156:仇討〜カルロスト攻防③〜
仇討=あだうち
手始めに炎の槍を飛ばしてみる。
が当然ザルモラはそんな物、避けもせずその体に触れた瞬間霧散した。
「ふむ、サルラス帝国の炎魔法師よりもよっぽど良い。あの時の子供が大きく成長したものだ」
「それは何より」
お前に褒められて嬉しいわけがないだろう。
それどころか、苛立ちさえ覚える。
再び私は、炎槍を飛ばした。
だがさっきは一本だけだったのに対し、今度は百数十本同時に、ザルモラに向かって飛ばす。
流石にそれ等全てを無力化する事は困難なのか、風を発生させて軌道を逸らし、何とかザルモラは直撃を免れた。
だがそれだけで終わらせる筈もなく。
直様その倍の量の炎槍を顕現させ、さっきよりも高速でザルモラに飛ばす。
それをザルモラは風で自身の体を飛ばす事で回避してみせた。
だが甘い!
その風の魔法を複製して、さっきの炎槍の軌道を変え、ザルモラを追尾する様にした。
それに対してザルモラは逃げ続けた。
そしてその手に水魔法を形成し、それを炎槍目掛けて放った。
それで消火しようと思ったのだろう。
だから私はその水が接触する直前で、炎槍を爆ぜさせた。
その爆撃が直撃したザルモラの頬には血が流れていた。
だがその爆発による煙幕がなくなる頃には、その血は無く、怪我も癒えていた。
第一次帝国侵攻でも見た、瞬間治癒。
これがある限り、私の勝利は難しくなる。
これを封じさせる方法は思いつく限り二つ。
瞬間治癒も、魔力を使う。
だから、その魔力が枯渇するまで戦う、つまり消耗線に追い込む方法。
二つ目は、治癒させる暇を与えない程に私がザルモラに連撃を当て続けるか。
つまり、魔力の枯渇を待つか、回復の隙を与えない様にするか。
私からすれば、後者の方が良い。
ザルモラの魔力総力がどのくらいである事が未だ不明であるため、もし私の魔力が中途で枯渇して仕舞えば、私は負ける。
だが回復の隙を与えない様な攻撃であれば、さっきの数百本の炎槍をずっと食らわせてやれば良い。
そちらの方が堅実だ。
だがそれだけでは、この男は倒せない。
もっともっと、予想だにしない攻撃をしないと。
こうして戦っていれば解るが、ザルモラはあまり創作魔法を使いこなせていない様に見える。
あまりにも強大で汎用性の高過ぎる力故に、凡愚なザルモラには無用の長物になってしまっている。
本来創作魔法と言えば、非凡な考えが出来る者こそが使いこなせるものであるのだが、ザルモラは一切常識の範囲外の攻撃を行わない。
確かに、風を使用した回避や迎撃は創作魔法ならではの技だ。
だが、それ止まりなのだ。
だから、こんな応用にも気付かない。
「あ゛っ!!!」
私はザルモラが大量の炎槍から逃げている時に、そう叫んだ。
何か攻撃を食らった訳では無い。
只突然、私は叫んだ。
側から見れば突然頭が可笑しくなった様に思えるだろう。
だが、そんな事あるまいて。
その叫びは、ザルモラへと届いて行く過程でどんどん大きくなり!
「ぐあっ!」
その叫びに気付いて居なかったザルモラはその叫びに悶えた。
ザルモラの左耳から、血がつーっと垂れて行く。
簡単な話。
風とは、空気の流れ。
また音とは空気の振動であり、ある種空気の流れとも言えるだろう。
だから私は自身の叫びを、風魔法を使って大きくし、その爆音と化した叫びは、ザルモラに直撃した。
ザルモラは悶え、一瞬だけ動きを止めた。
今だ!
ザルモラの動きが止まっている間に、私は食らえば死に至らしめる強さの電気を迸らせた。
見事その雷魔法はザルモラに直撃。
だがそれだけで其奴が死ぬ筈もなく。
只、全身を麻痺させる事は出来たらしい。
それを視認し、風の魔法でもザルモラの動きを制限。
ザルモラに向かって外から内へ風を吹かせる事によって、そこに閉じ込める。
そこに、さっきの炎槍を幾千本、降り注がせる。
「あ゛あ゛ぁぁぁぁ!!」
これには流石のザルモラも悲鳴を上げた。
だが未だ終わらない。
風の魔法でザルモラの口を開け、そこに水魔法を使って水を入れた。
入れ続けた。
口から溢れないように、これもまた風の魔法で口の中に入るように促す。
そしてずっと水を入れて行く。
とうとうザルモラも悲鳴を上げられなくなり、呼吸すらもままならなくなった。
手と足が痙攣し、鼻からは口から入れた水が滝のように流れている。
そしてこの水は胃に到達し、そこから小腸へと、流れ込んでいく。
そして胃と分岐して、肺にも入って行く。
こうなればもう呼吸は出来ない。
そのまま肺に水を入れ続けた。
そしたらどうなるか。
膨張した肺は何れ強度が下がり、破ける。
するとその行き場の無くなった水が体内に溢れて。
要するに、死ぬ。
風魔法を止め、炎槍も止ませ、水も止めた。
今まで宙に浮いて居たザルモラは地面に叩き落とされ、敗れた肺で呼吸しようとするが当然出来ない。
横隔膜を幾ら動かしても、肺は膨らまない。
ザルモラの目が赤くなって行く。
「…………そうやって………………」
ザルモラの手の痙攣が止まる。
「ずっと、ずっと、ずっと、ずっと、ずっと、ずっと」
最大にまで開いて居た目が、閉じ始める。
「苦痛にもがいて、地面をのたうち回って」
横隔膜も動きを止めた。
「死ね」
ザルモラの生命活動は、停止した。
その瞬間、身体中に穴という穴から、水が大量に流れ出した。
何と無様な風体だろう。
かの大魔法師は今、水を垂らして無様な死に様を晒している。
屈辱か?
苦しいか?
そうか、苦しいのならそれで良かった。
苦しんで死んでくれて、此方としても本望だよ。
出来るだけ苦しんで、無様に死ぬ事が、この糞野郎に出来る唯一の贖罪なのだから。
それを最後まで演じるのがお前の役目なんだ。
よく果たしてくれた!
このお前にしか出来ない役割を、よく!
これが、これが、これが!
我が父上やリカルさんの味わった苦しみだよ!
いや、二人はもっと辛かっただろう。
お前のした罪は、一つの死に対して重過ぎる。
それでも、出来るだけ自分のできる最大限の努力を此奴はしたんだ。
ありがとうな。
無様に死んでくれて。
私もスッキリしたよ。
これで漸く、何の気兼ねも無く生きられる。
お前のお陰だな。
だが、未だ足りないなぁ。
私はさっきの炎槍を数十本。
ザルモラに体に向けて撃った。
その槍はザルモラの体を貫き、その体に幾つもの穴を空けた。
そこからは、血と水の混合物が流れた。
汚いなぁ。
やっぱり糞野郎の血はドブより汚いらしい。
それ程此奴が腐った人間であるのだ。
だがもう此奴は死んだ。
もうこれで気負う事は無くなった。
さぁエルダよ。
さぁリカルよ。
存分に帝国を潰すが良い!
お前達ならば、ザルモラ亡き帝国を攻落させることなど造作も無いだろう。
頑張れよ。




