158:焼亡
何で?
何で?
何で?
何で?
何でこうなった?
ジュルカ。
お前は言っただろう。
こうなる未来は回避できたと。
なら何故俺の目の前には、この光景が広がっているんだ?
なぁ。
誰か説明してくれよ。
なぁ。
なぁ!
なぁ!!
皆んな死んじまったよ!
父さんも、リカルも、叔父さんも、何もかも!
大切なもの全てが消えた。
何もかもが消え去った。
何でこうなんだよ!
クソが!!
巫山戯んな!
巫山戯んなよ!!
俺は!
俺は!!
俺はぁ!!
…………俺は。
…………巫山戯んなよ………………
エルダの目の前に広がっているのは、生命も文明も、何もかもが消えた、永遠と続く焦土だった。
158話 焼亡
歩く。
歩く。
いつもの半分ほどの速度で、歩いた。
足音は、聞くに堪えない程に悍ましく。
地平線を眺める度に嘔吐感と虚無感と喪失感に苛まれる。
目の前に広がるは、何も無い、焦土。
あれ程あった建物も。
そこに生きた人々も。
大森林の木々も。
文明も。
人命も。
何もかもが、無くなっていた。
見ようとすれば、此処からでも海が見える。
それ程までに、何も無かった。
目の前を遮る物は何も無い。
歩くのにも一切困らない。
そこには、戦争や争いは無かった。
面倒ないざこざも、変に気を遣わなければいけない人間も。
何も煩わしい事は無かった。
そうだ。
これで色々な束縛から解放されたのだ。
もうこれで誰も守らなくていい。
もうこれで誰かに縛られる事は無い。
俺は、自由になった。
これで心置き無く世界が旅できる。
そうだ、俺の夢は、この世界を旅する事だったんだ。
そうしよう、世界を旅するんだ。
今ならそれを拒む物は何も無い。
さぁ、早く行こう。
サルラス帝国。
あれだけ憎く思っていた所だが、今見ても何も思わない。
何も無い焦土が広がっているだけ。
カルロスト連邦国から発って、アルゾナ王国でグルダスに色々教わって、そしてアルゾナ王国を発って。
そして行きたいと思っていた国。
それがサルラス帝国だった。
魔法で発展してきたその文明に惹かれた。
だがそのサルラス帝国の実状を理解し、初めて入国した日。
忘れもしない。
忘れるものか。
あの、腸が煮え繰り返り、心の底から憎悪と嫌悪感が湧き上がる感触。
無数の死体の上に成り立っているこの国と、その人民と、その笑顔に、心底吐き気がした。
よくもまぁそんなに笑えるものだな、と。
帝国の平和がどうやって築き上げられているのかも知らずにのうのうとただ生きている人民の頭を疑う。
そしてそれを良しとしている国自体にも、訝りさえ覚える。
そんなサルラス帝国が、今は何も無いただの焦土と化している。
当時はこんな国が無くなって仕舞えば清々するかとも思ったが、意外と何も感じぬものだ。
何か嬉しいわけでも無い。
何か悲しいわけでも無い。
スッキリもしない。
清々もしない。
ただ、何も思えない。
何も思いたく無い。
突然、自分の肩にとても重い何かがのしかかったような。
そんな感覚に陥る。
嗚呼、此処にいてはいけない。
此処にいると、可笑しくなりそうだ。
メルデス大森林。
森林など、もう既に何処にも無い。
木の一本、草の一本まで、何もかもが無くなっている。
ただ嘗てそこにあった土壌らしきものがある。
少なくとも此処に大森林があったとは思えない光景だ。
この森林には、いろんな思い出がある。
先ず、緑色人の村。
旅を始めて初めての集落。
そして、初めて友人が出来た場所。
オーザック・グレンシクト。
気さくで優しい、いい奴だった。
だが、帝国人に殺された。
彼の村も、焼かれた。
そもそも緑色人とは、俺の住んでいた村の村民なのだ。
その村民達がオームル王国の兵の捕まり、投薬され、肌が緑色となった。
…………今思えば、あれは本当にオームル王国の兵なのか?
時代的にはサルラス帝国の成立前。
だがその兵が後のサルラス帝国兵だとしたら…………
いや、今は無駄な詮索はやめよう。
疲れている。
あまり頭を使いたく無い。
だがまぁ、緑色人が生み出された理由は、サルラス帝国にとって重要な経済効果が見込まれたからだろう。
緑色人の素材は高く売れると、帝国人は言っていた。
つまり、人間の臓器や皮膚。
眼球、爪、脳。
そう言ったものが、帝国では取引されているのだろう。
それも高値で。
そう言ったものが出回ると、自然と帝国内の市場は好景気になりやすい。
しかも、少し突いてもビクともしない好景気。
経済発展は大いに見込まれた。
だがら、その為に俺の村の人々は、人と見做されなくなった。
何とも理不尽な話しだ。
その為に、オーザックの母も、クレリアの娘も、殺された。
全く、馬鹿げている。
そして俺はクレリアと会い、村の再建を手伝った。
結局その後も紆余曲折あって、新しい村、エルレリアが完成した。
堀もあり、可動橋もあり。
立派な村だった。
これでもう誰も死なない。
もう誰も殺させない。
そう思ったが、今となってはそんなエルレリアはチリ一つ残さず消えてしまった。
そこにいた皆も、死んだ。
自然と涙が下垂れ落ち、もう一つの命も存在しない土壌に染み込んだ。
例えその一雫がそのまま地表深くに染み込んだとしても、何も変わらない。
俺がいくら嘆いても、何も変わらない。
今までも、ずっとそうだったように。




