表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】王子で平民な浮遊魔法師の世界放浪記  作者: terurun
第一章:エルレリア開村編
18/267

16:強くありたくて




 リリ死亡の噂は、瞬く間に村中に広まった。

 オーザックを守る為に死んだ。

 黄色人に殺された。

 内臓をもぎ取られた。

 正に惨殺。

 緑色人(ひと)を人と思っていない。

 この事件で、緑色人と黄色人の溝は深まり、完全に敵対する事になった。



 だが、一つの村が、魔法発展都市であるサルラス帝国の技術を超える事は出来ない。

 資源も無ければ、技術者も居ない。

 人手も無ければ、環境も無い。

 敵対したとはいえ、当然、いつもの様に惨殺されて終わりだった。

 武具の差である。




 そしてある日、クレリアに次女が産まれた。

 名は、ルリア・カートル。

 クレリアの妻と、夜な夜な考えた名だ。


 だが、出産時、クレリアの妻は亡くなった。

 ルリアは元気に産まれてきたが、妻は、その顔を見ることも、産声を聞くことも、抱き締めることも出来ずに、世を去ってしまったのである。

 クレリアに、喜んでいる余裕は無くなった。

 これからは、ルリアと、長女のラルノア・カートルの二人を、クレリア(男手)一つで養っていかなくてはいけない。

 クレリアは、酷く失意した。


 


 十歳になったオーザックは、いつも通り森に居た時、ある黄色人と出会った。

 オーザックは、背負っていた藁の籠を地面に置き、持っていた棒を、ブルブルと震える両手で必死に握り、構えた。

 するとその男は、鞄を地面に置き、上着を脱ぎ、半裸の状態で両手を上げた。

 オーザックは混乱したが、「危害を加えない」と言いたいのだと解釈した。

 そしてオーザックは、彼をほんの少し、信頼した。

 男の名は、ジュルカ・デラフト。

 なんでもその昔、オームル王国を拠点に旅商人をしていたそうで、人脈も広く、その知識量も辞書並みだった。

 ジュルカは、オーザックに聞いた。


「何か欲しい知識はあるかい?」


 森林の外の世界を知らないオーザックからしたら、あまり興味の無い問いであったが、オーザックは、こう答えた。


黄色人(にんげん)の殺しかた。」


 (リリ)の事で、オーザックは、黄色人を恨んでいた。

 復讐心が宿っていた。

 その答えに対してジュルカは言った。


「なら、これをあげるよ。」


 そう言って、馬鹿でかい鞄の中から、一本の剣を出した。

 鞘は古びていて、刃も、年季の入ったものだった。


「この剣は…………?」

「これはね、昔、オームル王国で殺された兵が使っていた剣だ。尤も、彼は兵になる前にこの世を去ったのだがね。」

「そうなんですね…………」


 オーザックが鞘を抜くと、その剣の柄の部分に、何か文字が刻印されてあった。

 だが、錆びていて読みにくい。


「ガー………………? なんて書いてるんですか?」

「さぁ。私にも分からん。何にせよ、それを受け取った時には、もう既にその状態だったからね。」

「は、はぁ………………」


 そしてジュルカは、近くにあった岩の上に座った。


「その剣の持ち主はね、オームル王国の皇后の夫だったんだよ。」

「それなら、その方も王様だったりするんですか?」

「いいや、ただの平民だったらしい。だから、王でも無いし、王にはなれない。」

「じゃぁ何でそんな身分差がある二人が結婚なんて…………」

「さぁ。私にも分からない。」


 そう言った後、ジュルカは、真剣な顔をして言った。


「もし此処に、エルダ・フレーラって奴が来たら、こう言っといてくれ。『()()()()()()()()()の事が知りたければ、ガルム諸島にこい。』と。」

「エルダ……って誰ですか?」


 オーザックのその問いに、ジュルカは答えなかった。





 次の日からオーザックは、ジュルカから剣の指導を受けた。

 旅商人の山賊対策で剣術を習っていたらしく、結構強いらしい。

 そんなジュルカに教われるのなら、自分の身は勿論、村を守る事だって可能なのかもしれない。

 オーザックは、期待した。

 そして、かつてない程の希望とやる気が、心の底から(みなぎ)った。





 五年後。

 オーザックも十五歳になり、剣の扱いも、ジュルカと対等にやりあえる程には成長した。

 村では、オーザックこそが村の守り神だと慕われていた。

 そしてその日も、いつも通り稽古かと思われた。



 朝起きて、いつも通りジュルカを起こしに行くと、そこにジュルカはいなかった。

 消えた。

 書き置きもメッセージも何も無い。

 突如姿を消した。


 オーザックは、「少し出かけただけだろう」と思い、暫く待ってみたが、一向に帰ってくる気配がない。

 何があったのか。

 どこに行ったのか。

 そんな情報は一切ない。


 オーザックとジュルカの別れは、突然だった。



 これは、オーザックの墓の前にいる今から、約八年前の話である。





 ジュルカが消えて、数日。

 久しぶりに村に帰ると、村を出る時には未だ幼かったクレリアの娘、ルリアが、もう立派な女性へと成長していた。

 その彼女を見た途端、オーザックは心を打たれた。

 そしてオーザックは瞬時にその気持ちの正体を判断した。

 それは、「恋」であった。

 今まで恋愛感情など抱いたことがなかったオーザックが、初めて恋愛感情を抱いた日である。


「久しぶり、ルリア。」

「もしかして………………オーザック?」


 五年ぶりの再会。オーザック、当時と比べると、流石に容姿も変わったのか。今のオーザックの容姿に確信が持てていない。


「あぁ、オーザックだ。久しぶりだな!」

「えぇ、そうね。」


 告白する勇気のないオーザックは、五年ぶりの村と、別嬪になったルリアとの再会を、素直に喜んだ。





 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ