転生魔法師の旅路録③
儂、一文無し。
何故かって?
財布を落としてきたのじゃ。
はっはっはっはぁ。
……はぁ。
笑い事じゃないんじゃよなぁ。
このままじゃ、ご飯も食えんで、帰る事も出来んで、最悪餓死。
マジでどうしよう…………
そう思って鞄を漁っていると、あった。
金になるもの。
はっとしながら儂は、それを鞄から取り出して眼前へ持ってくる。
オームル王国から出立する時に何故か持ってきていた小説。
オームル王国の歴史が、子供にも読みやすい様に書かれた本じゃ。
儂は別に読まんが、何となーく持ってきていた。
あの時の儂、ナイス。
儂は知っている。
この国、アルゾナ王国では、本は希少価値のとても高い高級品だって事を。
事実、そこら辺の本屋を覗いてみるが、その値は一般庶民が買える様なものではない。
というか、ここ本屋じゃなくて雑貨屋だ。
本屋なんて店、直ぐに潰れてしまうのだろう。
売れないのだから。
だから本を持っているって言うことは、その家が裕福である事を示していた。
アルゾナ王国の製本技術は、あまり進んでいない。
その上、製本用の紙があまり無いため、本の素材自体が高いのだ。
新聞などが出回ってはいるが、あくまでも新聞紙なので、本には使えない。
この国の本というのは、そういう事が絡んで高級品になっているのだと。
そして今儂が手に持っているのは、その貴重な本。
しかもこの国には無い本。
そりゃそうじゃ。
オームル王国の本じゃもん。
ここで持っている人が居たら逆に怖いよね。
持っている本。
高級品な本。
つ ま り 。
これを売ればまぁまぁなお金が手に入るって事だ!
そうと決まればさっさと売りに行くぞ!
って事で、はい。売ってきました。
選んだ店は、ギルシュグリッツの店の中で最も最多の本を取り扱っていた店。
そこで買取をお願いすると、預からせて欲しいと言って、儂の持っていた本を読み出した。
どうやら値段の決定方法というのは、保存状態は勿論、内容の面白さや、売れそうかどうかなど、店の感覚に頼った価格の決定法である。
だから、本などを売る場合は店を選ばないと、大損をする事となる。
……で、この店は良心的だった。
案の定儂の持ってきた本はアルゾナ王国内何処にも存在しない貴重な小説であるらしい。
オームル王国では出回り過ぎて品が余っている小説だが、それが唯一な物となると、値が釣り上がっていくのは当然。
って事で結果発表!
儂の持ってきていた本は…………
十万ギールで売れました!
はい。
初めは儂も目を疑いました。
でも、店主ははっきりとそう言ったのです。
「十万ギール」と。
やったぜ!
これで暫くは生きていける!
餓死する心配は無くなった!
良かったぁ。
儂は本気で胸を撫で下ろした。
あれ?
息抜きできた筈の旅行で死にかけてるんだ?
まぁいっか。
この時のジュルカは知らない。
彼の売った本が、王宮へと売られ、ある小さな女の子の愛読書になる事を。