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【完結】王子で平民な浮遊魔法師の世界放浪記  作者: terurun
第一章:エルレリア開村編
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14:再建






  



「再建………………?」


 クレリアが、エルダの言葉に首を傾げた。


「そりゃぁ、今の状態で此処にいる全員に厳しい生活を強いても、結局、飢餓や、冬だと最悪凍死。熱中症。流行病。脱水症。明らかに生活環境が劣悪です。こんな中で生活しろと言われても、無理な話ですよ。」


 それを聞いて、クレリアを含む村民全員が、頭を悩ませた。

 村の再建は必須。それは皆分かっていた。だが、気が回らない。しかも、黄色人指導だなんて癪だ。

 そう考えているのが、エルダには丸わかりだった。

 だが、誰に何を言われようとも、その事実は変わらない。

 

「……そうだな。」

 

 クレリアが、少し俯きながら、そう言った。

 

「よーし皆んな!! あの黄色人(バカども)に潰された村を元に戻すぞ!!!」

 

 クレリアが突然、村民に向かってそう叫んだ。

 

「おぉぉぉぉぉ!!!」

 

 それに対して、緑色人の男共が、暑苦しい雄叫びをあげた。

 

「……全く。俺の言うことは聞かずとも、村長の言うことであれば聞く……か。」

 

 エルダが自分の立場を再認識し、それと同時に、クレリア(村長)の頼もしさを痛感した。



 クレリアのお陰で皆の士気が上がり、場が少し和んできた。

 笑顔もちらほら見える。希望が見えたからだろう。

 既に夜遅かったので、木陰ですやすやと眠る者も、チラホラと出てきた。

 

「エルダ…………殿。」

 

 突然、クレリアが話しかけてきた。

 

「呼び捨てで良いですよ。」

「分かりました。エルダ……こそ、敬語なんか使わなくても良いですよ。」

「そちらこそ、敬語なんか使わなくても大丈夫。」

「わ、分かった。」

 

 これで互いの距離が近付いたように感じたが、この話し方に慣れるには、時間がかかりそうだ。

 

「んでクレリア。なんで話しかけてきたんだ?」

「あ、そうそう。一度、今の村の状態を見ておきたくて。何にしろ無我夢中で逃げてきたもので、何処が村なのかが一切分からん。」

「成る程。オーザックの亡骸もそこにあるから、一緒に運ぼう。」

「……わかった。よろしく頼む。」

 

 エルダは、木に立てかけてあった鞄を持ち上げ、中から地図と方位磁針を取り出した。

 

「えーっと。地図によれば、此処から丁度東微南にまっすぐ行けば着けそうだな。距離も然程離れてないし。これなら数分で着ける。」

「分かった、ありがとう。」

 

 エルダは、地図と方位磁針を鞄に仕舞い、クレリアと共に、今は亡き村へと向かった。


 


 灰の匂いが場に立ち込め、赤い焔光が顔を照らすようになった。

 互いの顔が赤く光りながら、クレリアの額には冷や汗が見えた。

 クレリアも、今の村の状態を察したのか、足取りが覚束無い。

 自分の村を見るのが怖いのか、クレリアの頬にも、冷や汗がつーっと流れた。

 でもクレリアは、引き返す事なく、同じ歩速で歩き続けた。

 自分の目でちゃんと確認しておきたいのだろう。

 別に確認せずとも、別の場所に村を再建しても良い訳で。

 わざわざ確認するのも、村の最後を見届けるのも、村長としての責務なのだろう。


 


 目の前が炎に包まれた。

 いや、炎が大き過ぎて、そう錯覚しただけか。

 エルダが左を見ると、クレリアが膝を折って地面にへたっている。

 そりゃそうだ。

 さっきまであった自分の治めていた村が、突然火の海と化したのだから。

 悲しいと言うよりかは、虚無感、喪失感の方が大きいだろう。

 エルダは、そんなクレリアを憐れむ事しか出来なかった。

 そんな自分に、呆れた。



「……クレリア。」

 

 エルダが、暫くの沈黙の後、話しかけた。


「……?」

「頑張って、村を作り直そう。俺も手伝うからさ。」

「……………………あぁ。」


 元気の出そうな事を言ってみたが、心ここに在らずな状態のクレリアからしたら、ただの邪魔にしかなっていなかった。


 


 それから何分経っただろうか。

 瓦礫の崩れる音の絶えない中、クレリアは呆然とし、エルダは、そんなクレリアをじっと見つめた。

 あまりにも残酷であった。

 益々クレリアが可哀想に感じる。


「早く消えてくれよ……………………」

 

 クレリアが、小さな声でそう呟いたその時。村上空に、一滴の水が発生した。

 当然小さいので、エルダが気付く筈もなかったが、一定時間後、その水滴は突然、村を覆うように大きくなった。

 突然上空の光の進み方が変わる訳だから、当然エルダやクレリアもその水に気付き、只々困惑し、慌てた。


 そして次の瞬間。

 その宙に浮いた水全てが、炎の燃え盛る村へと降り注いだ。

 どぉぉぉん、と、水が地面に叩きつけられ、森の中に轟音が響いた。

 それで鎮火されない訳は無かった。

 空には、熱で蒸発した水蒸気や、鎮火された煙で、白い煙が雲のようになっていた。

 これにより、村を含む周辺敷地内全てが水浸しになった。

 当然、エルダやクレリアも、その範囲内にいた人物なので、びしょびしょに濡れているのは言うまでも無い。


 エルダは只々困惑した。

 突然上空に水が発生して、それが自分に降り注ぐのだから。

 何だ。

 誰の仕業か。

 それらが一切分からない。

 だが、炎が消えたのであれば、良かったのでは無いか。

 エルダはそう考える事にした。


 炎が消えた村の風景は、実に酷かった。

 建物と言える建物がひとつもなく、焦げ臭った木材が地面に重ねられ、地面を黒くし。

 その様子は、とても村とは呼べなかった。


「一体、何だったんだ……………………?」

 

 エルダは、村だった場所でそう呟くが、誰も答えはしなかった。






東微南=東と東南東の間

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