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極魔大戦の追憶〜ガルム海上戦〜

本日2話投稿です。








 蝶が舞った。


 

 灼熱の焔を灯した蝶が、空を舞った。

 まるで、朝の暁の如く。

 まるで、夕暮れの如く。

 まるで、血の如く。


 ある者はそれを美と称す。


 ある者はそれを悪魔と畏怖する。


 ある者はそれを命と謳う。


 ある者はそれを叡智と吹聴す。


 そのどれもが、あながち間違いでは無い。

 その蝶は美なのだ。

 その蝶は悪魔なのだ。

 その蝶は命なのだ

 その蝶は叡智なのだ。


 人の儚い生と命を蝶という形で具象し、それは悪魔の様に空へと舞い、美しくそこに在る生きとし生ける全てを無に帰す。

 ある種これは人類史上の魔法学に於ける最高傑作であり、名だたる研究者達の叡智の結晶であるのだ。

 さてそれは()が為の物であるか。

 それは守る為のものであるからして、それが掠奪に使われる事は無かった。

 それに、数多なる文献を参照すれど、かの蝶が舞ったのは歴史上一度だけであるという事だ。

 それは、嘗て第一次帝国侵攻と呼ばれる戦争の最後。

 その時の王がその命を以ってして帝国軍の侵攻を食い止めたと、数多なる歴史書には記されている。



 だが、歴史に隠されしもう一個の蝶がある。

 それが起こったはガルム諸島近海。

 後に総称して極魔大戦と呼ばれる大陸戦争の一幕。

 誰が使ったのか。

 何の為に使ったのかは定かで無い。

 だが現在はその事実すら世に残っては居ない。

 その事実を知るは、私と彼の二人のみである。

 ここでその話題は避ける。




 以下割愛。




 ジュルカ・デラフト著「魔法歴総括」より第二十五章




 これよりは上記の著書からは抜粋された内容を記す。



 それは地獄だった。

 だが、勇敢だった。

 ある一人の女性である。

 彼女は幼い頃に我が手で父母を殺害し、その後送られた親戚の家でも、親戚の姉を殺している。

 そしてその後王子に拾われ、現在は王となったその彼の傍で秘書として働いている。

 そんな彼女は、大混戦の中、腕を斬られ、足を斬られ。

 出血多量であのままでは助かる可能性など無かった。

 本人もそれを悟っては居たのだろう。


 だから彼女は、蝶を飛ばした。


 その蝶は、彼女の指先から少しずつ、糸を紡ぐ様にして構成され、軈て彼女の指から離れた。

 その瞬間、彼女の体の力は、ふっと抜けた。

 そして、彼女の肌は蒼白になり、瞳孔が散大した。


 その蝶は、空を舞い、舞い上がり、赤いカーテンを空に掛けた。

 まるでその様は死神。

 この世に死神が見参したのはこれで二度目。

 もう二度と見たく無い。

 そしてその蝶は軈て熱風と化してそこにあった何もかもを無に帰した。

 万物を消滅せしめたのである。

 その万物には術者も含まれており、無論その遺体も残っていなかった。



 こうして、極魔大戦の一幕、ガルム海上戦は収束したのであった。















 

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