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148:極魔大戦〜海上班出立〜


 




「いいか! 今戦争の我が国の目標は国防であって、侵攻では無い! この事だけは、努努忘れるな! そしてもう一つ、これは命令だ。断じて、断じて死ぬ事は許さん! いいな?」

「「はっ!!」」


 そうガラブが兵達に演説し、皆の士気を高めた後、ガラブはゆっくりと私の方へと歩み寄ってきた。


「リカルも……どうか…………死なないで…な」


 少し震えた声で、ガラブはそう言った。

 私とは目線を合わせず、その視線は俯いている。

 その顔を見るに、オームル王国での事を思い出しているのだろう。

 大切な人や、知り合いを全て失った、あの惨劇。

 これ以上見知る人を失いたく無いのだろう。

 そして自分がその内の一人であったことが、嬉しい。


「勿論です」


 この時。

 私は微笑んでいたのか、それとも無表情だったのか。

 あまり覚えていない。


「……そうだな。そうだな。リカルには死ねない理由があったな」


 ガラブがしめしめ顔をしながら目線を私と合わせて言った。


「ちゃんと()()()に本当の気持ちを伝えるまで、死ねないもんな」


 あぁ。

 それを聞いた時の私の顔はどうだっただろうか。

 恐らく、ガラブを睨みつけていた。


「…………そう言うガラブこそ、女性の友人の一人でも作ったらどうですか? いっつも一人で、『結婚したいぃ』だの『彼女が欲しいぃ』だのほざいている割には、結局待ってるだけで何もしないなんて。そりゃ抑も、好きな人を見つける機会すら無いですもんね」

「え? リカルは友人じゃ無いの?」

「違いますけど」

「………………」

「……………………え?」


 まさかガラブがそう思っていたとは。

 私がガラブの友達な訳ないだろう。

 只同じ職場なだけだし。

 何を言っているのだろう。


「……そう、だったのか」


 だからなんでガラブはそんな悲しい顔をするのさ。


「でもまっ、リカルが死ななけりゃそれでいいさ。リカルがそう思っていても、少なくとも俺はリカルの事を友達だと思ってたから。まぁ、なんかあったら遠慮なく頼れや」


 最後の言葉は、優しかった。

 言葉の内容では無く、声のトーンが、優しかった。

 私は知っている。

 普段は只の馬鹿にしか見えないガラブだが、仲間思いのいい奴だ。

 だからこんな私でも心配してくれる。

 友人というよりは……仲間って感じかな。


「わかりました。それじゃぁ、行ってきます」

「おう!」


 そう言って私は、百八十人の海上班と共に、駐屯地を出た。

 向かうは舟がある係留施設。

 そこにある三隻の船で、国防に努める。

 …………海に出るのが無駄足だったら一番いいのだが。

 あの帝国がそんな事をする訳が無い。

 先ず間違いなく、海から攻めてくる。

 折角手に入れたガルム諸島だ。

 此処で利用しない手は無いだろう。


 ……果たして私でこの役が務まるのだろうか。

 戦争の司令など、殆どした事が無い。

 初めてしたのが、第二次帝国侵攻だった――筈。

 まぁあの時は、司令という司令を出す前に行動不能になったけど。

 なのでこれが初めてと言っても良い。

 正直不安だ。

 私が選ばれた理由は魔法使いである事と地位が上の方であって信用があったからだろう。

 それにあの状況でアステラが頼めるのが、私とガラブしか居なかったというのもあるだろうな。

 なので、私の指揮能力で選ばれた訳では無いのだ。

 だからこそ、不安だ。

 本当に私は出来るのか?

 本当に私に務まるのか?

 本当に私で良いのか?

 そんな問いが、何度も何度も、頭の中で駆け巡る。


 気になったので、少し後ろを振り返ってみた。

 するとそれに気付いた一人の兵が、私に向かって手を振ってくれた。

 口角を少し緩めて、微笑みながら、私に手を振ってくれた。

 ……今から私も彼も、死地に赴くというのに。

 どうもこの剣士は呑気な様だ。

 だが、そんな彼が居るからこそ、この場は少し明るくなった。

 皆、死を怖がっていた。

 死ぬのは嫌だ。

 死にたく無い。

 帰りたい。

 そう、畏怖していた。

 だが、さっきの彼の手を振る様子を見て少し元気が出たのか、皆の足取りが少し軽い様に感じる。

 今から、命を賭して国を守る。

 愛国者からすれば崇高な行いに違いないのだが、生憎私は愛国者では無い。

 だから正直、この国がどうなったって構わない。

 私は、私の大切な人を守りたい。

 その人の命を。

 その人の体を。

 その人の心を。

 その人の笑顔を。

 私は守りたい。

 哀しむ顔が見たく無い。

 苦しむ声を聞きたく無い。

 その為ならば、私はこの命さえも懸けられる。

 私の中にあるのはそれだけ。

 私が生きて守れられないくらいならば、この命などくれてやる。

 只私は、恩人を、仲間を……好きな人を。

 守りたいだけ。

 …………私の後ろについて来ているこの兵達には、この私の身勝手な思いを押し付ける事となる。

 傲慢だ。

 だが、その指針を変えるつもりは毛頭無い。

 当然兵なのだから、戦いで命を燃やしても可笑しくない。

 だが、私の願いが叶えば、必然的に国防も叶う。

 私の夢を押し付けても、結果は良い方向に行く……だろう。



 これから死に行くであろう戦士達。

 国の為に。

 ……私の夢の為に。

 戦ってくれ。













 

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