- - - :闇黒に死して
「………………俺は、死んだのか……?」
「あぁ、死んだの」
何も無い、只々真っ暗な場所に、俺が居た。
隣には、ジュルカが居る。
初めは。
初めて此処に来た時はただ困惑したが、何度も来れば解る。
精神界。
そうか、俺は死んだのか。
そうか、そうか。
俺は本当に…………
「だが、儂が助けてやろう」
「………………え?」
不意にそう言われた。
俺は、困惑した。
助ける。
どうやって?
俺はもう死んだ。
この精神意識も、死ぬ直前の僅かな残滓でしか無いのだろう?
そんな残滓を、如何して再び肉体に宿すと言うのだ?
「ちなみに、主の精神意識は消えておらん。死ぬ直前のそのままの状態で此処に居る」
なら俺は死んでいないんじゃ無いのか?
そうであれば俺は何故精神界に居る?
何で、此処に居る?
「簡単な話。儂が代わりに死んだからじゃ」
…………は?
ジュルカが死んだ?
俺の代わりに?
どういう…………?
「主には三つの魂が混在している。一つはエルダの、一つはガーナの、そしてもう一つが、儂の魂。どうやら転生魔法をかけられる人には自身の魂を幾らか譲渡する事となる様だ」
いまいち話が見えて来ない。
「そして絶命魔法とは、発動すれば他者の精神意識を崩壊させる魔法」
そんな事は知ってる。
「精神意識とは即ち魂。つまり主は、精神意識を三つ持っていたのじゃ」
………………。
「そして、絶命魔法では、精神意識を一つ崩壊させる。普通人間は精神意識を一つしか持っておらなんだから、その一つを消せばその人物は肉体を残して死ぬ。だが主は例外。ロゼは絶命魔法で主の精神意識の中の一つを殺した。つまり、儂の精神意識を」
…………そういう事か。
「今此処にいる儂は、精神意識の残滓。軈て儂の精神意識は完全に消え去り、儂は本当に死ぬ。転生はしない。できない」
「……何で?」
「…………もう儂には、自分すら転生させる為の力が残っておらなんだ。ガーナを転生させていた時点で、遅かれ早かれ寿命で転生せずに死んでいた。その時期が早まった、それだけじゃ」
「…………何で……」
ジュルカは、真っ暗な虚空を見上げながら言った。
「儂には…………何も変えることが出来なかった。だが、主なら出来る。儂には出来なかったことが、主なら。それなら、何にも成せないジジイを生かしておくより、主を生かした方が良い。そう、判断したからじゃ」
ジュルカは、真っ直ぐと、俺の目を見た。
眼球を貫かれそうな程、鋭い視線だ。
「…………どうか、どうか、世界を、救って欲しい」
それはずっと。
「どうか、主の大切な人も、皆んな、皆んな、救って欲しい」
彼が望み続けた事。
「……どうか、どうか」
己が命を捨ててまで。
「お願いします」
叶えたかった、守り続けた、夢。
「………………わかりました」
俺は、唇を噛み締めて言った。
ジュルカとは、なんだかんだ長い付き合いなのだ。
彼のおかげで、俺は生きながらえていたのだ。
……色々と恩がある。
未だ返せていない。
だから、今から返すんだ。
彼に生かされたから。
俺だって守りたい命が幾つもある。
彼等を守る為に。
恩返しの為に。
「………………ありがとう」
「いいえ、俺の中での、けじめです」
「どうか、よろしく頼んだ」
「…………はい」
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何で?
何で?
何で?
何で?
何でこうなった?
ジュルカ。
お前は言っただろう。
こうなる未来は回避できたと。
なら何故俺の目の前には、この光景が広がっているんだ?
なぁ。
誰か説明してくれよ。
なぁ。
なぁ!
なぁ!!
皆んな死んじまったよ!
父さんも、リカルも、叔父さんも、何もかも!
大切なもの全てが消えた。
何もかもが消え去った。
何でこうなんだよ!
クソが!!
巫山戯んな!
巫山戯んなよ!!
俺は!
俺は!!
俺はぁ!!
…………俺は。
…………巫山戯んなよ………………
エルダの目の前に広がっているのは、生命も文明も、何もかもが消えた、永遠と続く焦土だった。




