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36:人殺し





「合成魔法、氷浮刃(ルルク・ブリオ)!!!」


 エルダがそう叫んだ瞬間、その氷剣が、サルラス帝国全兵に降り注いだ。

 剣は浮遊魔法で加速され、地面に到達した時に発せられる低範囲の衝撃波でさえ、近くにいた者に重傷を負わせた。

 エルレリアは外壁に覆われている為、その衝撃波の影響を受けない。

 サルラス帝国兵全滅には、うってつけの魔法であった。



 氷浮刃(ルルク・ブリオ)と言う魔法は、浮拷(ルルク)と言う魔法と、氷刃(ギャロブリオ)と言う二つの魔法を同時に行使することで成立する、『合成魔法』と言われる魔法の一種だ。

 

 先ず浮拷(ルルク)と言うのは、浮遊魔法を使った攻撃魔法を指す。

 浮遊魔法で物を浮かせて殴ったり、相手を引き裂いたり、逆に潰したり。

 そう言った、”浮遊魔法をきっかけとした結果的に攻撃になりうる魔法形態”を、浮拷(ルルク)と呼ぶ。


 そして氷刃(ギャロブリオ)と言う魔法。

 この効果は至って分かり易い。

 これは、氷でできた刃物を利用した攻撃全般を指す。

 氷魔法は、水魔法の派生であり、その具体的な効力としては、氷を生み出し、自由自在に形を変えれると言ったもの。

 自由自在に形を操れるのは、術者が生み出した氷のみで、冬に生まれた氷などは動かせない。

 そして氷刃(ギャロブリオ)は、そう言った氷の生成過程で、その形を刃のついた物にして、それを生成し、それを持って攻撃する魔法形態。

 氷刃(ギャロブリオ)と認識されるのは、氷剣は勿論、板を作ってそこに針を大量に作った物や、尖った小さな氷山の様な物を地面から出したりするものなど。

 兎に角、刺突が可能な刃の要素の有る氷で出来た物を生成し、攻撃する事を、一概に“氷刃(ギャロブリオ)”と呼ぶのだ。


 そしてそれら二つの魔法を組み合わせたものが、合成魔法“氷浮刃(ルルク・ブリオ)”。

 この魔法の効力は簡単で、氷刃(ギャロブリオ)で生成した氷剣を、浮遊魔法を使用して浮かせ、雨の様に降らせる。

 その浮遊魔法も、結果的に攻撃と言った用途に使用しているので、浮拷(ルルク)となる。

 それが、氷刃(ギャロブリオ)浮拷(ルルク)の合成魔法、氷浮刃(ルルク・ブリオ)




 氷浮刃(ルルク・ブリオ)を前に、帝国兵は跡形もなく散った。

 悲鳴も一切聞こえなかった。

 魔法発動から全滅まで、まるで瞬きをするかの様な短い時間で終結したのだ。

 悲鳴など、出す余裕も、そんな間もない。

 まさに、帝国兵を“一掃”したのだ。


「も、もう終わったのか…………?」


 沢山の氷剣がエルレリア付近に降り注いだかと思えば、外からの音が一切聞こえなくなった。

 クレリアは、それが本当に帝国兵の一掃を意味していたのか、エルダに聞きに来たのだ。


「あぁ、クレリア。終わったよ。」


 エルレリアは守れた筈なのに、エルダの気分は清清しなかった。

 今までエルダは、どれだけの人間を殺してきたか。

 カルロスト連邦国のスラムで一人。

 エルレリア開村前の焼かれた村で一人。

 そして今回だけで、二百人以上は居ただろう。

 もうエルダの手は血みどろに濡れているのか。

 正真正銘の人殺しなんだと、エルダは意気消沈した。

 さっき殺した人にも、家族がいて、幸せに暮らしていたのではないだろうか。

 今回の作戦も、あまり乗り気で無かった兵も居たのではないか。

 抑も、緑色人(村民)人よく思っていた人も居たのではないか。

 嗚呼、そうであれば、とても悪い事をした。

 家族の居た兵であれば、きっとその家族は、嘆き悲しむだろう。

 下手すれば、エルダを恨むかもしれない。

 今回の作戦をよく思っていた兵は、黄泉(よみ)でエルダを恨むだろうか。

 これが人殺しの末路なのだろうか。

 そんな事をエルダは、静かに自問自答してしまった。



「エルダ!!」


 そんな事を考えていると突然、マグダがエルダの名を叫んだ。


「どうしたんだ? 父さん」

「アルゾナ王国の方角に、灰色の風塵が見えた。」

「まさか…………っ……………………」




 ――――――――――――――――




 マグダとエルダのエルレリアへの出発直後。


 この、マグダとエルダの居ない間に、サルラス帝国は、アルゾナ王国に向けて二度目の進軍を開始した。

 この機会は、サルラス帝国にとって好都合であった。


 ザルモラの盗聴魔石で、エルレリアという名の村に、平民魔力保持者の村長がいると情報が洩れた。

 この事実に気づいたアルゾナ王国は、少なくとも一人をエルレリアへ向かわせるだろう。

 少なくとも、エルレリアを大事に思っているエルダ・フレーラは、真っ先にエルレリアへ向かうだろう。

 それだけでも、サルラス帝国にとったら有利だった。

 浮遊魔法は、進軍の上で一番の障害となる。

 それがその場から居なくなるのだから、当然サルラス帝国の勝機は上がる。

 そこに、もう一つ厄介な、複製(コピー)魔法持ちのマグダ・フレーラもエルダと共にエルレリアへと向かった。

 益々勝機が上がる。


 アステラは、久しぶりにここまでの危機感を感じた。

 下手すれば、一国消滅の危機。


 アステラは暫く憂いた後、立ち上がり、リカルとルーダに命じた。


「今すぐにサルラスとの交戦準備を。私はなけなしの作戦でも考えてみる。」

「承知しました。」


 そう言ってリカルとルーダは、此処を去った。



 ここから、二度目のサルラス帝国軍侵攻が始まった。






 

少し物騒な話でした。

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