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走馬灯・・ー







 「………………ナ…………………………」






 何か聴こえる。






 「…………………………ガーナ……………………」





 懐かしい声だ。





 「………………ガーナ………………………………」





 いや、そこまで昔の話ではない。





 「…………ガーナ…………………………」





 ずうっと、俺の名前が聴こえる。




 「………………ガーナ……………………」 



 その名を聞くたびに、暗示の様に心の中に纏わりつく。



 「……ガーナ…………」



 何度も呼ぶので、しょうがなく、起きてみる。


 「…………ガーナ…………………………」








 パッと目を覚ますと、そこには一人の女性が居た。



 少し屈んで、地面に寝ている俺を覗き込んでいる様。




 「…………サージュ……………………」



 俺は、彼女を見て、口がそう勝手に動いた。



 女性は、俺の背中に手を伸ばして、俺の名前を囁いた。



 俺は、危惧した。



 またか。



 またなのか。



 この姿。



 この雰囲気。




 彼女は間違い無く、とうの昔に亡くなった、かつての俺の妻、サージュであった。
































 



















 走馬灯・ー



























 

























 ――何度も、何度も、同じ名を囁かれて始まる。





「どうしたの? 行き成り」


 優しい声で、そう語りかけてきた。

 その声すらもう尊く。貴く。


「いや、何でも無いさ」


 何かあるに決まっている。

 ついさっきの出来事だったのだから。

 いや、もう久しい事なのか。


「そう、それなら良いけど…………」


 そう言いながらサージュは立ち上がった。

 今は、未だ気付かなくて良い。

 気付けなくて良い。

 俺はガーナ・ケフィアだ。

 それ以外の何者でも無い筈だ。









 


 ――場面が変わった。



「今日も朝から農作業かな?」


 我が家の前で、そう声をかけられた。


「いや、今日は少し森の方にな」

「そうかそうか」


 クレリア村長。

 温厚篤実な、村長らしい村長だ。

 皆に好かれ、彼も皆を好いている。


「サージュさんも、もう暮らして二年になるけど、どう?」

「長閑で良いところです。元々町に住んで居たので、こういう所で暮らすのが夢だったんですよ。だから、今とても楽しいです!」

「そうか、それは良かった!」


 満面の笑みで、クレリアはそう言い、それに対するサージュも、眩しい笑みを浮かべていた。

 そうかぁ、こんな別嬪さんが俺の妻なのかぁ。

 幸せだなぁ…………


「ガーナ、主何ニヤついているんだ? 気持ち悪っ」

「いやっ、別に…………」


 言葉に詰まった。

 また、また、また、こうして逢えた事への悦び。

 或いは……

 



 そうして家の中へと入った。

 懐かしいなぁ。

 そうだ、懐かしい。

 オームル王国に行ってから帰ってきてないからな。

 一体いつ振りだろう。

 昨日のことの様な気もすれば、もう数十年振りの様な気もする。


「もうそろそろ夜だから、夕飯にしましょうか」

「そうだな、何か手伝うよ」

「それじゃぁ…………野菜切ってもらってて良い?」

「わかった」


 こうして流れる、いつもの日常。

 いや、日常なのか?

 俺の目の前の風景は虚偽であり、実際はそうでは無いのだろうか。

 解らない。

 解らない。











 ――場面が変わった。


 

「聞け! 村の者!!」


 突然外で、聞き覚えのない声が聞こえた。

 三回目だから、聞き覚えはある。


「この村は、我らオームル王国が支配する! 早速、この村の中央広場に全員集まるように! 時間は三分! それまでに来なかったものは、躊躇なく殺す! さっさと出てこい!」


 此処は出て行くしか無い。

 後で逃げれば良い。

 王国に着いてから。








 



 ――場面が変わった。



「貴様等には今日からオームル王国の兵として活躍して貰うために、訓練に励んでもらう! 勿論この命令に於ける拒否権を貴様等に与える気など毛頭無いので、精々死なないように頑張れ」


 巫山戯たスピーチを聞いた時、俺たちはオームル王国へ隷属することが確定した。

 俺たちは、オームル王国の奴隷になった。


 奴隷など、許せない。

 カルロスト連邦国の国情を貴様等は周知していないのか?

 であれば相当な愚者であろう。

 いや、知っている上でこう言った行動をしているのであれば、それこそ只のクズだ。

 だが、これに従えば、後に待っているのは奴隷からの解放だ。

 そうなると決まっている。

 だが、それを待てば死ぬ。

 俺は王国兵に殺される。

 金属光沢が良く見られるショートソードに、俺の首から出た血が付着し、俺は息絶える。

 ならば初めから逃げ出してやろう。


 









 ――場面が変わった。


 嗚呼、何故こうなった?

 こうなると解っていれば、もっと別の方法を考えたのに。

 いや、未来など誰にも解らない。

 その中で最適解を求め出そうと企てる事こそが愚考なのであろう。

 なら俺はその最適解に縋った凡愚という訳か。

 っはは。

 俺は所詮そんなものさ。

 居ても死んでも誰も気にかけない。

 俺が死んだとて、この世界が動き出す事はない。

 俺は、この世界にとっての些事に過ぎない。

 バケツ一杯の水を海に流しても津波が起こる事は無い様に、俺が死んでもこの世界の普遍的な条理が変化する訳でもない。


 只こんな俺にも、人生があって、大事な人が居るんだ。

 俺にはガーナ・ケフィアという名があって、この世に二度とそのガーナ・ケフィアが顕現する事は無いのだ。


 ……背後から弓矢を放たれた。


 それを奴等は嘲笑する。

 散々揶揄して、散々軽視して、まるで自分以外の者を物としか思っていない様だ。


 ……それが俺の太腿に刺さり、俺は倒れ込んだ。


 巫山戯るなよ。

 貴様等が同じ事をされたらどう思う?


 ……顔から地面に倒れ、頬から血が流れ落ちる。


 貴様等にも、愛する家族が居ることだろう。


 ……何とか前進しようと踠くが。


 その家族が、突然、理不尽に、奪われたら。


 ……再び背後から矢を番える音が聞こえた。


 泣き叫ぶか? 虚無感に苛まれ、生きる希望を探すか?


 ……弦の張る音が響く。


 俺はそんな弱者じゃ無い。


 ……そしてそれが放たれた。


 奪われたのなら、奪い返す。

 大切な人を、家族を、助け出す。


 ……背中が熱くなり、その後体は冷たくなった。


 それの何が、馬鹿らしいんだろうな。


「……サージュ………………」


 そう呟いても、返事は無く。

 俺の意識は深い深い海の底へと沈んで行った。




























 














 



『脱走兵を捕らえました』

『殺したか?』

『…………申し訳ありません』

『いや、良いんだ。そんな出来損ない、うちには要らない』

『ですが…………』

『良いと言っている』

『はぁ、ダイナス様がそう仰るのであれば……』

『うむ、それで良い』

『それではこれで通信を切らせていただきます』

『うむ』

『失礼します』




 













 

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