145:帝城決戦
※この話には、かなりキツイと思われる残酷描写があります
ロゼが一歩踏み込む。
それを見て、俺も腰をグッと落とし、足に力を入れた。
そして次の瞬間。
ロゼが正面から飛びかかって来た!
それを俺は半身になる事で回避。
序でに浮遊魔法で自身の体をよりロゼから距離をとる様な形で移動させ、ロゼの手の届かない場所まで移動した。
それを見たロゼは、視認した瞬間、また正面から突っ込んできた。
それをさっきと同様に回避。
すると俺が着地する前にロゼが踏み込んできた。
それを俺は難なく去なす。
簡単な話、浮遊魔法で軌道をずらしてやるだけだ。
俺は、ロゼを殺さない様に立ち回っている。
理由は簡単。
若しガルム諸島と同じ様な事をされては堪らないからだ。
要するに、サルラス帝国皇帝を殺したからアルゾナ王国に進軍する! 的な流れになったら駄目なので、ロゼは殺せない。
浮遊魔法は、相手を殺すことは簡単だが、殺さず無力化する事には向いていない。
まぁ、足を折ったり、腕を折ったりする事は可能だが、こうも動き回られているとどうも上手く出来る気がしない。
誤って体を潰して仕舞えば、致命傷は免れない。
対して向こうの勝利条件は、俺に体に少しでも触れる事。
絶命魔法は、対象に触れていればその対象を死に至らしめる事が出来るというもの。
触れていなければどうと無いが、触れて仕舞えばそこで終わる。
なので俺は、殺さない様に、その上少しでも触れられない様に立ち回らなければならない。
正直、とっても面倒くさい上に、集中力を途切れさせてはいけない為、精神力がゴリゴリと削られていく。
肉体的な疲労は問題ないが、精神的な限界が来そうだ。
そんな事を考えながらも、回避に専念する。
飛びかかってくる。
躱す。
飛びかかってくる。
躱す。
この繰り返し。
ある種単純作業。
失敗の許されない、命を賭した単純作業。
ロゼにはまだ、疲労の色が見えない。
長期戦止むなしだな。
……うーん、どうしたものか。
「…………?!」
突然の事だった。
壁に自身の体が衝突し、口から少しばかりの液体が吐き出される。
口の中に血の味が広がり、吐血したのだと理解した。
何だ?
何が起きた?
俺はさっきと同じ様に、浮遊魔法で体を後退させただけだが?
何故がそのまま高速で背後に突き飛ばされ、背後の壁に激突した。
まさか、ザルモラが居るのか?
こんな事を出来るのは、ザルモラ以外思いつかない。
何処だ?
何処に居る?
そんな事を考えていた時、再びロゼが飛びかかって来た。
座った状態だったので、浮遊魔法で少しだけ体を浮かせて横へずらそうとした。
だが体を浮かそうとした時、また高速で天井へと吹き飛ばされた。
頭頂部を天井に強打し、一瞬だけ思考が停止する。
そして俺は落下した。
勿論ロゼはその隙を見逃さない。
俺が落ちようとしている位置に立ち、手を伸ばしている。
そして俺の体がロゼの手に触れようとした刹那。
何とか意識が戻り、自身の体を遠ざける事に成功した。
だがまた体は吹き飛ばされ、壁に強打した。
何だ?
何なのだ?
何が起こっている?
………
まさか、浮遊魔法の制御が出来なくなっているのか?
いや、そんな事はない。
…………
それに今までそんな事は無かったじゃないか。
それに、浮遊魔法には制御も何も、発動にそんな要素は無かった。
………………
じゃぁ一体何なのだ?
何故浮遊魔法が思った様に発動しない?
……………………す。
意識が朦朧とする中。
必死に頭を回転させた。
…………………………してやる。
だが一向に答えは見つからない。
意識が朦朧としているせいで、思考もままならなくなって来た。
……………………ろす。
何だ?
何なのだ?
…………………………殺してやる。
やめろ!
今は駄目だ!
……………………殺す。
本当に。
この戦いには、大切な人達の命が――
…………………………この大量殺人鬼が。
だから!
やめてくれ!!
………………よくも!
ガーナ!!
俺の意識を侵食するんじゃない!
やめるんだ!!!
………………サージュを!!!
――――――――――
此奴は殺す。
完膚なきまでに。
腕を捥いで。
足を捥いで。
眼球を抉って。
グチャグチャにして。
皮を剥いで。
筋肉を削いで。
泣き叫んで。
懇願して。
地面をのたうち回る様。
それを見て高笑いしてやる。
嘲笑してやる。
無様だと。
惨めだなと。
散々俺を貶めやがって。
その奢り。
俺が今から粛清してやる。
俺はロゼの体を浮かせて、地面に叩きつけた。
死なない程度に。
はは!
鼻がひん曲がってやがる!
もう一回叩きつけた。
はは!!
鼻血が止まらないか?
…………あれ?
浮遊魔法ってどう使うんだっけ?
まぁ良いや。
俺は作用点をロゼに設置して。
作用点って何だ?
俺は何をしようとしていた?
解らない。
だが今は目の前の男を殺す。
それだけだ。
はは。
ははは。
はははははははははははははははははっ!!
なんて高揚感だ!
これが幸福か!
久しく忘れていた!
そうだ。
俺は幸せになりたかったんだ。
だからさぁ。
ロゼ。
俺の幸せの為に死んでくれよぉ。
なぁ。
なぁ。
なぁ!!
さっさと死ねよ!
糞野郎が!
そのままその顔を蹴り飛ばして。
誰か解らなくなるまで顔を変形させて。
次に腕を捥ぎ取って。
泣き叫ぶ顔の眼球を踏み潰して。
顎を折って。
そのまま外して。
引き千切ってしまおう。
あぁ。
どんな顔をするだろうなぁ。
泣き叫ぶのかなぁ?
それとも呆然とするのかなぁ?
その目に俺はどう映る?
まぁその目も、俺が今から潰してやるんだけど。
ははは!
思わず笑ってしまう!
散々俺を貶めやがって!
死ね。
「――――死ぬのはお前だ」
エルダの意識が遠のく中、エルダの足に触れていたロゼの手は、そっと離された。