走馬灯・ー・ー・ー
――目覚めは何時も同じだった。
――何度も、何度も、同じ名を囁かれて始まる。
――何度も、何度も、夢現。
――それが正夢となる様、足掻いた。
――必死に足掻いて、軈て何度も死に絶えた。
――それでも、また邂逅出来る日が来ると、願って、進み続けた。
――そして軈て邂逅は叶った。だが――――――
――叫喚した。
公開処刑場。
その奥の扉から、彼女は出きた。
――行き着く先は同じでも。
両手に枷を嵌められ、所々シミが付いたその服は、正に奴隷が着る様な、只一枚の布を体に巻き付けた様なものだった。
――まだ、違う道があるのでは無いかと。
醜い。
見窄らしい。
こんな無様な皇后、早く死んでしまえ。
そんな声が、民衆から聞こえた。
正直言えば其奴等全員殴って回りたい。
二度とその口が利けない様にしてやりたい。
だが、今の俺は無力だ。
殴る事も出来なければ、現状を見物するしか出来ない。
悔しい。
悔しいが。
――そう、思いたかった。
それしか、出来なかった。
――そう。思いたかったんだ。
走馬灯・ー・ー・ー
サージュが処刑台の上に立った。
処刑台の軋む音が、はっきりと聞こえる。
彼女の吐息も、心拍も、その隣に居る兵の息遣いも、全て、解る。
そのせいで余計、辛くなる。
「罪人サージュは、近隣の村の人々を徴兵し、徴兵村民へは課程修了の褒美を自身の解放とするなどと戯言を吐き、いざ解放となればその人物を殺す様に命じた」
先程もアナウンスをした奴が、そんな誤謬をさも真実であるかの様に語った。
「これは、オームル王国の品位を冒涜する非道なる行為であり、私たち聖者は、この罪を許してはならない!
非道なる女王に鉄槌を!」
「「非道なる女王に鉄槌を!」」
「「非道なる女王に鉄槌を!」」
「「非道なる女王に鉄槌を!」」
民衆の興奮を煽った。
その手腕には感服するよ。
よくもまぁ、こんな嘘を平気でつらつらつらつらと吐かせるものだね。
心は痛まないのかな?
病んだりしないのかな?
いや、する訳ないか。
彼奴等は、人の気持ちも何もかもが理解出来ない、人以下のクズ。
ただの塵芥。
それ以外の何物でも無い。
生きている価値が無い。
生物として恥ずべきゴミ。
同じ空気を吸って生きていると考えるだけで、吐きそうになる。
だがここで幾ら喚いたとして、現実が変わる訳では無い。
だから、ここで彼奴等を殺す事は出来ない。
殺したい。
殺してやりたい。
火で炙って、皮膚を削いで、その中に液体状の蝋燭でも入れてやるくらいしたい。
だが、出来ないんだ。本当にすまない。
本当に、すまない。
サージュの首が、木材に挟まれ、もう二度と此処から動くことが出来ないことを悟らせていた。
もう、二度と、生きる事は出来ないと。
ギロチンの横で、兵が抜剣する。
そして天へと掲げ、その刃は、あるロープに向いている。
このロープと繋がっているのは、大きな刃。
このロープを切れば、上の刃は落ち、サージュは死ぬ。
本当の、命綱。
「やめて! やめて! 何でもするから! 俺が代わりに死ぬから、だから。サージュだけは、サージュだけは、俺から奪わないでくれ! 頼む、お願いだ! だから……頼む、頼む、頼む、頼む、頼む」
そう叫んでみるが、その声も只骨伝導で聞こえてくるのみで、実際に空気を震わす事は無かった。
俺は泣き崩れた。
自分の無力さに。
このどうしようもない世界の流れに抗う力が、無い。
運命を捻じ曲げる事が、出来ない。
嗚呼、俺は、どうしようもない弱者でしか無いのだ。
弱者で、クズな、凡愚だ。
殺して欲しい。
サージュじゃなくて、俺を。
サージュの代わりだったら、何度だって死ぬから。
ほら、今までも、何回か死んできたから。
そうだ、そうすれば、何度も、何度も、俺を殺せるじゃないか。
一回死ぬのは簡単な刑だ。
だが、何度も何度も死ぬのは、とても重い。
そうすれば、サージュの罪の肩代わりだってできる。
サージュの死一回の代わりに、俺が何十回も何百回も死んでやるから。
ズタズタに切り刻んだらいい。
腕を切り飛ばしたらいい。
爪を引っこ抜いたらいい。
一本ずつ指を切り落としてもいい。
足を切り落としてもいい。
眼球もくり抜いたらいい。
鼻の骨を折ってもいい。
舌を切ってもいい。
歯を全部引っこ抜いてもいい。
去勢してもいい。
腑を切り裂いて。
内臓を穿り出して。
好き勝手していい。
だからどうか。
どうかサージュだけは…………
「「「うおぉぉぉぉぉ!!!!!!」」」
歓声が巻き起こった。
皆笑顔でそう雄叫びをあげている。
心の底から喜んだ。
これで、身勝手な統治とおさらばであると。
これで、ちゃんとした人が王となると。
可笑しい。
狂っている。
人の死を喜ぶだなんて。
何がそんなに面白い?
何がそんなに喜ばしい?
目の前で、一人の女性の首が落とされて。
何がそんなに楽しいんだ?
済まないが、俺には到底理解しかねる。
よくもまぁそんな憎たらしい顔で笑えたもんだ。
一人ずつ殴って回りたい。
クソが。
クソが。
クソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソが。
巫山戯てんのか?
お前等本気で喜んでるいるのか?
目の前の骸は、この国で一番お前等の事を考えて、励んできた人だぞ?
そんな自分たちの恩人が死んで嬉しいか?
恩を仇で返すなど愚の骨頂。
悪魔の所業だと?
巫山戯んなよ。
お前等の方がよっぽど悪魔だ。
俺からしたら、少なくとも人には見えない。
低知能の獣物に見える。
本当にそのでっかい頭には脳みそが入っているのか?
入っているのなら、そりゃぁ相当質が悪いらしい。
少なくとも、馬鹿とか、そんな簡単な言葉じゃ言い表せないくらい馬鹿なんだな。
「クソォッ!!!」
そう叫びながら鉄柵を殴った。
手が痛むが、それよりも。
痛い。
痛い。
痛い。
ずっと、ずっと、ずっと。
ずっと痛い。
ずっと、ずっと。
痛かった。
王城の地下の独房に置かれてあった生首は、軈て焼却処分された。
そうして、走馬灯は終わり、俺は死んだ。




