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154:贖罪〜カルロスト攻防①〜






 自室兼仕事室の窓から、外を眺めた。

 此処から見えるのは、王城の入り口からカルロスト地区の東端まで。

 そこに、あるものが見えた。


「…………やはり来たか」

「来ましたね」


 私の後ろに立っているサラナに言うと、案の定返事を返してくれた。


「サラナはさっきの打ち合わせ通り、地域住民の避難誘導を。私はカルロスト軍に加わり、迎撃に努める」

「…………やはり、マグダ様は行かれるのですね?」

「あの中には、ザルモラが居る。ザルモラと戦えるのは、恐らく私しかいないだろう。今、私の命よりも、此処に生きる民の方が大切なのだ」


 あるものとは、サルラス帝国からの大軍。

その奥には、ザルモラが居る。

 確証はないが、絶対居る。

 間違いなく、居る。


「………………死なないで…下さいね?」

「あぁ、頑張るよ」


 死ねないさ。

 もうちょっとエルダと一緒に過ごしたいし、此処でもする事が残り過ぎているから。

 それじゃぁ、行こうか。



 


























 

 


 




 カルロスト攻防

















 










 









〈マグダ〉


 


 私の目の前には、約七百人程の兵士がいる。

 彼らの八割ほどが帝国人で、残りはカルロスト人(アルゾナ王国人)である。


 私がカルロスト地区の自治を任されて、一番の問題が国防であった。

 勿論、住民への援助などのやらなければならない事も山積みだ。

 だが、戦争の準備をする事よりも優先するべき事か? と考えると、国防が一番の課題である様に聞こえる。

 だがこの国に居るのは、ついさっきまで困窮に陥っていた元ビルクダリオ。

 当然兵力と数えるにはあまりにも乏しすぎる。

 そこで目を付けたのが、元々此処に住んでいた帝国人。

 恐らくこの帝国人の中には、未だに此処に残りたいと願う者や、帝国に帰っても居場所のない人達がたくさん居るだろう。

 王政勤めだった帝国人は余計そうである。

 だから私は、入隊した際の見返りに、カルロスト地区の居住権を与える事にした。

 勿論、連邦国時代に悪事を一切働いていない帝国人の居住権は元より認めている為、即刻国外追放するにしても微妙なラインに居る帝国人を、その条件で揺さぶった。

 だがその居住区はジズグレイスでは無い、人気(ひとけ)の少ない辺境。

 だがそれでも、入隊志望の帝国人は集まった。

 帝国に帰った時の世間体があまりにも悪いのだろう。

 奴隷を飼っていた愚者。

 非人道的行為を繰り返していた者として社会的制裁を受けるのは条理であったのだ。

 だからこそ、此処(カルロスト)に残れば、そうなることは免れると思案したのだろう。

 だからこその、居住権という釣り糸なのだが。

 そうしてそれと同時に、全員のこれまでの悪事を調べ上げる。

 なあに、ちょっと脅せば直ぐに吐いてくれるさ。

 それに応じて順次辺境に物理的に閉じ込めておく。

 そうして減った兵は、徐々に困窮から脱していき、職に就く余裕のできた王国人から積極的にカルロスト軍に勧誘して行き、帝国人が抜けた穴を、王国人で埋めてゆく。

 そうすれば、徐々に此処から帝国人を追い出す事が出来、王国人のみの自治が達成できる。

 それに国から職を提供しているのだから、その分安定した給料が与えられ、それによる経済発展が見込まれる。

 その為に第一フェーズ。

 帝国人による軍を作る、の現在。

 その(くだん)の帝国人兵が、今目の前にいる。

 まさか此処まで人が集まるとは思っていなかったのでびっくりだ。


「今、サルラス帝国の軍隊が、我が国へと進軍している」


 この私の一言で、場は騒めいた。

 そりゃそうだ。

 元より故郷であった国が、今度は自分達の居住地域に攻めてきたのだから。

 そりゃぁ複雑な心境になるのも無理は無い。


「君達に命ずるは、帝国兵からこの国を守り抜く事である。敵兵殲滅が目的では無いので、そこは履き違えない様に。尚、敵前逃亡を行った兵は居住権を得る権利を強制的に剥奪させてもらい、その者の過去の犯罪歴を鑑みて、場合によっては国外追放を行う。ので、皆精々この国に被害の及ばぬ様尽力せよ。良いな?」

「「はっ!」」


 少し疎な敬礼ではあるが、それは然程問題では無い。

 今の脅しが効いたのか、歯向かおうとする者は一人もいなかった。


「帝国軍は現在、カルロスト地区の国境を越えようとしている。直ちにそこへ向かえ! 尚装備だが…………」


 こうして私は我が兵へ装備を促した。

 そうして暫くして出てきた兵が来ていたのは、剣の攻撃程度なら弾く金属製の鎧と、軽めのショートソード。

 実にシンプルで、実に機能的である。

 因みにこれの製造を依頼したのは私なのだ。

 初めは帝国人に作る武器だって事で大分と毛嫌いされたが、何とか作って貰う事に成功した。

 何とか説得を繰り返して、つい三週間前にやっと王国人が了承してくれたのだ。

 作ってくれた武器は、この国を守る事のみに使用する。帝国人の独断でそれ以外の用途で使用されようとしていれば、不審な動きをした時点でその帝国兵は即刻処刑する。皆を守る為にも、この武器は必要なのだ。と、懇切丁寧に説明した。

 あの時は疲れた…………


 そうして出来た武器を装備した帝国人は、皆それぞれの面持ちで整列した。

 ある者は居住権への希望を胸に笑み。

 ある者はこれから死地へと赴く事への恐怖の余り冷や汗が止まらず。

 またある者は、もう何も思っていないのか、空虚を眺めて無表情を保っていた。

 つまり、笑んでいる者以外は皆、死んだ目をしている。

 見ちゃいられない光景だが、これを作り出したのは過去に悪事を働いた彼らであり、また、私なのだから。見届けぬ訳にはいかない。


「良いか! 今戦で良い戦績を上げた者には、居住権の付与について前向きに検討してやる! その為に、死なぬ様、精々我が国の守護に努めよ!」

「「はっ!!」」


 死にそうな顔をしながらもそう敬礼する姿には、一般に見れば可哀想に思えるだろうが、当然私にそんな感情は湧かない。

 こいつらは、死んでも当然の事をしてきたのだ。

 その報いを受けるのは当然だ。

 勧善懲悪、因果応報。

 悪を滅し、根絶する事こそ、此処の主たる我が役目であるのだ。

 こんな奴等に情など湧かぬ。

 この戦争で大方死んでくれさえすればこっちも楽になるのに、とも思う。

 だが、それを口に出せば本末転倒。

 できるだけコイツらには希望を抱かせて、そこから急転直下させてやる。

 そうして絶望の淵を歩き続けるが良い。



 

 

 精々我が国の役に立って見せろ。



 


 それが貴様等に出来る、唯一の贖罪なのだから。






 


 

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