転生魔法師の旅路録②
アルゾナ王国までは船で移動した。
大変じゃった。
だって、オームル王国とアルゾナ王国の国境には、高い壁が建てられているんじゃから。
なら、海岸から海を通って迂回するしか無かろう。
全く、面倒臭い事をしてくれたものじゃ。
そして儂はアルゾナ王国へと降り立った。
これから向かうのは、この国の首都、ギルシュグリッツ。
聞けば昔の中世欧州の様な街並みが広がっている。
……まぁ儂は、転生魔法のせいでどんな街なのかは知っているのじゃが。
そうだとしても、他人の目で見るのと自分の目で見るのとはまた違った趣がある。と思いたい。
そして儂は来た。
ギルシュグリッツに!
……綺麗な街じゃ。
嘗てのオームル王国を思い出すの。
昔のオームル王国も、綺麗な街じゃった。
だが、あの帝国のせいで全てが潰れた。
潰された。
嘗ての街並みも、そこにあった何もかもが、破壊され、蹂躙された。
思い出しただけでも吐き気がする。
いやいやいや。それは、今此処で考えることでは無い!
今は兎に角、観光を楽しもう!
とそんな所に、美味しそうなお菓子の出店が。
ふむ。クッキーっぽい焼き菓子じゃ。美味そう。
「プレーンを一つ」
「はい!」
此処はオーソドックスなプレーンクッキーで行こう。
此処で下手に別の味にしてしまって後悔するのは嫌だ。
「80ギールになります」
「はいはいはい………………」
財布は確かポケットに…………
あれ?!
無い!
無い!
無い!!
ポケットの中に財布が無い!
って思ったら、ポケットの底が破れておった。
なんてことじゃ。
「……すまん、財布を無くしてしもうて…………」
「は、はい。ま、またのお越しを…………」
少し狼狽えながら店員がそう言う。
気を遣わせてしもうたな。
こんな事なら財布も鞄の中に入れておけば良かった!
何でわざわざポケットに入れたんじゃぁ?!
はぁ。
今の儂は一文無し。
おまけにオームル王国にも帰れない。
ど、どうしよう………………