表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
201/267

独りの王⑤

200部分突破!

念願の2タブ(スマホの場合)!






 母さんの死が判明してから約四年。


 その間僕もフィリミも、ずっとニルソンの元で暮らしている。

 だがこの四年で、暮らしぶりは大分変わった。

 母さんの死が判明してから数ヶ月後、ニルソンが急に優しくなった。

 家事も手伝ってくれる様になり、僕達への暴行も無くなった。

 会話の時間も増え、彼は本当は優しい人物である事が伺えた。

 お陰でフィリミも嘗ての笑顔を見せる様になり、家族とまでは行かずとも、友達の様な感覚でニルソンとは暮らす様になった。

 僕も15歳になり、フィリミも今年で10歳になる。

 誕生日ももう直ぐだった。


「フィリミちゃんは、誕生日何したい?」

「……皆んなでお出かけしたいです」

「オッケー、解った!」


 そんな会話が、隣から聞こえてきた。


「お兄ちゃんも、良い?」

「あぁ、良いよ」

「やったー!!」


 そう言いながらフィリミは両足で跳ね諸手を挙げて喜んだ。

 自分が付いていくだけでこれだけ喜んでくれていることが、未だ自分が嫌われていない事の証明だった。

 それだけで、僕も嬉しい。



 その日の夜。

 フィリミは既に寝ている時間。

 僕はその日あまり寝付けず、月光が窓から差し入っている廊下へと出て、リビングに来た。

 するとそこには、ニルソンが水の入ったコップを片手に虚無を眺めていた。


「ダイナス? 未だ起きてたのか」

「あまり……寝付けなくて」


 そう言うとニルソンはため息混じりに言った。


「そうか、今日は……ルーウェルさんが亡くなった日だからな」


 それに僕は無言で答えた。

 四年前のこの日。

 僕達が居るこのサルラス帝国がオームル王国へと攻勢を仕掛け、その戦争に巻き込まれる形で、我が母ルーウェル・ヒューリストは他界した。

 だからか、僕は母を憶い出し、眠れなかった。

 ……それは、ニルソンにおいても同じ事か。


 そのまま僕はキッチンの方へと行き、自分のコップを取って水を入れて、ニルソンと少し離れたソファに座った。

 そのソファの前にある小さな机に、一口飲んでからコップを置いた。


「ニルソンさんに、訊きたい事があるんですけど……」


 僕がそう言うと、ニルソンは下に向けていた視線をまた元の位置に戻した。


「四年前の事です」


 それを聞いて、ニルソンはコップを机の上に置いた。


「母さんは、僕達を()()()んじゃなくて、()()()んじゃ無いですか?」


 ニルソンは、深いため息を吐いた。


「あのままオームル王国に残っていれば戦争に巻き込まれて死ぬから、僕達をあそこから逃したんでしょ?」

「…………そうだ」


 ニルソンは立ち上がり、僕の隣に少し距離を空けて座った。


「四年前。と言っても戦争が起こる一ヶ月前。俺はルーウェルさんに一つお願いをされた。『多分この辺りは来月の戦争に巻き込まれるだろうから、子供達を連れて帝国へ行って』ってね。だから俺は、ルーウェルさんがダイナスとフィリミちゃんを売ったことにして、帝国へと逃した。そういうことだ」

「…………何故母は自分も避難しようと思わなかったのですか?」

「………………俺も解らない。ルーウェルさんは、それだけは教えてくれなかった。だがまぁ、こんな計画を立てたのは、多分ルーウェルさんは、自分に固執して欲しく無かったからじゃ無い?」


 そう言うとニルソンは立ち上がり、コップを取ってまた同じ場所に座った。

 一口飲み、コップを机の上に置いた。


「俺も、正直心苦しかった。あの頃の俺は多分、ちょっと頭が可笑しかったと思う。けど、ルーウェルさんが亡くなったと知って、もう子供二人を奴隷みたいに扱わなくても良いんだって考えたら急に気が楽になって。まぁそれに気付くまで何ヶ月か掛かっちゃったけど。あの時は…………ごめん」

「いや、良いんですよ! 今は全然何とも思っていませんし。ニルソンさんだって…………辛かったんですもんね」

「でも、それでも、子供に暴行を繰り返すなんて非道な行為を毎日毎日繰り返していたんだから、社会的には俺は罪を咎められ、罰を食らう立場なんだ。だから、何度も罵ってくれて一向に構わない」

「でも、ニルソンさんには四年育てて下さったご恩がありますから」

「…………ありがとう」


 初めて、ニルソンと本音で話した。

 そして、知る事ができた。

 何故母さんはあんな事をしたのか。

 何故 ニルソンはあんな事をしたのか。

 そう、全ては母さんの僕達を守りたいと言う想いだったのだ。

 僕達は母に守られて、母の愛に包まれて生きてきた。

 

 知らない間に、僕達は、何度も助けられていたのだ。













 次ぐ日の朝。



 突然の事だった。



「朝早くに突然済まない。ダイナス・ヒューリスト。直ちに我が帝城へ来い」



 朝食中に無断で家に上がった男は、そう言いながらニヤリを不気味な笑みを浮かべた。

 男の名は、ロゼ・サルラス。

 サルラス帝国の、皇帝だった。













 


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ