうですか………………」


 そう言われてもしにくいなと感じたリカルだった。


「あぁ、自己紹介がまだだったね。私はリーゲル。リーゲル・アルゾナ。一応この国、アルゾナ王国の国王をさせて貰っている。そしてそこの王子の父親だ。よろしくな。」


 そう言って、男、リーゲルは、分厚い皮が目立つゴツゴツした右手を差し出した。


「り、リカル・アルファです…………よろしくお願いします。」


 そう言いながらリカルは、そのリーゲルの右手を握り、固く握手を交わした。

 少し遠慮気味だったリカルだが、この握手を機に、リーゲルに対して少し心を開いた気がした。




 その後リーゲルは、リカルに、自身の持つ炎魔法の力について色々と話した。

 リーゲルは国王であると同時に、アルゾナ王国一の魔法師でもあった。

 行使するのは炎魔法で、その力はとても強大であった。

 百数十個と炎弾(バルモ)を出したり、国全体を炎獄牢(グラーミル)で囲んだりするのは勿論、あの命と引き換えに穿つ炎最上位魔法、暁光蝶(ギア・ライル)も行使できると言われていた。

 だが今までその力が役に立ったのは、せいぜい暖炉に火をつける時くらいで、戦争などリーゲルが国王に就任してから一度もなかった。

 なので、その力の真価が披露されることは、今まで無かったのである。


 そしてある程度炎魔法について話した後、リーゲルはリカルに、ある仮説を聞かせた。


 それは、「リカルが炎魔法師である」という仮説。


 リカルの両親を殺した時の炎や、従姉を殺した時の炎が、炎魔法の効果と符合していたのだ。

 母の胸や従姉の頭を穿ったものは、炎弾(バルモ)を使用したと考えれば辻褄が合い、父に関しては、炎魔法で体に炎をつければ此方も辻褄が合う。

 それ以前に、着火材も何も無い所から突然炎があがった時点で、炎魔法と言わざるを得ないだろう。



「よーし決めた! リカル! 明日から私の所へ来い! 魔法について手取り足取り教えてやる!」


 話の終わり、リーゲルが突然そう言った。


「父上、突然そんな事言われましても…………」

「アステラ。ならお前は、再びリカルの魔法が暴走して犠牲者が出た場合、責任は取れるのか?」

「それは………………」

「なら、ちゃんと炎魔法を行使できるようになっていた方がよかろう。それに、魔法が自由自在に操れれば、便利だろう。」


 それを聞いたアステラは、納得せざるを得なかった。

 責任問題となった場合、リカルを引き取ったアステラが疑われるのは避けられない事実。

 それなら、そうならないように未然に防いでおけば良い。

 とても正論。


「…………という事だ。リカル? どうだ? 悪い話では無いと思うのだが………………」


 リーゲルは、視線をアステラからサッとリカルに向け、もう一度聞いた。


「そ、それなら………………あんな事が起こらないようになるのなら……………………」

「よし! 決まりだな!! よろしくな! リカル!!」

「は、はい………………」


 初め見た時の印象とは全く違った気さくな国王にリカルは、魔法を教えて貰えるようになった。

 リカルは、この力に自制が効く事に期待しながら、リーゲルの部屋を後にした。








 

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